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しおりを挟む「湯沢、大丈夫か? 今、ソタイのみんなを呼んだ。もう少し辛抱してくれ」
市民を物陰に退避させ、上司と同僚へ連絡を入れると、光彦は周囲を警戒しながら、街路樹の影に隠れた幸篤に駆け寄った。
顔は青白いのに、顔中から汗をとめどなく流す幸篤の肩には、止血をしようとしたのか、ネクタイが肩にかかっていた。
「ああ、分かった。悪いが、肩を縛って、抑えててくれ」
「悪いわけないだろう? 強く押さえつけるぞ」
光彦は太い血管を押さえつけるようにして、かかったネクタイを思いきり引き絞り、銃弾が貫通した部分を押さえつけた。
「……っ! 思いっきりやりやがって……」
「だから、ちゃんと予告しただろうが」
痛みに顔を歪め、弱弱しく悪態を吐く幸篤をちゃかし、笑いかけながら、光彦は震えて、力のぬけそうになる自分の体を叱咤していた。
生温かい液体が、手のひらと指を濡らす。
湯沢の血だ。
液体が漏れ出していくごとに、湯沢の顔色は悪くなり、体が冷たくなっていく。
それが、恐ろしくて、しかたがなかった。
しっかりしろ、震えている場合じゃないだろう。
湯沢を助けられるのは、俺だけなんだ。
絶対に、相棒を死なせるものか!
決意を込めるように、高田は手の力を強める。
すると、その手に、赤く濡れた手が重ねられた。
その冷たさに、恐怖を煽られて、高田は体を震わせた。
「高田、俺、お前に、伝えておきたいことがあるんだ」
「馬鹿野郎、伝えておきたいなんて、そんなこと言うな!
弱気になるんじゃない!」
まるで、今わの際の言葉を遺そうとするような湯沢の行動と言葉に、高田は震えを抑えることができなかった。
声を震わせながら、怒鳴りつけてくる高田に、湯沢は力なく笑いかけた。
「馬鹿野郎は、お前だ。伝えられずに死んだら、後悔も出来ねぇじゃねえか、そんなのごめんだ。それに、言ったからには、返事をもらわないとならないから、死ぬつもりなんてねぇよ」
励まされている。
痛みに耐えて、自分の死の恐怖と間近で戦っている湯沢が。
それは、自分がやらなければならないことなのに。
しっかりしろ、俺、高田を助けるって、決めただろう。
自分の情けなさに歯噛みしながら、必死で震えを抑え込み、
浅くしか出来なくなっていた息を整える。
「………なんだ。何を伝えたいんだ?」
「俺、お前が、好きだ」
その告白は、鼓動のように、高田の胸に響いた。
静かでありながら、確かだった。
「……お前、こんなときに、冗談、言うわけないよな……」
「ごめん、な」
できることなら、こんなときに、言いたくはなかった。
こんな卑怯な真似をしたくなかった。
優しい彼は、きっと、こんなことを言ったら、自分のことを否定しないだろう。
でも、この気持ちを言えなくなってしまうかもしれない。自分と一緒に消えてしまうかもしれない。
そう思ったら、言わずにはいられなかった。
「謝んな、俺、お前の気持ちちゃんと受け取ったから、ちゃんと返事するから、だから、絶対死ぬなよ」
「うん」
高田、お前は本当に優しいよな。
だから、俺は人間に戻れたんだ。
だから、俺は踏みとどまることができたんだ。
だから、お前に拒絶しないかぎり、俺は……。
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