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鴇のひとこえ
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しおりを挟む「そこまでだッ!!近藤、土方、刀を引け!」
突然の叫び声に近藤も土方もピタリと刀を止め、顔を上げる。死を覚悟した黒鷹と小紅も、声がした方に目を向けた。え、誰もいない?
地上からはしごをかけて登っている途中で叫んだのか、声の主が今やっと上まで上がって走ってきた。
額に大粒の汗をいくつも浮かべて「刀を納めよ!」とさらにきつく叫ぶ、彼の腰には1振りの刀。白い鞘に白い柄の刀だ。
そう、黒鷹の双子の弟の三上白鴇。小さくとも城の主である彼はここにいる誰よりも地位が高く、近藤と土方は渋々刀を納め黒鷹と小紅の上から退く。
自由になった黒鷹と小紅も、彼が発するただならぬ雰囲気に大人しく刀を鞘に納め1歩下がる。
「ここに、お上からの直筆の書状がある。はぁっ、はぁ、はぁ……そうだ。そ、そのまま聞け」
相当飛ばしてきたのだろう。手に握っている書状を掲げる白鴇は「ゼェハァゼェハァ」と荒い呼吸を繰り返し、4人が両手をつき首を垂れるのを確認する。
たとえ紙切れであろうと、この国の頂点に君臨する将軍の直筆の書状となればどんな場合であろうと中断しひれ伏さなければならない。
4人の体から血が流れ続けているのを考慮し、白鴇は急いで書状の内容を読み上げた。
失敗。慌てすぎて、表と裏、さらに上下も反対。「あっあっ」と書状を踊らせて正しく持つとチラッと4人を見た。赤くなった顔を隠すように書状を上げ咳払いをすると、改めて読み上げる。
鷹の翼、魅堂黒鷹による三上城、及び三上白鴇への襲撃の事実はなかった。よって、新選組に言い渡された鷹の翼の捕縛と屋敷の取り壊しは中止。
という内容だった。ちゃんと、直筆である証拠に最後に徳川慶喜の名前まで書かれてある。
4人は目を見開き開いた口が塞がらない。しかしこれが現実だ。これでもう、近藤率いる新選組が黒鷹率いる鷹の翼と戦う理由はなくなった。
新選組は、このまま戦闘を続ければ局中法度に背いたとされ切腹させられてしまう。まさに危機一髪。
それまで城の主らしく、お上からの勅命を受けた使者らしくきつい命令口調だったが。白鴇は呼吸を整えるとフッと肩の力を抜いた。
「僕がお上のところに出向いて、直談判してきたんだ。なかなか頑固だったけど、なんとか応じてくれたから。だから、近藤はこのまま新選組幹部達を連れて帰って。兄さんも――」
同時に顔を上げた、近藤と黒鷹の目が合った。2人は立ち上がり、近藤がスラリと抜いた刀を構える。
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