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10.協力依頼
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おばさんからもらった膝掛けをかぶりながら、エドラヒルは起き上がった。
「……体調は、よくなってきたぞ。夕食――少しくらいなら、食べても……」
「万全になるまで、やめておけ」
俺はエドラヒルの紫の瞳を見つめた。
気づけば「エルフさん」などではなく、魔法学校の同期の友人のような口調になってしまったが、もうそれでいいか。
彼は少し拗ねたような顔をしてため息をついた。
「――そうだな。お前の言う通りだ。オリヴァーよ」
それから「ところで」と俺を見つめ直した。
「落ち着いたところであるし、お前の要望を聞こうじゃないか。――そういえば。遺跡調査を手伝ってほしいと言っていたな?」
「ああ」と俺はうなずいた。
「俺は、この近くの古代都市の住居跡を調査しているんだ。――この水晶の片割れが、あるんじゃないかと、思っている」
俺は例の首飾りの水晶を取り出して、エドラヒルに見せた。
「――これは、風の魔法陣が刻まれているな……? しかし、形が不完全だ。なるほど。片割れがありそうだな」
俺の予想とエドラヒルの意見が一致していたので、俺は思わず嬉しくなって笑った。
「――だろう。エドラヒルは、この魔道具がなんの魔道具だかわかるか? ――俺は、言葉を相方の水晶に伝えるような、遠距離の連絡用の魔道具ではないかと考えているんだ」
「――風魔法の特性の一つとして、“音を伝える”という用途に適しているというのは、確かにそうだ。この水晶の形状から見て、そのような用途であったと考えるのは妥当だと思う」
「――エルフの里では、このような水晶は使わないのか?」
「私たちの森では、魔法陣は使うことはあっても、道具に彫ることはしない。遠距離の連絡といったって、我々の森の中であればどこでも、風の精霊に言葉を乗せれば、相手に伝えることができる」
「――どこでも!?」
「ああ、“どこでも”だ」
エドラヒルは少しだけ間を置いて、視線を落とした。
「……窮屈だろう」
「……」
エドラヒルの言う“窮屈”という言葉に重みを感じた。――きっと、それが彼が里を出てきた理由なのだろう。
「エドラヒル、君は、古代文字が読めるか?」
「古代文字?」
「古代遺跡に住んでいた昔の魔法使いたちの文字だ」
俺は多少覚えている古代文字を、荷物に入っているノートに記した。
「このような……」
「エドラヒルだ」
「……? 君の名前は知っているよ」
「いや、“お名前はなぁに”と書いてあるではないか」
エドラヒルは俺の書いたノートを指差した。
「……読めているな」
確かに、俺が書いた文章は、古代文字で『汝の名は』という文章だった。
古代の石碑などに本当によく書かれている文字なので覚えているのだが。
「その子どものような言い方はなんだ」
「――その古代文字というのは、エルフ文字ととても似ている。――しかし、エルフの子どもの使う言葉だ」
「……そうなのか……」
古代の魔法使いはエルフから魔法を伝えられたと聞いている。
エルフが人間に教えるにあたり、子どもに教えるように教えた可能性は……ありそうだ。
しかし重厚な石碑に刻まれた文字が『お名前はなぁに』だと考えると……
「ふっ、ふふふ……」
笑い声を堪える俺を、エドラヒルは不審そうに見つめた。
「何を笑っているんだ」
「いや、いいんだ。しかし、君が古代文字を読めるようでよかったよ。エドラヒル」
「それはよかった」
エドラヒルは真面目な顔でうなずいた。
「――お前には助けてもらったからな。できる限り力を貸そう」
「助かるよ」
「……そういえば、お前にはまだ、花を贈っていなかったな」
エドラヒルは真剣な目で俺を見つめた。
「お前の好きな花は、なんだ。この辺りに咲く花であれば、大体の花の種は持っているぞ」
「そんなことはしなくていい」と言おうと思ったが、エドラヒルがあまりに真剣な表情なので、俺は受け取ることにした。――たぶん、こいつにとって、『花を贈る』という行為は重要な意味があることなのだろう。
「俺は――」
おばさんが部屋の隅に飾った星鈴草の白い鈴の形をした花弁を見つめた。
「あの星鈴草が好きなんだよ」
目を閉じ、昔のことを思い出した。
こいつには、何故か話してもいい気がした。
……口から自然と言葉が出てきた。
「俺が小さい頃は、俺の家族も、辺境民として暮らしていたんだ。ある時、星鈴草の咲いている花畑の近くにテントを張ったことがあって、その時に、俺は、自分が風の精霊と話せることを知ったんだよ」
夜風にリンと静かな音を鳴らす星鈴草をもっと鳴らしたくなり、俺は風を起こして、星鈴草をリンリンと、一晩中鳴らし続けた。――それを見た父親が俺には魔法の才能があることに気づき、俺を魔法学校に入れるため、辺境民をやめ、アスガルド王国の農民になったんだ。
「――残りは、少ないが……」
目を開けると、エドラヒルが俺の前に手を広げていた。
その手の中にある種が見る見るうちに開花し、白い鈴の形の花をつけた。
「やろう」
エドラヒルは俺にその花を握らせた。
「ちなみに花言葉は“これからも、よろしく”だ。エルフの里では、感謝を伝える時に贈る定番の花だ」
