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19.通信水晶の試作品
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――それから、俺はエドラヒルを連れて魔法使いギルドに戻った。
古代魔法道具研究の教授に成果を見せると、彼は俺を研究室に研究員として迎え入れてくれた。
俺はエドラヒルの力を借りながら、遺跡で見つけた連絡水晶の魔法陣を再構築し、水晶に魔法陣を彫り込むことにより、遠距離の通信が可能な水晶魔法の研究に取り組んでいた。
研究室の一室も与えられた。
そこで水晶に魔法陣を刻み込み、通信用水晶の試作品を作る日々だ。
まだ遺跡で見つけたもののような精巧な通信には成功していないが、それらしいものはできた。
机に座り、親指と人差し指で丸を作ったくらいの大きさの水晶に魔力を込める。
すると、水晶は鈍く光り、音声を発した。
『……こちら、エドラヒルだ。聞こえているぞ』
「――こちらも聞こえている。……今、どこだ」
『街はずれの森だ』
俺は口をぽかんと開けた。
試作品の通信実験をしていて、エドラヒルにはどんどん距離をとってもらっていたところだったが、いつの間にか街を出ていたとは。
――町の外まで通信が届くとは思っていなかった。
このエルフは気まぐれで、いつも予想外の行動ばかりする。
「……いつの間に。何をしているんだ」
『マンドレイクの採取だ。聞いてくれ、オリヴァーよ』
「なんだ」
『マンドレイクと肉を一緒に食べるとな、調子がそんなに悪くならないことに気づいたんだよ』
「――そうなのか。いい発見があって、良かったな」
『何匹か持って帰って、ギルドの庭で育てようと思っている』
「……それはちょっと待て。先に許可をもらわないといけないぞ。それに持って帰ってくるなら、専用の捕獲箱に……叫んでも大丈夫なやつ……に入れないと」
『――そうなのか?』
俺は思わず苦笑した。
「そうなんだよ。――いい、俺が許可申請をしておくから。持って帰ってきていいよ。箱も用意しておく。沈黙の魔法をかけて持ってきてくれれば。街に入る前に連絡を――」
『わかった。では、今から採取してくる』
――通信が切れた。
俺は立ち上がった。問題はなさそうだが、一応様子を見に行くか。
沈黙の魔法をかけ忘れて街に持ち込んで気絶する人が出たら大変だ。
そのとき、ガチャリと扉が開いた。
「オリヴァーくん。忙しそうね?」
――ベネッタだった。俺はさっと水晶をローブのポケットに隠した。
この試作品はまだ未完成で、教授以外には伏せている。
「ベネッタ――先輩! どうかされましたか?」
「準備が一段落したから、お茶でも一緒にどうかしらと思って――、どこかに出かけるところ?」
「出発準備、お疲れ様です……」
俺は少し声を落とした。ベネッタはもう少ししたら、東大陸行きの派遣団に参加し、街を発つ予定なのだ。
「……エドラヒルの様子を見に行こうかと。裏の森に一人でマンドレイクを採りに行ったみたいで。しかも育てるために、捕獲して持って帰りたいようなんですよ。捕獲箱を持って行かないと――」
ベネッタはくすくすと笑った。
「あら。じゃあ、私も一緒に行こうかな。エドラヒルさん、ひっくり返っていないといいけれど」
「――まあ、あいつ自体は大丈夫だと思いますけどね。そのまま街に持ち込んだら、大変なので……」
俺は管理室でマンドレイクが叫んでも問題がない防音魔法が施された捕獲箱を借りると、ベネッタと共に町はずれの森に向かった。
森に着くころに、ローブのポケットに水晶の反応があった。
――けれど俺は、無視して、すたすたと森の中に進むと、風を起こして、エドラヒルを呼んだ。
「おい、エドラヒルー! 迎えに来たぞー!」
声を拡散させると、森の奥から眉間に皺を寄せたエドラヒルが出てきた。
両手に先端が二本足のように枝分かれした大きなニンジン――マンドレイクを二本抱えている。マンドレイクは血走った目を開けて、口を大きく開け、足をばたばたと動かしている……が、音は漏れていない。沈黙の魔法がかかっているようだ。
「なぜ、わざわざ大声で呼ぶのだ。水晶で通信したのに……」
そう水晶を見せながら不満げに言いかけたエドラヒルは、ベネッタを視界に入れて「あ」と言葉を切って、さっと水晶をローブのポケットに入れた。
俺がこの連絡水晶の試作品について、彼女にまだ知られたくないということに気づいたのだろう。このエルフは、察してくれるときは察してくれるのだ。
人の機微には疎いくせに、こういうところだけは外さないのだから、ずるい奴だ。
「……エドラヒルさん、今、何か、隠しました?」
「……いや、なにも、隠していないぞ。ベネッタよ」
俺は風の精霊に小声で「すまないな」とつぶやいて、エドラヒルの耳元に送った。
エドラヒルは「構わん」と言うように顔の前で手を振る。
話を変えるようにエドラヒルは大きな声を出した。
「ベネッタ! 見てくれ。――捕まえたぞ。活きのいいのを二匹。これを私の部屋で増やすんだ」
「では、この箱に入れて持ち帰ろう」
俺とエドラヒルは「ははは」と笑いながら箱にマンドレイクを詰めた。
蓋を閉めて密封したものの、箱はカタカタカタと揺れている。箱の中で暴れているのだろう。
「許可申請をしないとな……」
