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捜査中、湯沢が入院している病院の近くに通りかかった高田は、湯沢の様子が気になり、様子を見に行くことにした。
個室部屋を訪ねて扉の前へ行くと、中から荒げられた湯沢の声が聞こえてきた。
「おい、やめろと言っているだろう!」
まさか、また襲撃をされているのか!?
光彦が慌てて扉を開けて、中へ入ると、黒髪の男が上半身の服を脱がされた裸の湯沢に迫っているところだった。
「お前、何をしている!?」
「おう?」
男を押しのけ、湯沢を庇うようにして、二人の間に入る。
押しのけたられた男は、「乱暴だなぁ」と言いながらも、ニヤついた笑みを顔に浮かべていた。
「僕は、幸篤の体を拭こうとしていただけですよ。その肩じゃ、自分で体を拭くなんて、無理でしょう?」
「今は、とにかく動かすなと言われているんだ。というか、お前は完治した後も俺に近づくな」
男を睨みつけながら言った後、湯沢は高田に「助かった」と礼を言って、ため息を吐いた。
「はじめまして、俺は坂城 佐助。幸篤の恋人です」
黒髪の男の勝手な自己紹介の最後の部分を、湯沢は即否定した。
「違う! 勘違いしないでくれ、高田。これは、このサイコ野郎が勝手に言っているだけだ!」
「あ、ああ……!?」
自分を庇う高田のスーツを掴みながら、訴える湯沢に、高田が意識を向けた瞬間だった。
「ああ、高田光彦さんかぁ……はじめまして」
目の前に、坂城が移動してきていた。
切れ長の瞳の中の髪と同じ黒い瞳は、高田のことを値踏みするように見ていた。
「坂城さん。お会いするのは、はじめて、ですよね?」
高田が確認するように尋ねると、坂城の目尻がひくりと動いた。
「……ああ、そう、だね」
「光彦さん。お邪魔みたいですし、早く行きましょう」
捜査に同行していた守が、今度は高田を庇うように前へ出て、退室を促すと、湯沢が首を振った。
「いや、光彦、話がしたい。消えろ坂城」
「恋人を邪見にしてはいけませんよ。先輩」
「違うと、言っているだろう。俺が好きなのは、この高田だ。告白の返事をもらうために、二人きりになりたいから、お前は出ていけ」
「……は?」
湯沢の命令に、守は短い単語にすらなっていない声をあげ、聞き返していた。
「待ってください。今、告白って、言いました? は? 貴方、てるおにいちゃんに告白をしたって、言いました? は? なにそれ、聞いてないんですけど……?」
「いや、僕を見られても困るんだけど?」
瞳をむき出しながら、目の前にいる自分を睨みつけてくる守に、坂城が困ったように八の字に曲げてみせる。
が、唇は綺麗な弧を描いたまま、タオルを握っていない方の手で、守越しに高田を指していた。
その指さしに従うように守はくるりと体を回転させて、高田に視線を向ける。
「てるおにいちゃん。僕、てるおにいちゃんが好きです!」
そして、告白をした。
「え?」
「……なるほどな」
高田は驚き、湯沢は納得したように頷く。
「てるおにいちゃん。僕は、今までも、これからも、ずっと、貴方のことが好きです」
幼いころから弟のように思っていた相手からの告白に、困惑していた高田だったが、守の真剣な様子に、彼が本気であることを理解すると、表情を真剣なものに変えた。
「分かった。お前の気持ちは受け取った」
「あはぁ、さっすが刑事さん。ああ、幸篤のことは、遠慮なく、ふってもらって構わないですよ。俺が、しっかりアフターケアしてあげますから」
湯沢は茶化す坂城に、舌打ちし、再び鋭い視線を送った。
「面白そうな顔しやがって、さっさと出て行け」
「こんな面白そうなこと、放っておけるわけないでしょ? それで、どっちを選ぶんですか? ああ、もしかして、今日は、幸篤からの告白を断ろうと思っていたんですか? だったら、それを言うだけでもかまいませんよ?」
「やめてください」
静かで落ち着いた声が部屋の中に響いた。
その声は、湯沢でも止めることのできなかった坂城の口を止めた。
高田は守の前へ、坂城と対峙するように歩み出ると、視線を合わせた。
「湯沢は本気で俺のことを好きだって、言ってくれたんです。そんな人の気持ちを、楽しいとか、そういう風に言わないでください。出て行ってください。今すぐに」
高田の言葉を受けると、坂城の顔からにやけた笑いが剥がれ落ちるように消えていく。
唇で描いていた弧が一直線に引き結ばれ、切れ長の黒い瞳が高田を冷徹に見つめ返した。
「……やだ。だって、俺は、これでも真剣で、本当に、幸篤のことが、好きなんだもん。だから、今、ここで決めてよ。幸篤か、その彼か」
個室部屋を訪ねて扉の前へ行くと、中から荒げられた湯沢の声が聞こえてきた。
「おい、やめろと言っているだろう!」
まさか、また襲撃をされているのか!?
