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12.冗談
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“腐敗した魔物を煮込んだような臭い”というのは、あんまりではないだろうか。
エドラヒルは苦笑しながら首を振った。
「私だって傷ついたぞ。――しかし、仕方ないのだけどな。確かに、臭いは臭いのだ。私はむしろ、いい匂いになったと思っていたが、母親も少し顔をしかめていたからな」
「……そうか」
「それで、晴れて罰が免除されたころには、私は成人して、親は森に還っていた」
「そんなに長く、罰を受けたのか?」
「途中で、私も懲りずに、森の兎などを捕まえて焼いて食っていたからな。その分、どんどん罰が増えていってしまったのだ……。最終的に、“悪食”と呼ばれるようになってしまって、辛かった……。しかし、やめられなかったのだ」
辛かったというわりに、反省はしなかった……らしい。
エドラヒルは顔を上げると、笑った。
「そんなに私のことが知りたいか。――ここまで事情を聞かれたのは初めてだ」
「いや、――しかし、君は興味深いよ。エドラヒル」
「そう言われるのは……悪い気がしない」
エドラヒルは笑うと立ち上がった。
「では、お前の調査に協力してやろう」
「――最後に、一つだけ、気にかかることがあって……いいか?」
俺はエドラヒルを見た。
「君のご両親だというその枝――もう少し、大事に持ったらどうだ。もし、薪と間違えたらとひやひやしてしまう」
エドラヒルは両親だというその枝を無造作に羽織のポケットに突っ込んでいた。
滞在している親戚のおばさんが薪と間違えないか不安になる。
「――私の親を燃やすのか?」
エドラヒルにそう言われて、俺は慌てて首を振った。このエルフは言葉をそのまま受け取ってしまうような気はしていたけれど。
「違う!」
反射的に叫び、慌てて言い直した。
「……危険性の話をしている」
あたふたとする俺を見つめて、エドラヒルは口角を上げた。
無理にではなく、ごく自然に。
「……冗談だ」
俺はぽかんとして言葉を失った。
――冗談を言ったのか、こいつなりの。
「――冗談の趣味が悪いぞ、エドラヒル」
「しかし、お前の話もわかる。――では花でも咲かせるか」
エドラヒルはその枝を握った。ぽん、と花が咲いた。紫の綺麗な花だった。
「――枯れ枝ではないのか、それは」
「魔力を流して枯れないようにしているからな」
俺は唸った。いいアイデアが浮かんだからだ。
「それでは、杖にしたらどうかな?」
「杖……お前の持っているそれか」
エドラヒルは俺の背中の杖を見つめた。俺は杖を手に取ると、魔力を流した。
杖先に埋め込まれた風の精霊に好まれる青緑の宝石が光った。
「そうだ。これももともとは、精霊力の強い木の枝を杖に育てたんだ。ゆっくり魔力を流すと、自分に合った杖になる。杖があると、魔法を使う時に調整をしやすい」
「そして」と付け加える。
「――弟子ができたら、その杖を分け与えることもある。この杖も最初の枝は師匠からもらったものだ」
――杖というのは、魔法使いにとって、師匠との関係を示す大事な存在でもある。
「成程。オリヴァーよ。お前は、翼狼と戦うときに、それを剣のように使っていたな」
エドラヒルは俺を少年のような瞳で見つめた。
「あれは、格好良いと思ったぞ」
特になんの例えでもない『格好良い』という飾り気のない感想に、俺はまた呆気にとられてしまう。――本当によくわからない男だ。このエドラヒルというエルフは。
「――杖に、してみよう。……やり方を教えてくれ」
「調査が終わったら、いくらでも教えるよ」
なんだか、こいつとは長い付き合いになりそうな予感がした。結局俺が老人になるまでの縁になるので――その予感は、間違っていないのだが。
とにかく、俺たちは話を終えて、ようやく遺跡調査に向かった。
エドラヒルは苦笑しながら首を振った。
「私だって傷ついたぞ。――しかし、仕方ないのだけどな。確かに、臭いは臭いのだ。私はむしろ、いい匂いになったと思っていたが、母親も少し顔をしかめていたからな」
「……そうか」
「それで、晴れて罰が免除されたころには、私は成人して、親は森に還っていた」
「そんなに長く、罰を受けたのか?」
「途中で、私も懲りずに、森の兎などを捕まえて焼いて食っていたからな。その分、どんどん罰が増えていってしまったのだ……。最終的に、“悪食”と呼ばれるようになってしまって、辛かった……。しかし、やめられなかったのだ」
辛かったというわりに、反省はしなかった……らしい。
エドラヒルは顔を上げると、笑った。
「そんなに私のことが知りたいか。――ここまで事情を聞かれたのは初めてだ」
「いや、――しかし、君は興味深いよ。エドラヒル」
「そう言われるのは……悪い気がしない」
エドラヒルは笑うと立ち上がった。
「では、お前の調査に協力してやろう」
「――最後に、一つだけ、気にかかることがあって……いいか?」
俺はエドラヒルを見た。
「君のご両親だというその枝――もう少し、大事に持ったらどうだ。もし、薪と間違えたらとひやひやしてしまう」
エドラヒルは両親だというその枝を無造作に羽織のポケットに突っ込んでいた。
滞在している親戚のおばさんが薪と間違えないか不安になる。
「――私の親を燃やすのか?」
エドラヒルにそう言われて、俺は慌てて首を振った。このエルフは言葉をそのまま受け取ってしまうような気はしていたけれど。
「違う!」
反射的に叫び、慌てて言い直した。
「……危険性の話をしている」
あたふたとする俺を見つめて、エドラヒルは口角を上げた。
無理にではなく、ごく自然に。
「……冗談だ」
俺はぽかんとして言葉を失った。
――冗談を言ったのか、こいつなりの。
「――冗談の趣味が悪いぞ、エドラヒル」
「しかし、お前の話もわかる。――では花でも咲かせるか」
エドラヒルはその枝を握った。ぽん、と花が咲いた。紫の綺麗な花だった。
「――枯れ枝ではないのか、それは」
「魔力を流して枯れないようにしているからな」
俺は唸った。いいアイデアが浮かんだからだ。
「それでは、杖にしたらどうかな?」
「杖……お前の持っているそれか」
エドラヒルは俺の背中の杖を見つめた。俺は杖を手に取ると、魔力を流した。
杖先に埋め込まれた風の精霊に好まれる青緑の宝石が光った。
「そうだ。これももともとは、精霊力の強い木の枝を杖に育てたんだ。ゆっくり魔力を流すと、自分に合った杖になる。杖があると、魔法を使う時に調整をしやすい」
「そして」と付け加える。
「――弟子ができたら、その杖を分け与えることもある。この杖も最初の枝は師匠からもらったものだ」
――杖というのは、魔法使いにとって、師匠との関係を示す大事な存在でもある。
「成程。オリヴァーよ。お前は、翼狼と戦うときに、それを剣のように使っていたな」
エドラヒルは俺を少年のような瞳で見つめた。
「あれは、格好良いと思ったぞ」
特になんの例えでもない『格好良い』という飾り気のない感想に、俺はまた呆気にとられてしまう。――本当によくわからない男だ。このエドラヒルというエルフは。
「――杖に、してみよう。……やり方を教えてくれ」
「調査が終わったら、いくらでも教えるよ」
なんだか、こいつとは長い付き合いになりそうな予感がした。結局俺が老人になるまでの縁になるので――その予感は、間違っていないのだが。
とにかく、俺たちは話を終えて、ようやく遺跡調査に向かった。
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