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8.元聖女はエルフの森に着きました。
212.
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森の中にぽっかり開いた歪みの奥に広がる岩だらけの空間。――これが魔族の隠れ里ですか?
「――全員でかかるぞ」
リンドールさんを乗っ取っている族長さんがリンドールさんの声でそういうと、奥の方でふらふらとしていたエルフの人たちが急に列を組むようにその歪みの方へ足を進めはじめました。
もう族長さんは私たちへの興味を見失ったように、その歪みの先の魔族の隠れ里のみをぎらぎらした目で見つめています。
その目にあるのは魔族に対する恨みだけ……。
「このままだと、エルフ全員が巻き込まれてしまう」
エドラさんが焦ったような声でうめきました。
……そうです。エルフの人たちはみんな、族長さんに操られている状態だから……、このまま魔族の人たちと争いになったら……。
私は自分の血の気が引いていくのがわかりました。
その時――、
「誰だ、里の入り口を開けたのは――」
低い声が石だらけの空間の奥から響きました。
そこから現れたのは、長い耳を持った――エルフと同じ見た目の、だけど赤い瞳を暗闇に輝かせる人たち――。
「――これが、魔族?」
ステファンが赤い目の人たちを見つめて呟きます。
「悪魔どもめ! 一匹残らず滅ぼしてやる!」
族長さんがそう叫ぶと、エルフの人たちが一斉に魔法を唱え始めました。
ヒュンヒュンと風の精霊《ジン》が動く音がして、竜巻が巻き起こります。
「――エルフ!」
魔族の人たちもそれに応じるように魔法を唱えるような仕草をしました。
そして――竜巻を押し返すような炎の渦が巻き起こります。
竜巻と炎が拮抗して、熱風が私たちの方へ吹き付けました。
――どうしよう、私が石を族長さんに渡してしまったから――、私にできることは?
「レイラ!」
私は私を止めようとするステファンの声を振り切って、魔族とエルフの二つの魔法がぶつかり合っているところへ飛び込みました――手を胸の前で組んで。
「光の女神様、皆の怒りを鎮めてください」
瞳を閉じて祈りの言葉を必死に呟きます。
魔族に家族を奪われた族長さんが魔族を恨む気持ちはわかります。――だけど、だからといって、リンドールさんやエルフの里の、その当時のことなんて知らない人たちを巻き込んでいいわけがないじゃないですか。魔族の人たちだって、滅んでいくのを受け止めて、自分たちで隠れ里に潜んでいるのに、そこを無理やりこじ開けられて襲われるなんてたまったものじゃないでしょう。
どうして皆平和にできないんですか!
目を開けると、竜巻も炎も収まっていました。
私は疲労感からその場に座り込んでしまいます。
そうしていると――、
「ユリア?」
魔族の中の一番年をとったように見える男の人が私の姿を見て、驚いたような声で呟き、
「ユリア……」
こんどは泣きそうな声でまたお母さんの名前を呼びました。
「――全員でかかるぞ」
リンドールさんを乗っ取っている族長さんがリンドールさんの声でそういうと、奥の方でふらふらとしていたエルフの人たちが急に列を組むようにその歪みの方へ足を進めはじめました。
もう族長さんは私たちへの興味を見失ったように、その歪みの先の魔族の隠れ里のみをぎらぎらした目で見つめています。
その目にあるのは魔族に対する恨みだけ……。
「このままだと、エルフ全員が巻き込まれてしまう」
エドラさんが焦ったような声でうめきました。
……そうです。エルフの人たちはみんな、族長さんに操られている状態だから……、このまま魔族の人たちと争いになったら……。
私は自分の血の気が引いていくのがわかりました。
その時――、
「誰だ、里の入り口を開けたのは――」
低い声が石だらけの空間の奥から響きました。
そこから現れたのは、長い耳を持った――エルフと同じ見た目の、だけど赤い瞳を暗闇に輝かせる人たち――。
「――これが、魔族?」
ステファンが赤い目の人たちを見つめて呟きます。
「悪魔どもめ! 一匹残らず滅ぼしてやる!」
族長さんがそう叫ぶと、エルフの人たちが一斉に魔法を唱え始めました。
ヒュンヒュンと風の精霊《ジン》が動く音がして、竜巻が巻き起こります。
「――エルフ!」
魔族の人たちもそれに応じるように魔法を唱えるような仕草をしました。
そして――竜巻を押し返すような炎の渦が巻き起こります。
竜巻と炎が拮抗して、熱風が私たちの方へ吹き付けました。
――どうしよう、私が石を族長さんに渡してしまったから――、私にできることは?
「レイラ!」
私は私を止めようとするステファンの声を振り切って、魔族とエルフの二つの魔法がぶつかり合っているところへ飛び込みました――手を胸の前で組んで。
「光の女神様、皆の怒りを鎮めてください」
瞳を閉じて祈りの言葉を必死に呟きます。
魔族に家族を奪われた族長さんが魔族を恨む気持ちはわかります。――だけど、だからといって、リンドールさんやエルフの里の、その当時のことなんて知らない人たちを巻き込んでいいわけがないじゃないですか。魔族の人たちだって、滅んでいくのを受け止めて、自分たちで隠れ里に潜んでいるのに、そこを無理やりこじ開けられて襲われるなんてたまったものじゃないでしょう。
どうして皆平和にできないんですか!
目を開けると、竜巻も炎も収まっていました。
私は疲労感からその場に座り込んでしまいます。
そうしていると――、
「ユリア?」
魔族の中の一番年をとったように見える男の人が私の姿を見て、驚いたような声で呟き、
「ユリア……」
こんどは泣きそうな声でまたお母さんの名前を呼びました。
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