光彦が慌てて扉を開けて、中へ入ると、黒髪の男が上半身の服を脱がされた裸の湯沢に迫っているところだった。
「お前、何をしている!?」
「おう?」
男を押しのけ、湯沢を庇うようにして、二人の間に入る。
押しのけたられた男は、「乱暴だなぁ」と言いながらも、ニヤついた笑みを顔に浮かべていた。
「僕は、幸篤の体を拭こうとしていただけですよ。その肩じゃ、自分で体を拭くなんて、無理でしょう?」
「今は、とにかく動かすなと言われているんだ。というか、お前は完治した後も俺に近づくな」
男を睨みつけながら言った後、湯沢は高田に「助かった」と礼を言って、ため息を吐いた。
「はじめまして、俺は坂城 佐助。幸篤の恋人です」
黒髪の男の勝手な自己紹介の最後の部分を、湯沢は即否定した。
「違う! 勘違いしないでくれ、高田。これは、このサイコ野郎が勝手に言っているだけだ!」
「あ、ああ……!?」
自分を庇う高田のスーツを掴みながら、訴える湯沢に、高田が意識を向けた瞬間だった。
「ああ、高田光彦さんかぁ……はじめまして」
目の前に、坂城が移動してきていた。
切れ長の瞳の中の髪と同じ黒い瞳は、高田のことを値踏みするように見ていた。
「坂城さん。お会いするのは、はじめて、ですよね?」
高田が確認するように尋ねると、坂城の目尻がひくりと動いた。
「……ああ、そう、だね」
「光彦さん。お邪魔みたいですし、早く行きましょう」
捜査に同行していた守が、今度は高田を庇うように前へ出て、退室を促すと、湯沢が首を振った。
「いや、光彦、話がしたい。消えろ坂城」
「恋人を邪見にしてはいけませんよ。先輩」
「違うと、言っているだろう。俺が好きなのは、この高田だ。告白の返事をもらうために、二人きりになりたいから、お前は出ていけ」
「……は?」
湯沢の命令に、守は短い単語にすらなっていない声をあげ、聞き返していた。
「待ってください。今、告白って、言いました? は? 貴方、てるおにいちゃんに告白をしたって、言いました? は? なにそれ、聞いてないんですけど……?」
「いや、僕を見られても困るんだけど?」
瞳をむき出しながら、目の前にいる自分を睨みつけてくる守に、坂城が困ったように八の字に曲げてみせる。
が、唇は綺麗な弧を描いたまま、タオルを握っていない方の手で、守越しに高田を指していた。
その指さしに従うように守はくるりと体を回転させて、高田に視線を向ける。
「てるおにいちゃん。僕、てるおにいちゃんが好きです!」
そして、告白をした。
「え?」
「……なるほどな」
高田は驚き、湯沢は納得したように頷く。
「てるおにいちゃん。僕は、今までも、これからも、ずっと、貴方のことが好きです」
幼いころから弟のように思っていた相手からの告白に、困惑していた高田だったが、守の真剣な様子に、彼が本気であることを理解すると、表情を真剣なものに変えた。
「分かった。お前の気持ちは受け取った」
「あはぁ、さっすが刑事さん。ああ、幸篤のことは、遠慮なく、ふってもらって構わないですよ。俺が、しっかりアフターケアしてあげますから」
湯沢は茶化す坂城に、舌打ちし、再び鋭い視線を送った。
「面白そうな顔しやがって、さっさと出て行け」
「こんな面白そうなこと、放っておけるわけないでしょ? それで、どっちを選ぶんですか? ああ、もしかして、今日は、幸篤からの告白を断ろうと思っていたんですか? だったら、それを言うだけでもかまいませんよ?」
「やめてください」
静かで落ち着いた声が部屋の中に響いた。
その声は、湯沢でも止めることのできなかった坂城の口を止めた。
高田は守の前へ、坂城と対峙するように歩み出ると、視線を合わせた。
「湯沢は本気で俺のことを好きだって、言ってくれたんです。そんな人の気持ちを、楽しいとか、そういう風に言わないでください。出て行ってください。今すぐに」
高田の言葉を受けると、坂城の顔からにやけた笑いが剥がれ落ちるように消えていく。
唇で描いていた弧が一直線に引き結ばれ、切れ長の黒い瞳が高田を冷徹に見つめ返した。
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