鷹の翼

那月

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暴君と傍観者

5P

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 おかげで斎藤の頬は高遠の赤い手形がくっきり。さらに、怯んだ隙に刀を振り下ろし彼の腕を深く斬りつける。

 まだ終わらない。反撃に出た斎藤の蹴りを同じく蹴りで迎え撃ち、力で勝つともう1度蹴りつけ、蹴った場所に深々と刀を突き刺した。

 高遠が刀を突き立てたのと同時に、斎藤は反撃に出ていた。予想外の行動。

 足を狙われるのは読んでいた。だから、足は諦めて攻撃に出た。上半身をグッと反らし、一気に突撃。斎藤一、人生初の頭突き。

 ゴツンッ!!と鈍い音を響かせ脳震とうを起こし目を回す、斎藤。おいおい、食らった高遠はケロリと平気な顔をしているぞ。

 いや、さすがに平気ではない。目を回さなかったが相当痛かったらしくさらに目つきが鋭くなった。

「いってぇなぁ!サムライ様が頭突きとかすんのかよ!けどヘッタクソだな、俺様が正しい頭突きのやり方を教えてやんよ、オラァッ!!」

 頭を振ってめまいから復活した斎藤の胸ぐらをつかみ、今度は高遠が思いっきり頭突き。

 ドゴンッ!!それはもう「ゴンッ!」ではなく「ドゴンッ!!」と表すにふさわしいほど、斎藤の頭突きとは比べ物にならないくらいの勢いと衝撃。

 これには剣豪の斎藤もたまらずまた目を回す、だけでなく完全に気絶。

 腕も足も負傷しているし、高遠が手を離すと彼の体は糸が切れてしまった操り人形のように崩れ落ちる。

「あぁ?なんだ、俺様には無理かもしれねぇって言われてちょっと警戒してたんだが。たかが頭突きくれぇで伸びちまうたぁ、斎藤一も大したことねぇなぁ!」

 倒れて動かなくなった斎藤を見下ろし、高遠は高らかに笑った。お前、2回もぶつけておいて額が赤くもなってないなんてとんだ石頭だな。

 ふだんからあちこち頭をぶつけまくっているせいか、頭突きに慣れているのか。剣術よりも、殴るよりも、蹴るよりも実は頭突きが1番得意らしい。

 戦う相手が発表された時。高遠は力量的に厳しい相手を割り振ったと黒鷹に申し訳なさそうに言われて、内心少しビビっていた。

 なにせ相当な手練れだという噂があるが、彼が実際に真剣に刀を振るう姿を見たことはない。噂だけの、実力が未知数の相手をするのは高遠だって緊張する。

 実際に戦ってみて、噂通りのやる気のなさにイライラした。全力で戦い合いたい。闘争心のない者と戦いたくない高遠は斎藤に刀を抜かせるためにとにかく攻撃し続けた。

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