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異界召喚編
第一話 出生
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世界は腐っている、という人がいる。
あらゆる幸福は、あらゆる不幸の上に立っている、というものがいる。
人間が腐っていると言う人がいる。人だけではない。腐っているのは人間だけではない。モンスターや、天使、悪魔だと言う人もいる……。
少なくとも、彼が見てきた者は皆、腐っていた者ばかりだった。
麻薬密売人。陵辱癖のある男。拷問好きな女。殺人鬼。窃盗犯。反魔道士。反騎士。強姦魔……
無論、犯罪自慢等をしている訳ではない、と彼は語る。
犯罪など自慢したところで何も、自慢になどになりはしない、とも言う。
彼が言うには、悪とは意識的なものでなく、無意識的なものであるとも言う。
「あぁ、まぁ要は、この世にはあるんだよ。絶対悪が」
ブラッド・リ・ディアベルは足組みをしてそう語る──
◇
朝日が王都を覆った。
明るい日は、大きな宮殿を照らし、下にある小さな街街を照らしていた。
恵みの日光である。
王都の名は、ラディア。
ラディア国。
ラディア国は過去二千年の歴史がある、由緒ある国だ。
その宮殿内にて。
「ふむ、して、姫騎士はどこにおるかの?」
国王、ラーディール•イリヴァ。
「さぁ、わたくしも見ていませんわ」
姫、ラーディール•アロヴァ。
「…ふむ、彼女がおらんとのう」
彼女、とは、この国随一の騎士のことである。
かの大戦で大活躍した、英雄的存在だ。
その戦力は、他国としばしば争うラディア国にとっては、非常に大きなものであった。
ラディア国では、過去最強。
騎士戦においては、常に優勝。
姫騎士、アラエル•リ•ディアベル。
その戦力は、他国からは化け物と称され、魔物間では人の魔王と呼ばれる程であった。
「彼女には、自由を与えておる。あの戦力じゃし、いつでもここに駆けつけられるということを思ってな…しかし…」
ここ最近、国王はアラエルの姿を見ていなかった。
それは、異様な事態であった。
何故なら、彼女は、どんな大戦の最中でも、必ず一月に一度は国王のもとへ戻ってきていたのだ。しかし。
「むむぅ…」
「…帰って、きませんわね…」
姫、アロヴァとも、姫騎士アラエルは仲が良かった。
女性同士だから気があったのだろうか。
兎にも角にも、アロヴァもアラエルのことが心配だった。
「とにかく、わしらの兵士を以てして…」
そこで、急ぎの兵士が、門扉を開けて、国王の部屋へ、入ってきた。
それは、緊急、非常事態であった。
何故ならそんなことは、本来死刑になってもおかしくはないこと。
つまり、それほどの緊急事態、内容ということだ。
「…なんじゃ」
「あ、アラエル様が…!あの…アラエル様が…!」
それは、無残な姿であった。
残虐極まりない。
服は破れ、殆どない。
特に、女性としての性的部分。
そこが重点的に引きちぎられている。
体は殴打されて跡が残っている。が、殆どないようなものだ。
この国で彼女に傷をつけることが出来る人間はそうそういない。
そして、何より、その目が、
「生気が…ない」
死んでいる訳ではない。
しかし、目は死んでいた。
そこは。
スラム街の真ん中であった。
◇
姫騎士アラエルは、その日非番であった。
「ふーむ」
この国は、貧富の差が他国よりも小さい。
とはいえ、もちろんスラム街が存在する。とても小さいが。
「そうだ」
アラエルは、そこへ行き、スラム街で無償の食料配給でもしようと考えた。
国王からは自由を与えられている。
つまり、この国で彼女は最も自由なのだ。
「…よしよし…と」
食料を袋へ詰め、アラエルは彼女はスラム街へと足を進めた。
「…ん、ん」
歩を進め、スラム街にて。
最も人口が多い場所へ来る。
「みなさんー、食料配給ですよー!」
アラエルは伝える。
そうして、その声から、縋るようにぞろぞろと人が集まってくる。
そうして、温かいスープなどを配給する。
「…ありがとう…ありがとう嬢ちゃん…」
涙を流し、崇拝する者さえいた。
少なくとも、そこにいた者はみな彼女のことをよく思った。
そうして、気付けば。
夜になっていた。
このとき、それは起こった。
まず、不運なことが一つ。
