5 / 9
05
しおりを挟む
守を見つめながら、高田は柔らかに表情をゆるめた。
「守、そういう風に笑えるようになったんだな」
「え?」
「俺と一緒にいるとき、いつも守は、泣くのを我慢するような顔をしていたから」
「それは、その、どういう顔をすれば良いのか、分からなくて……でも、本当に、嬉しかったんだよ!?」
焦った様子で、昔にしていたような口調で、昔の自分の気持ちを伝えてくる守に、高田は笑いかけて、頷いた。
「分かっているよ。たださ、お前が、そういう風に笑えるようになった人と出会えたっていうのが、嬉しいんだ」
「……てるおにいちゃん」
「今日、何か食べに行くか? 奢らせてもらうぞ?」
結果的に、上司の思惑通りになってしまったが、今はその思惑がありがたかった。
「あの、だったら、てるおにいちゃんのオムライスが食べたい!」
「え? そんなので、良いのか?」
「そんなのなんてものじゃないよ! 僕にとって、すごく大事なものなのなんだ」
「分かった。それじゃあ、今日は泊まって行くか?」
「え、あ、……うん!」
答えた後で、守は、高田から視線を逸らしながら、尋ねてきた。
「……まだ、あの家に住んでいるの?」
「いや、今は、親戚が住んでいるんだ。俺はマンションで一人暮らしだ」
「……そう、なんだ」
聞いた後で、肩を落とした様子の守に、今度は高田が訪ねる。
「あの家に、行きたかったか?」
「ううん……いや、うん」
遠慮がちに高田の言葉を否定した後、守はそれを否定した。
あの家で過ごした時間は、守にとって本当に大切で、幸せなものだったからだ。
できることなら、またあそこへ帰りたいと思うほどに。
その気持ちを高田も察していた。
できることであれば、光彦も、家族と暮らした家を手放したくはなかった。
しかし、母亡き後、父方の親戚たちに、まだ成人をしていなかった若い光彦が、一人で一軒家に住むのは、管理が大変だろうから、自分たちが管理をしてやろうと、家にやってきて住みつかれ、高田が警察学校に入学し、寮へ入ることになると、高田は完全に自分の実家を追い出されてしまった。
「そうか、ごめんな」
「ううん。あのさ、てるおにいちゃん。あの家に帰れない代わりに……」
申し訳なさそうに謝る光彦に、守は遠慮がちに言う。
「うん?」
「手をつないで、もらっても、良い?」
「え?」
守から想像していなかった頼みを受け、光彦が間の抜けた声をあげる。
すると、守は悲しげに顔を伏せてみせた。
「やっぱり、だめだよね? もう大人だし、なんか、てるおにいちゃんにまた会えて、こうやって道を歩いていたら、昔に戻ったみたいで、懐かしくてつい……」
「ごめんね。変なこと言って……」と、いう守の言葉を受け、ると、光彦は表情を真剣なものに変えた。
「ちょっと、待ってくれ……」
そして、周りを見まわし、人影がいないことを確認すると、守の手をとり、その上に脱いだ自分の上着を被せた。
「これでも、良いか?」
「うん……!」
「今日、だけだからな」
「うん、ありがとう……」
「守、そういう風に笑えるようになったんだな」
「え?」
「俺と一緒にいるとき、いつも守は、泣くのを我慢するような顔をしていたから」
「それは、その、どういう顔をすれば良いのか、分からなくて……でも、本当に、嬉しかったんだよ!?」
焦った様子で、昔にしていたような口調で、昔の自分の気持ちを伝えてくる守に、高田は笑いかけて、頷いた。
「分かっているよ。たださ、お前が、そういう風に笑えるようになった人と出会えたっていうのが、嬉しいんだ」
「……てるおにいちゃん」
「今日、何か食べに行くか? 奢らせてもらうぞ?」
結果的に、上司の思惑通りになってしまったが、今はその思惑がありがたかった。
「あの、だったら、てるおにいちゃんのオムライスが食べたい!」
「え? そんなので、良いのか?」
「そんなのなんてものじゃないよ! 僕にとって、すごく大事なものなのなんだ」
「分かった。それじゃあ、今日は泊まって行くか?」
「え、あ、……うん!」
答えた後で、守は、高田から視線を逸らしながら、尋ねてきた。
「……まだ、あの家に住んでいるの?」
「いや、今は、親戚が住んでいるんだ。俺はマンションで一人暮らしだ」
「……そう、なんだ」
聞いた後で、肩を落とした様子の守に、今度は高田が訪ねる。
「あの家に、行きたかったか?」
「ううん……いや、うん」
遠慮がちに高田の言葉を否定した後、守はそれを否定した。
あの家で過ごした時間は、守にとって本当に大切で、幸せなものだったからだ。
できることなら、またあそこへ帰りたいと思うほどに。
その気持ちを高田も察していた。
できることであれば、光彦も、家族と暮らした家を手放したくはなかった。
しかし、母亡き後、父方の親戚たちに、まだ成人をしていなかった若い光彦が、一人で一軒家に住むのは、管理が大変だろうから、自分たちが管理をしてやろうと、家にやってきて住みつかれ、高田が警察学校に入学し、寮へ入ることになると、高田は完全に自分の実家を追い出されてしまった。
「そうか、ごめんな」
「ううん。あのさ、てるおにいちゃん。あの家に帰れない代わりに……」
申し訳なさそうに謝る光彦に、守は遠慮がちに言う。
「うん?」
「手をつないで、もらっても、良い?」
「え?」
守から想像していなかった頼みを受け、光彦が間の抜けた声をあげる。
すると、守は悲しげに顔を伏せてみせた。
「やっぱり、だめだよね? もう大人だし、なんか、てるおにいちゃんにまた会えて、こうやって道を歩いていたら、昔に戻ったみたいで、懐かしくてつい……」
「ごめんね。変なこと言って……」と、いう守の言葉を受け、ると、光彦は表情を真剣なものに変えた。
「ちょっと、待ってくれ……」
そして、周りを見まわし、人影がいないことを確認すると、守の手をとり、その上に脱いだ自分の上着を被せた。
「これでも、良いか?」
「うん……!」
「今日、だけだからな」
「うん、ありがとう……」
0
あなたにおすすめの小説
寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
【2025/11/15追記】
一年半ぶりに続編書きました。第二話として掲載しておきます。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる