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【1】吸血鬼令嬢に転生しました。
4.お父様とのひとときと「行ってきます」
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着替えが済むと、ベッドに腰かけた私の足に、アーノルドが靴を履かせ、跪いて靴紐を結んでくれる。それくらい自分でやるわよ、と思ったけど、ただでさえ不審がられているので、今まで通りにやってもらうことにする。本当に至れり尽くせりね。
「すぐに出発されますか?」
「そうするわ」
アーノルドが立ち上がって、私に手を差し出してくれたので、その手を取って、ベッドから降りる。彼は≪恋人≫のコーデリアの頬にキスをして言った。
「コーデリア、お嬢様に馬車の手配を」
廊下を通り、階段を降り、広間へ行く。落ち着いた焦げ茶色の、レンガ造りの豪勢な屋敷だ。足元にはワインレッドの高級そうな絨毯が引いてある。
広間では、お父さまがグラスに入った赤い液体を飲んでいた。
血じゃなくて、赤ワインね。私たち吸血鬼は、一応人間の食事も食べれる。栄養にならないし、味覚が人間と異なっているので、味をほとんど感じないんだけど。赤ワインだけは見た目が血のようだからかは、わからないけれど、不思議と味がしっかり感じられるので、嗜好品としてよく飲むのだ。
「カミラ、体調は大丈夫かい」
私に気がついたお父様――グレッグ=ルゼット――が私に駆け寄ってきた。白髪交じりの黒髪をしっかりセットして、口元に髭をたくわえた、大柄でスーツの似合う、おじさま好きにはたまらない、40代くらいの紳士。
彼こそ、吸血鬼一家ルゼット家の家長で、荒れた吸血鬼生活を送っていた私を更生させ、穏やかな生活へ導いてくれた人物。
「ぜんぜん平気よ、お父様。アーノルドが血をくれたから」
私はお父様に笑いかけた。
お母様は、ちょうど100年前、私たちがこの王国に関わる前、吸血鬼狩りでハンターに襲われて殺されてしまった。
ベネッタ=ルゼット、きれいな金髪の美しい女性だった。子どもが好きで、何人もの人間の孤児を育てていた優しい吸血鬼。彼女を失って、お父様は放浪の生活を辞め、私たちにとって安息の地を作ること決意したのだ。
「これから≪月夜宮≫へ行ってくるわ」
お父様が意外そうな顔をする。
「お前が祭りを見に行くなんて」
私、カミラは過去の出来事から人間不信で、身内の吸血鬼に過大な愛情を抱いている。それが原因でルシアを殺そうとするんだけどね。——だから、今までの私だったら、自分から人間のお祭りにわざわざ出かけたりしないけど。今の私は、前世の人間の記憶を持っているから、別に人間を目の敵にしたりはしない。
「たまには、楽しいお祭りに参加したいわ、私だって」
にっこり笑うと、お父様は「そうか、気をつけて行っておいで」と笑った。
屋敷の玄関を出ると、霧がかかった広い庭が現れる。
空を見上げると雲がかかっていて、ぼんやりと太陽の光が透けているだけだ。
≪霧の王国≫の異名のとおり、この国、特に王都は年から年中霧が立ち込めていて、曇り空。からっと晴れる日なんてない。
私たち吸血鬼は暑さと太陽光が苦手だ。そのため、この国の気候はとても過ごしやすい。
ひんやりとした湿り気のある空気がとっても気持ちが良くて、深呼吸する。
この国は、山の高地に作られている。特に王都は高台にあり、周りを森林に囲まれているので、空気がとてもきれいだ。
自動車なんかなくて、馬車だけだから排気ガスなんかないし。
カミラの記憶と人間の記憶が入り混じって、心がなんだか不安定だけれど、この風景の美しさと、きれいな空気の気持ちよさは確かだ。
「きれいな空気ね」
そう言ってアーノルドを見ると、また不思議そうな顔をしている。
「お嬢様、ただ今、馬車が来ますのでお待ちください」
私は周囲を見回した。庭園の隅には黒毛の馬と茶色の馬が停められている。ぽんっと手をたたいた。
「馬車はいいわ。自分で乗っていくから」