俺がつぶやくと、ベネッタはにっこりと笑った。
「そのマンドレイクをエドラヒルさんのお庭で育てたいのよね。沈黙の結界を貼って、囲わないとでしょう。手伝いましょうか?」
古代魔法道具研究の教授に成果を見せると、彼は俺を研究室に研究員として迎え入れてくれた。
俺はエドラヒルの力を借りながら、遺跡で見つけた連絡水晶の魔法陣を再構築し、水晶に魔法陣を彫り込むことにより、遠距離の通信が可能な水晶魔法の研究に取り組んでいた。
研究室の一室も与えられた。
そこで水晶に魔法陣を刻み込み、通信用水晶の試作品を作る日々だ。
まだ遺跡で見つけたもののような精巧な通信には成功していないが、それらしいものはできた。
机に座り、親指と人差し指で丸を作ったくらいの大きさの水晶に魔力を込める。
すると、水晶は鈍く光り、音声を発した。
『……こちら、エドラヒルだ。聞こえているぞ』
「――こちらも聞こえている。……今、どこだ」
『街はずれの森だ』
俺は口をぽかんと開けた。
試作品の通信実験をしていて、エドラヒルにはどんどん距離をとってもらっていたところだったが、いつの間にか街を出ていたとは。
――町の外まで通信が届くとは思っていなかった。
このエルフは気まぐれで、いつも予想外の行動ばかりする。
「……いつの間に。何をしているんだ」
『マンドレイクの採取だ。聞いてくれ、オリヴァーよ』
「なんだ」
『マンドレイクと肉を一緒に食べるとな、調子がそんなに悪くならないことに気づいたんだよ』
「――そうなのか。いい発見があって、良かったな」
『何匹か持って帰って、ギルドの庭で育てようと思っている』
「……それはちょっと待て。先に許可をもらわないといけないぞ。それに持って帰ってくるなら、専用の捕獲箱に……叫んでも大丈夫なやつ……に入れないと」
『――そうなのか?』
俺は思わず苦笑した。
「そうなんだよ。――いい、俺が許可申請をしておくから。持って帰ってきていいよ。箱も用意しておく。沈黙の魔法をかけて持ってきてくれれば。街に入る前に連絡を――」
『わかった。では、今から採取してくる』
――通信が切れた。
俺は立ち上がった。問題はなさそうだが、一応様子を見に行くか。
沈黙の魔法をかけ忘れて街に持ち込んで気絶する人が出たら大変だ。
そのとき、ガチャリと扉が開いた。
「オリヴァーくん。忙しそうね?」
――ベネッタだった。俺はさっと水晶をローブのポケットに隠した。
この試作品はまだ未完成で、教授以外には伏せている。
「ベネッタ――先輩! どうかされましたか?」
「準備が一段落したから、お茶でも一緒にどうかしらと思って――、どこかに出かけるところ?」
「出発準備、お疲れ様です……」
俺は少し声を落とした。ベネッタはもう少ししたら、東大陸行きの派遣団に参加し、街を発つ予定なのだ。
「……エドラヒルの様子を見に行こうかと。裏の森に一人でマンドレイクを採りに行ったみたいで。しかも育てるために、捕獲して持って帰りたいようなんですよ。捕獲箱を持って行かないと――」
ベネッタはくすくすと笑った。
「あら。じゃあ、私も一緒に行こうかな。エドラヒルさん、ひっくり返っていないといいけれど」
「――まあ、あいつ自体は大丈夫だと思いますけどね。そのまま街に持ち込んだら、大変なので……」
俺は管理室でマンドレイクが叫んでも問題がない防音魔法が施された捕獲箱を借りると、ベネッタと共に町はずれの森に向かった。
森に着くころに、ローブのポケットに水晶の反応があった。
――けれど俺は、無視して、すたすたと森の中に進むと、風を起こして、エドラヒルを呼んだ。
「おい、エドラヒルー! 迎えに来たぞー!」
声を拡散させると、森の奥から眉間に皺を寄せたエドラヒルが出てきた。
両手に先端が二本足のように枝分かれした大きなニンジン――マンドレイクを二本抱えている。マンドレイクは血走った目を開けて、口を大きく開け、足をばたばたと動かしている……が、音は漏れていない。沈黙の魔法がかかっているようだ。
「なぜ、わざわざ大声で呼ぶのだ。水晶で通信したのに……」
そう水晶を見せながら不満げに言いかけたエドラヒルは、ベネッタを視界に入れて「あ」と言葉を切って、さっと水晶をローブのポケットに入れた。
俺がこの連絡水晶の試作品について、彼女にまだ知られたくないということに気づいたのだろう。このエルフは、察してくれるときは察してくれるのだ。
人の機微には疎いくせに、こういうところだけは外さないのだから、ずるい奴だ。
「……エドラヒルさん、今、何か、隠しました?」
「……いや、なにも、隠していないぞ。ベネッタよ」
俺は風の精霊に小声で「すまないな」とつぶやいて、エドラヒルの耳元に送った。
エドラヒルは「構わん」と言うように顔の前で手を振る。
話を変えるようにエドラヒルは大きな声を出した。
「ベネッタ! 見てくれ。――捕まえたぞ。活きのいいのを二匹。これを私の部屋で増やすんだ」
「では、この箱に入れて持ち帰ろう」
俺とエドラヒルは「ははは」と笑いながら箱にマンドレイクを詰めた。
蓋を閉めて密封したものの、箱はカタカタカタと揺れている。箱の中で暴れているのだろう。
「許可申請をしないとな……」
俺がつぶやくと、ベネッタはにっこりと笑った。
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