彼女は見た目が非常に麗しく、美人であり、スタイルも良かったため、襲われやすかった。
しかし、普通スラム街の人々でもそんなことを白昼堂々はしない。
夜であり、視界が暗くどのような人か認識がつけづらかった。
これが大きいだろう。
二つ目に、アラエルは非常に優しかった。
その優しさは、度を過ぎていた。
戦場においては不敗。
たしかに敵に対しては強いかもしれない。
しかし、自国の民には優しくなる。それがアラエル。
その夜。
暗黒の中、彼女は攫われ、そして…
「…子を身ごもった!?」
国王は驚きを隠すとか、隠さないとか、そういうことではなくて、純粋に、驚いた。不自然であり、違和感を感じもした。
そして、アラエルはそれにより、誰ともわからぬ者の子を授かった。
中絶という手もあるだろう。
だがしかし、
アラエル自身がそれを拒んだ。
「この子には…なんの罪もない…だから…せめて」
幸せに生きて、と。
国王は、アラエルを退職させた。
それは、彼女を気遣ったからかもしれない。
これから一人で子を育てていかなければいけない。
彼女は隠居し、遥か遠くへ住むだろう。
それは茨の道だろうが、しかし。
「ラディア最強の騎士ならば…」
精神的ダメージは大きくても、大丈夫だろう、と。
そうして、子供は生まれた。
男の子だった。
名前を、つけた。
「…私の、苗字だと…名前は血筋がバレてしまうから…そうね…全く変えてしまいましょう…」
姫騎士アラエルは、その子に名前をつけた。
「ブラッド…ブラッドなんていいわね…」
そうして、ここに、赤子ブラッドが誕生した。
◇
「──とまぁ、ここまで聞いてきたと思うんだが、ちょっと変だろ?」
「変?」
「あぁ。なんで、最強、誰にも負けないような女が少し攫われたくらいで犯されるんだ?不自然極まりないだろ。というか、有り得ない」
「まぁ、確かに」
「だから、俺はこれが意図的だったと思うんだ」
「意図的?しかし何のためにですか…?」
「あ?そりゃー……」
◇
姫騎士アラエルは、じつはひっそりと恋をしていた。
が、彼女とその男、つまりはブラッドの父親とは、身分差があった。
それ故に、アラエルはそのようなフリをして子を身篭ったのだ。
ブラッドの父親の名は、ヴァイス・ルドアリア。
後の、天上人ヴァイスの父親である。
あらゆる幸福は、あらゆる不幸の上に立っている、というものがいる。
人間が腐っていると言う人がいる。人だけではない。腐っているのは人間だけではない。モンスターや、天使、悪魔だと言う人もいる……。
少なくとも、彼が見てきた者は皆、腐っていた者ばかりだった。
麻薬密売人。陵辱癖のある男。拷問好きな女。殺人鬼。窃盗犯。反魔道士。反騎士。強姦魔……
無論、犯罪自慢等をしている訳ではない、と彼は語る。
犯罪など自慢したところで何も、自慢になどになりはしない、とも言う。
彼が言うには、悪とは意識的なものでなく、無意識的なものであるとも言う。
「あぁ、まぁ要は、この世にはあるんだよ。絶対悪が」
ブラッド・リ・ディアベルは足組みをしてそう語る──
◇
朝日が王都を覆った。
明るい日は、大きな宮殿を照らし、下にある小さな街街を照らしていた。
恵みの日光である。
王都の名は、ラディア。
ラディア国。
ラディア国は過去二千年の歴史がある、由緒ある国だ。
その宮殿内にて。
「ふむ、して、姫騎士はどこにおるかの?」
国王、ラーディール•イリヴァ。
「さぁ、わたくしも見ていませんわ」
姫、ラーディール•アロヴァ。
「…ふむ、彼女がおらんとのう」
彼女、とは、この国随一の騎士のことである。
かの大戦で大活躍した、英雄的存在だ。
その戦力は、他国としばしば争うラディア国にとっては、非常に大きなものであった。
ラディア国では、過去最強。
騎士戦においては、常に優勝。
姫騎士、アラエル•リ•ディアベル。
その戦力は、他国からは化け物と称され、魔物間では人の魔王と呼ばれる程であった。
「彼女には、自由を与えておる。あの戦力じゃし、いつでもここに駆けつけられるということを思ってな…しかし…」
ここ最近、国王はアラエルの姿を見ていなかった。
それは、異様な事態であった。
何故なら、彼女は、どんな大戦の最中でも、必ず一月に一度は国王のもとへ戻ってきていたのだ。しかし。
「むむぅ…」
「…帰って、きませんわね…」
姫、アロヴァとも、姫騎士アラエルは仲が良かった。
