【完結】悪食エルフと風の魔法使いは、辺境遺跡で相棒になりました。

夏灯みかん

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4.肉を食らうエルフの噂

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 俺が滞在させてもらっているテントの、親戚のおばさんの話によると。件の“肉を食らっていたエルフ”はここよりやや北にある森の近くで目撃されているらしい。
 その付近で魔物に襲われそうになると、どこからともなく現れ、助けてくれると。――そして、見返りに、食料を欲しがるそうだ。

「助けてくれるというから――悪いエルフではないのだろうけど。さまよっているエルフっていうのも不気味よねえ。変に関わると、面倒なことになるわよ」

 おばさんは心配そうに俺を見つめた。
 ――エルフというのは、言い方は悪いが、辺境民にとって“厄介な”種族でもある。
 彼らは同族意識が非常に強い。
 もし、彼らの仲間を傷つけるようなことがあれば、一族総出で加害者を捕まえ、悠久の森へ連れて行く。

 ――どれくらい昔の話かは知らないが。悠久の森に度胸試しで侵入し、花を一輪盗ってきた辺境民の若者が、エルフに連行されたことがあるそうだ。
 『それぐらいで、息子を連れて行かないでくれ』と懇願して取りすがった家族も『邪魔をするなら』と連行され、末の子どもだけ何十年も経ってから戻ってきたらしい。
 ――数百年の時を生きるとされる彼らに、人間の常識は通用しない。

「心配していただいて、ありがとうございます」

 俺はそう礼を言いつつ、荷物をまとめた。

「けど、古代文字のことを聞けるかもしれないので、そのエルフを探してみようと思います」

 エルフと話せる機会など、そうそうない。
 この機会を逃すことはできないと思った。
 ――そして、俺は、そのエルフが目撃された場所に向かった。

 馬から降りて、周囲を見回す。
 そのエルフが出没するという森と、広々とした草原。
 周囲には辺境民のテントもなく、いるのは俺と馬だけ。
 
 ――けれど、孤独感はなかった。
 目を閉じて、そよぐ風を感じる。頬を撫でるその風の中に、風の精霊シルフの笑い声を感じた。

 目を開けて、俺は大声を張り上げた。

「すみませーん! エルフさん、いらっしゃいますかー! お話をしたいんですがー! 魔法使いのオリヴァーと申します! 遺跡探索をお手伝いいただきたいのですー! お礼はご用意しますのでー!」

 声を風に乗せて森中に拡散する。
 まずは正面からお願いをしてみたが――、どうだろうか。

「……」

 風で周囲の気配を探るが、誰かがいるような感覚はなかった。
 今の呼びかけは、この森じゅうに響くように広げたはずだ。

 ――精霊に話しかけるように独り言をつぶやいた。

「普通に声をかけても出てきてくれないかなぁ――魔物に、襲われていると助けてくれるんだっけ――」

 俺は荷物の革袋から親戚から分けてもらった血の滴る羊の肉を取り出した。
 生命魔法で鮮度は維持してある。
 それを地面に置くと、周囲に風を起こした。
 血肉の臭いを周囲に拡散するためだ。

 ――これで、魔物が来るはず――!

 目を閉じ、風に集中する。
 頭の奥が冷える。……魔法学校時代は、実践訓練で魔物退治をしたことはある。
 けれど、学校を出てこの一年は魔法都市で事務仕事ばかりだった。
 ……久しぶりの実戦に、身体が少し強張っていた。

 ばさり。

 その時、周囲の風が羽音をキャッチした。

「――きた!」

 俺は目を開け、上を見た。
 翼の生えた大型の動物が数匹、空を旋回して俺を睨んでいる。
 ――翼狼。
 名前の通り、翼の生えた狼だが、前足は鷹のような爪を持っている。
 空から急降下してきて、家畜やら人間を攫っていく、獰猛な魔物だ。

「わぁああああ、助けてください―――!」

 風で声を周囲に拡散する。
 ――けれど。

「……反応が、ないな……!」

 俺は息を吐くと、空を見つめた。
 魔物に襲われてみる作戦は、効果がないのだろうか。
 
 そう考えているうちに、翼狼が俺めがけて急降下してきた。
 背中に背負っていた杖を引き抜くと、集中する。

 剣を振るように、杖を振る。杖先から放たれた風の刃が、翼狼の翼を切り裂いた。
 
 ――ギャウ!

 悲鳴とともに地面に落ちた狼の首を、同じ要領で杖を振り、切断する。
 血のにじむ草地に、風がそよいだ。
 ――戦闘は終わった。

 バサバサという翼の音に、上を見ると、他の翼狼たちが逃げて行くのが見えた。
 ――彼らは賢い。群の一頭でも始末すると、諦めて逃げて行く。
 久しぶりの実戦に、心臓が遅れて強く脈打って、俺はその場にしゃがみこんだ。

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