鷹の翼

那月

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ねこねここねこねこ

8P

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 よく山崎の鍛錬相手をしていた松原だ。まだ、その茶色の瞳に映せている。動きを読んで猫丸の進行方向に立ちふさがると薙刀を振り上げる。

 猫丸の肩が、浅く裂けた。胸を狙ったはずなのに、大きな薙刀はどんどん速くなっていく彼を思うように捕らえられない。

 タッと地を蹴り姿を消した猫丸が次の瞬間姿を現したのは、松原が構え直した薙刀を持つ手の上。

 低く低く、身をかがめて一気に飛び出した彼は大きな口を開け、松原の太い首に噛みついた。瞳孔が猫のように細くなっている、まるで山猫の時のようだ。

「がっ!はっ…………どう、した?ひと思いに噛みちぎればよかろう。今の猫丸君ならば、できる。さぁ」

 松原の首筋に猫丸の、長い犬歯が深く突き刺さり血が流れる。しかしそれ以上は動かない。

 この好機を逃せば次はないと、猫丸にもそれは十分わかっているはずだ。早くしなければやられる。

 松原は痛みに体を震わせながらも、体中に猫達からの猛撃を受けながらも、短く持った薙刀を振り上げているのだから。

 ガッ!後ろを見ずに、猫丸はその薙刀を止めた。柄の部分を足で受け止め、プルプルしながらも必死に耐えている。

 しかし足だけでは、いや足だけでなくとも怪力を誇る松原の力強い押しにはそう長くは耐えられない。しかも、猫丸は彼の首に噛みついているのだ。どちらにも集中できない。

「あぁ、惜しい人材。惜しい命だが、ここまでだ。私は私のために猫丸君を葬らねばならん」

「ぐっ、うぅぅ……っ」

「せめて、猫に生まれ変わったならばそばに置いて可愛がってやろう。あく、うっ!では、さらばだ……鷹の翼の、猫丸君」

 もう松原は猫丸を息子のようには見ていない。敵でありながらの戦友。松原をここまで本気にさせた、その功労を称える。

 薙刀が猫丸との距離を縮めていく。飛びかかれば一気に薙刀が猫丸に襲いかかる、そうわかっているから猫達も手出しができない。

 もう、今度こそ終わりだ。これで決着がつく。猫丸1人と猫達だけでここまで松原を追い詰めたんだ、よくやったと拍手をしよう。

 猫丸はギュッと目を閉じ渾身の力でさらに噛み、松原の胸に爪を突き立てる。

 松原が薙刀の切っ先を猫丸の背中に突き立てたその時、2人の体からは血しぶきが舞い視界には影が差した。


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