俺は花を受け取ると、笑った。
「じゃあ――明日から遺跡調査を助けてくれよ」
「……体調は、よくなってきたぞ。夕食――少しくらいなら、食べても……」
「万全になるまで、やめておけ」
俺はエドラヒルの紫の瞳を見つめた。
気づけば「エルフさん」などではなく、魔法学校の同期の友人のような口調になってしまったが、もうそれでいいか。
彼は少し拗ねたような顔をしてため息をついた。
「――そうだな。お前の言う通りだ。オリヴァーよ」
それから「ところで」と俺を見つめ直した。
「落ち着いたところであるし、お前の要望を聞こうじゃないか。――そういえば。遺跡調査を手伝ってほしいと言っていたな?」
「ああ」と俺はうなずいた。
「俺は、この近くの古代都市の住居跡を調査しているんだ。――この水晶の片割れが、あるんじゃないかと、思っている」
俺は例の首飾りの水晶を取り出して、エドラヒルに見せた。
「――これは、風の魔法陣が刻まれているな……? しかし、形が不完全だ。なるほど。片割れがありそうだな」
俺の予想とエドラヒルの意見が一致していたので、俺は思わず嬉しくなって笑った。
「――だろう。エドラヒルは、この魔道具がなんの魔道具だかわかるか? ――俺は、言葉を相方の水晶に伝えるような、遠距離の連絡用の魔道具ではないかと考えているんだ」
「――風魔法の特性の一つとして、“音を伝える”という用途に適しているというのは、確かにそうだ。この水晶の形状から見て、そのような用途であったと考えるのは妥当だと思う」
「――エルフの里では、このような水晶は使わないのか?」
「私たちの森では、魔法陣は使うことはあっても、道具に彫ることはしない。遠距離の連絡といったって、我々の森の中であればどこでも、風の精霊に言葉を乗せれば、相手に伝えることができる」
「――どこでも!?」
「ああ、“どこでも”だ」
エドラヒルは少しだけ間を置いて、視線を落とした。
「……窮屈だろう」
「……」
エドラヒルの言う“窮屈”という言葉に重みを感じた。――きっと、それが彼が里を出てきた理由なのだろう。
「エドラヒル、君は、古代文字が読めるか?」
「古代文字?」
「古代遺跡に住んでいた昔の魔法使いたちの文字だ」
俺は多少覚えている古代文字を、荷物に入っているノートに記した。
「このような……」
「エドラヒルだ」
「……? 君の名前は知っているよ」
「いや、“お名前はなぁに”と書いてあるではないか」
エドラヒルは俺の書いたノートを指差した。
「……読めているな」
確かに、俺が書いた文章は、古代文字で『汝の名は』という文章だった。
古代の石碑などに本当によく書かれている文字なので覚えているのだが。
「その子どものような言い方はなんだ」
「――その古代文字というのは、エルフ文字ととても似ている。――しかし、エルフの子どもの使う言葉だ」
「……そうなのか……」
古代の魔法使いはエルフから魔法を伝えられたと聞いている。
エルフが人間に教えるにあたり、子どもに教えるように教えた可能性は……ありそうだ。
しかし重厚な石碑に刻まれた文字が『お名前はなぁに』だと考えると……
「ふっ、ふふふ……」
笑い声を堪える俺を、エドラヒルは不審そうに見つめた。
「何を笑っているんだ」
「いや、いいんだ。しかし、君が古代文字を読めるようでよかったよ。エドラヒル」
「それはよかった」
エドラヒルは真面目な顔でうなずいた。
「――お前には助けてもらったからな。できる限り力を貸そう」
「助かるよ」
「……そういえば、お前にはまだ、花を贈っていなかったな」
エドラヒルは真剣な目で俺を見つめた。
「お前の好きな花は、なんだ。この辺りに咲く花であれば、大体の花の種は持っているぞ」
「そんなことはしなくていい」と言おうと思ったが、エドラヒルがあまりに真剣な表情なので、俺は受け取ることにした。――たぶん、こいつにとって、『花を贈る』という行為は重要な意味があることなのだろう。
「俺は――」
おばさんが部屋の隅に飾った星鈴草の白い鈴の形をした花弁を見つめた。
「あの星鈴草が好きなんだよ」
目を閉じ、昔のことを思い出した。
こいつには、何故か話してもいい気がした。
……口から自然と言葉が出てきた。
「俺が小さい頃は、俺の家族も、辺境民として暮らしていたんだ。ある時、星鈴草の咲いている花畑の近くにテントを張ったことがあって、その時に、俺は、自分が風の精霊と話せることを知ったんだよ」
夜風にリンと静かな音を鳴らす星鈴草をもっと鳴らしたくなり、俺は風を起こして、星鈴草をリンリンと、一晩中鳴らし続けた。――それを見た父親が俺には魔法の才能があることに気づき、俺を魔法学校に入れるため、辺境民をやめ、アスガルド王国の農民になったんだ。
「――残りは、少ないが……」
目を開けると、エドラヒルが俺の前に手を広げていた。
その手の中にある種が見る見るうちに開花し、白い鈴の形の花をつけた。
「やろう」
エドラヒルは俺にその花を握らせた。
「ちなみに花言葉は“これからも、よろしく”だ。エルフの里では、感謝を伝える時に贈る定番の花だ」
俺は花を受け取ると、笑った。
「じゃあ――明日から遺跡調査を助けてくれよ」
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