王宮までは馬で一駆けくらいの距離だ。いちいち馬車に乗る必要は感じなかった。それに、カミラは乗馬もできる。この澄んだ自然の中を馬で駆けたら気持ちよさそうだわ。
「お嬢様!?」
アーノルドの制止を振り切って、黒毛の馬にまたがると、手綱を握り腹を蹴った。
「すぐに出発されますか?」
「そうするわ」
アーノルドが立ち上がって、私に手を差し出してくれたので、その手を取って、ベッドから降りる。彼は≪恋人≫のコーデリアの頬にキスをして言った。
「コーデリア、お嬢様に馬車の手配を」
廊下を通り、階段を降り、広間へ行く。落ち着いた焦げ茶色の、レンガ造りの豪勢な屋敷だ。足元にはワインレッドの高級そうな絨毯が引いてある。
広間では、お父さまがグラスに入った赤い液体を飲んでいた。
血じゃなくて、赤ワインね。私たち吸血鬼は、一応人間の食事も食べれる。栄養にならないし、味覚が人間と異なっているので、味をほとんど感じないんだけど。赤ワインだけは見た目が血のようだからかは、わからないけれど、不思議と味がしっかり感じられるので、嗜好品としてよく飲むのだ。
「カミラ、体調は大丈夫かい」
私に気がついたお父様――グレッグ=ルゼット――が私に駆け寄ってきた。白髪交じりの黒髪をしっかりセットして、口元に髭をたくわえた、大柄でスーツの似合う、おじさま好きにはたまらない、40代くらいの紳士。
彼こそ、吸血鬼一家ルゼット家の家長で、荒れた吸血鬼生活を送っていた私を更生させ、穏やかな生活へ導いてくれた人物。
「ぜんぜん平気よ、お父様。アーノルドが血をくれたから」
私はお父様に笑いかけた。
お母様は、ちょうど100年前、私たちがこの王国に関わる前、吸血鬼狩りでハンターに襲われて殺されてしまった。
ベネッタ=ルゼット、きれいな金髪の美しい女性だった。子どもが好きで、何人もの人間の孤児を育てていた優しい吸血鬼。彼女を失って、お父様は放浪の生活を辞め、私たちにとって安息の地を作ること決意したのだ。
「これから≪月夜宮≫へ行ってくるわ」
お父様が意外そうな顔をする。
「お前が祭りを見に行くなんて」
私、カミラは過去の出来事から人間不信で、身内の吸血鬼に過大な愛情を抱いている。それが原因でルシアを殺そうとするんだけどね。——だから、今までの私だったら、自分から人間のお祭りにわざわざ出かけたりしないけど。今の私は、前世の人間の記憶を持っているから、別に人間を目の敵にしたりはしない。
「たまには、楽しいお祭りに参加したいわ、私だって」
にっこり笑うと、お父様は「そうか、気をつけて行っておいで」と笑った。
屋敷の玄関を出ると、霧がかかった広い庭が現れる。
空を見上げると雲がかかっていて、ぼんやりと太陽の光が透けているだけだ。
≪霧の王国≫の異名のとおり、この国、特に王都は年から年中霧が立ち込めていて、曇り空。からっと晴れる日なんてない。
私たち吸血鬼は暑さと太陽光が苦手だ。そのため、この国の気候はとても過ごしやすい。
ひんやりとした湿り気のある空気がとっても気持ちが良くて、深呼吸する。
この国は、山の高地に作られている。特に王都は高台にあり、周りを森林に囲まれているので、空気がとてもきれいだ。
自動車なんかなくて、馬車だけだから排気ガスなんかないし。
カミラの記憶と人間の記憶が入り混じって、心がなんだか不安定だけれど、この風景の美しさと、きれいな空気の気持ちよさは確かだ。
「きれいな空気ね」
そう言ってアーノルドを見ると、また不思議そうな顔をしている。
「お嬢様、ただ今、馬車が来ますのでお待ちください」
私は周囲を見回した。庭園の隅には黒毛の馬と茶色の馬が停められている。ぽんっと手をたたいた。
「馬車はいいわ。自分で乗っていくから」
王宮までは馬で一駆けくらいの距離だ。いちいち馬車に乗る必要は感じなかった。それに、カミラは乗馬もできる。この澄んだ自然の中を馬で駆けたら気持ちよさそうだわ。
「お嬢様!?」
アーノルドの制止を振り切って、黒毛の馬にまたがると、手綱を握り腹を蹴った。
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