女性同士だから気があったのだろうか。
兎にも角にも、アロヴァもアラエルのことが心配だった。
「とにかく、わしらの兵士を以てして…」
そこで、急ぎの兵士が、門扉を開けて、国王の部屋へ、入ってきた。
それは、緊急、非常事態であった。
何故ならそんなことは、本来死刑になってもおかしくはないこと。
つまり、それほどの緊急事態、内容ということだ。
「…なんじゃ」
「あ、アラエル様が…!あの…アラエル様が…!」
それは、無残な姿であった。
残虐極まりない。
服は破れ、殆どない。
特に、女性としての性的部分。
そこが重点的に引きちぎられている。
体は殴打されて跡が残っている。が、殆どないようなものだ。
この国で彼女に傷をつけることが出来る人間はそうそういない。
そして、何より、その目が、
「生気が…ない」
死んでいる訳ではない。
しかし、目は死んでいた。
そこは。
スラム街の真ん中であった。
◇
姫騎士アラエルは、その日非番であった。
「ふーむ」
この国は、貧富の差が他国よりも小さい。
とはいえ、もちろんスラム街が存在する。とても小さいが。
「そうだ」
アラエルは、そこへ行き、スラム街で無償の食料配給でもしようと考えた。
国王からは自由を与えられている。
つまり、この国で彼女は最も自由なのだ。
「…よしよし…と」
食料を袋へ詰め、アラエルは彼女はスラム街へと足を進めた。
「…ん、ん」
歩を進め、スラム街にて。
最も人口が多い場所へ来る。
「みなさんー、食料配給ですよー!」
アラエルは伝える。
そうして、その声から、縋るようにぞろぞろと人が集まってくる。
そうして、温かいスープなどを配給する。
「…ありがとう…ありがとう嬢ちゃん…」
涙を流し、崇拝する者さえいた。
少なくとも、そこにいた者はみな彼女のことをよく思った。
そうして、気付けば。
夜になっていた。
このとき、それは起こった。
まず、不運なことが一つ。
彼女は見た目が非常に麗しく、美人であり、スタイルも良かったため、襲われやすかった。
しかし、普通スラム街の人々でもそんなことを白昼堂々はしない。
夜であり、視界が暗くどのような人か認識がつけづらかった。
これが大きいだろう。
二つ目に、アラエルは非常に優しかった。
その優しさは、度を過ぎていた。
戦場においては不敗。
たしかに敵に対しては強いかもしれない。
しかし、自国の民には優しくなる。それがアラエル。
その夜。
暗黒の中、彼女は攫われ、そして…
「…子を身ごもった!?」
国王は驚きを隠すとか、隠さないとか、そういうことではなくて、純粋に、驚いた。不自然であり、違和感を感じもした。
そして、アラエルはそれにより、誰ともわからぬ者の子を授かった。
中絶という手もあるだろう。
だがしかし、
アラエル自身がそれを拒んだ。
「この子には…なんの罪もない…だから…せめて」
幸せに生きて、と。
国王は、アラエルを退職させた。
それは、彼女を気遣ったからかもしれない。
これから一人で子を育てていかなければいけない。
彼女は隠居し、遥か遠くへ住むだろう。
それは茨の道だろうが、しかし。
「ラディア最強の騎士ならば…」
精神的ダメージは大きくても、大丈夫だろう、と。
そうして、子供は生まれた。
男の子だった。
名前を、つけた。
「…私の、苗字だと…名前は血筋がバレてしまうから…そうね…全く変えてしまいましょう…」
姫騎士アラエルは、その子に名前をつけた。
「ブラッド…ブラッドなんていいわね…」
そうして、ここに、赤子ブラッドが誕生した。
◇
「──とまぁ、ここまで聞いてきたと思うんだが、ちょっと変だろ?」
「変?」
「あぁ。なんで、最強、誰にも負けないような女が少し攫われたくらいで犯されるんだ?不自然極まりないだろ。というか、有り得ない」
「まぁ、確かに」
「だから、俺はこれが意図的だったと思うんだ」
「意図的?しかし何のためにですか…?」
「あ?そりゃー……」
◇
姫騎士アラエルは、じつはひっそりと恋をしていた。
が、彼女とその男、つまりはブラッドの父親とは、身分差があった。
それ故に、アラエルはそのようなフリをして子を身篭ったのだ。
ブラッドの父親の名は、ヴァイス・ルドアリア。
後の、天上人ヴァイスの父親である。
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