【完結】婚約破棄された公爵令嬢は山で修行中の魔法使い(隣国王子)と出会い、魔物を食べ、婚約しました。

夏芽みかん

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5.助けられた

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 夜は部屋の鍵をかけられてしまっているため、外に出ることはできない。
 日中はずっと家庭教師がついているので、動けない。
 
 ――夜のうちにこの部屋から外へ出るしかない。

 私はソファをずらすと、その上に乗って窓のカーテンを外した。
 ハサミでそれを切ってきつく結ぶ。
 長いロープのような形にすると、それを窓枠に結び付けた。
 ――ここは2階だけど、これをつたって外に出ればいいわ。

 それから、外に出ても目立たないよう、ドレスではなく使用人の服に着替えた。
 お金は持っていないので、いくつかのアクセサリーを布で包んで身につけると、窓を開けて、カーテンのロープを持って外へ飛び出した。

 行く先は決まっていた。
 グレゴリーとスザンナがいるところへ行きたい。
 二人なら私のことを受け入れてくれると思う。

 お父様は「故郷くにへ帰れ」と言っていた。
 二人の故郷は隣国ルーべニアだ。
 ルーべニアに行こう。

 私は中庭に着地すると、そのまま門を抜け出した。
 お父様やお母様は私を探そうとするかしら。
 ――家出なんてそれこそ恥さらしだとして、探すかもしれないわ。
 それで連れ戻されたら今度こそ、窓もふさがれて閉じ込められるかもしれない。
 日が昇るまでにできるだけ遠くへ行かなくちゃ。

 屋敷を出て、城下町の方へ走る。
 夜の街は怖いほど人気がなかったけれど、一角、光が漏れている場所があった。
 ――酒場だわ。

 私はその扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

 店員が私を見て首を傾げた。

「お嬢さん、見ない顔ですね」

「え、ええ……」

 そう呟いてあたりをきょろきょろ見回す。
 店内にいるのは、汚れた格好のいかつい男の人が多い。
 ――魔物退治なんかを請け負うっていう、冒険者、という人たちかしら。

「何飲みますか?」

 店員さんが声をかけてくるので、私は困ってしまった。
 ――お金は持ってない。

「支払いは、これでも良いかしら」

 そう言って宝石のついたアクセサリーを見せると、その店員さんは困った顔をした。

「――お支払いはお金でお願いします」

 どうしようかしら、そう困り果てていると、

「お嬢ちゃん、俺がおごるよ。何が良い」

 横から大柄な男の人がお金を店員さんに渡してくれた。

「ありがとうございます……。えぇと林檎のジュースを……」

 そう言うと男の人は噴き出した。

「酒場でジュースかい。まぁいいや。この子にあげてくれ」

 私はグラスを飲みながら男の人を見た。3人ほどのグループ連れらしい。

「助かりました」

「いいって、いいって。あんた酒場なんかに来ない人間だろ、どうしたんだ、金も持ってねぇみたいだし」

「――――ルーべニアまで行きたいんですけど、人に、会いに……どうやって行けばいいかわからなくて」

 そう言うと、彼らは顔を見合わせて頷いた。

「ちょうど俺たちもルーべニアまで行くところだ。こう見えて商人でな。馬車もある。乗せてってやってもいいぜ」

「本当ですか!」

 私は両手を組んで飛び跳ねると、頭を下げた。

「ありがとうございます。いつごろ出発しますか? ――できるだけ早く、出たいのですが」

「まぁ、いつでもいいんだけどよ。――何だったら、今から馬車を出してやろうか」

「本当ですか!」

 何て運が良いんだろう。その時の私は単純にそう思ってしまった。

***

 馬車の荷台に乗せてもらって、私は大きく息を吐いた。
 このまま乗せていってもらえれば、グレゴリーとスザンナに会える。
 そう考えたら急に眠気が襲ってきた。
 そういえば、ここ数日空腹や疲れでよく眠れてなかったわ……。
 膝を抱えて、私はそのまま眠ってしまった。

「――結構宝石持ってるな。どこかの貴族の娘か、こいつ」

 そんな会話が耳に入ってきて、私はばっと目を開けた。
 立ち上がろうとして、そのまま地面――土の上に転がる。
 私は馬車には乗っていなかった。周りは草藪。道もない場所だ。
 ここはどこ?
 手足が縛られていて、身体が動かせない。

「起きたみたいだ。本人に聞くか」

 馬車に乗せてくれたあの男の人たち三人が私を取り囲んでいたる。

「おはよう、お嬢ちゃん。こんないい物持って、あんたどこの貴族様だ」

 1人が私の持って来たアクセサリーを手に乗せて見せた。
血の気が引くのを感じた。
私ってば何て馬鹿なんだろう。運がいいとか、そういうことじゃなかった。
この人たち、最初からそのつもりだったんだわ。

「――名乗って、どうなるの」

「そりゃ、あんたの家族に金をもらうなり、なんなりさせてもらうさ」

「私の家族は私なんかにお金なんか払わないかもれないわよ」

 男はにっと笑って言った。

「そうか。そんなら面倒だからここらへんに埋めさせてもらうか」
 
 手には光るナイフを持っている。

 ――ああ、もう、何でこんなことに。

 簡単にこの人たちを信じた自分が馬鹿だった。
 私の頭に浮かんだ言葉は1つ。

 ――こんなお腹が減った状態で死にたくない。

 大きく息を吸い込むと、大声で叫んだ。

「誰か!! 助けて!!」

「こんな山中に人がいるわけねぇじゃねぇか」

 「叫べ、叫べ」と彼らはクスクスと笑ったその時――。

 暗闇を裂いて火の玉が空の上から落ちてきた。

「熱っ!?」

 私を囲んでいた彼らは飛びのいた。地面の草が燃えて周囲が明るくなる。
 慌てて手足を縛る縄を炎で焼いて立ち上がると、後ろの茂みをがさっと鳴らして、

「騒がしい。何をしているんだ」

 不機嫌そうな声とともに、黒いローブを身に着けた男の人が現れた。
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