【完結】婚約破棄された公爵令嬢は山で修行中の魔法使い(隣国王子)と出会い、魔物を食べ、婚約しました。

夏灯みかん

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6.異臭のする鍋

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 背の高い、細長い男の人だった。
 伸び放題の金色の髪に、髭を生やしていて、若いのか年をとっているのかわからない。
 ――よくわからないけれど、この人が助けてくれたのよね。

 私は枯草を燃やしている燃える炎を見つめた。
 ――魔法?

「――人さらいか、追剥か……」

 彼は私たちを見比べて呟いた。
 呆然としていた私ははっとして、彼に訴えた。

「――この人たちに、殺されそうになって……!」

「……そんなところだろうな」

 彼はため息交じりに呟くと、何かもごもごと唱えた。
 途端、地面が光り始めて、身構える追剥たちの身体に光る縄のようなものが絡みついた。

「うわぁ、何だこれ……動け……ぁうぅ」

 それは彼らにぐるぐると絡みついて最後には口も塞いでしまった。
 ぐるぐる巻きにされた状態で3人は地面に転がる。

「――これ……、魔法ですか?」

 聞くとローブの男の人は面倒そうなため息を吐いた。

「そうだ。――魔物捕獲用に仕掛けておいたのに……、また明日魔法陣描き直さないと……」

 それから、彼らの足の部分にとんとんっと触って行く。すると、足先を縛っていた光だけが解けた。

「自分たちで歩いてくれ。明日ふもとの村の自警団に引き渡すからな」
 
 彼らを立ち上がらせ、光の縄を連結させて、その先を持って歩き出した。
 観念したような追剥たちは、とことことそれについて行く。
 数歩進んでからその魔法使いは私を振り返る。

「あんたもとりあえずついてこい。このまま森にいると魔物に喰われるぞ」

 言われるがまま後ろをついて行く。

「――ありがとうございます。おかげで助かりました……。私はソフィアと言います。あなたは……」

「ああ。良かった。俺はライアンと言う」

 素っ気なく答えて、ライアンは道のない草藪をずんずんと進んで行く。

「あなたは、魔法使いですか?」

「そうだ。ここで修行中だ」

「――本物の魔法使いは初めて見たわ。うちの使用人で魔法を使う人はいたけれど」

「そうか」

 すたすたと暗闇を進む彼を追いかけて行くと、水の流れる音がする川辺についた。
 その川辺の横に、テントのようなものが張ってある。
 中では焚火が燃えているらしく、そこだけ明るかった。

「今晩はここで大人しくしていろ。動くと絞まるからな、じっとしているのが一番いいぞ」

 ライアンは、そう言って男たちの足をもう一度触った。
 光る縄がしゅるしゅると足を縛る。
 その様子を口を開けて見ている私に彼は声をかけた。

「あんたはとりあえず中に入れ。明日村まで連れてってやる」

 テントの入り口を持ち上げてくれている。
 外は寒くて、火の灯りが恋しかったので、お言葉に甘えて中にいれさせてもらった。

 テントの中は思ったより広くて、中央には焚火があって、天井から鍋が吊るされてぐつぐつと音を立てていた。音だけは食欲をそそる音だった。だけど……いい匂いというよりは、異臭が、何か焦げたような臭いのような、そんな臭いが立ち込めている。

 思わず鼻をつまむと、彼は「ああ」と何かに気づいたように呟いて、呪文のような言葉を呟いた。ふわりと風が起こって、鍋から立ち上がる湯気を天井から伸びた煙突のような方に導いた。臭いが少しマシになる。

「これは何の臭いですか?」

「飯だ。一角兎を煮ている」

 一角兎……は、角の生えた兎で、凶暴な魔物だったはず……。
 私は本物を見たことはないけれど。
 その時、私のお腹が鳴った。

「――悪いが食うものはこれしかない」

 彼はぐつぐつ煮える鍋を指差す。

「食うか?」

 彼は鍋の蓋を開けた。むわっとまたすごい臭いが立ち込める。
 鍋の中には何か黒いどろどろした泥水みたいな液体が入っていた。

「……」

 私は言葉を失って、黙り込んだ。
 
「食わない方が賢明だ」

 彼はそう言って鍋からその黒い液体をすくって椀に入れ、スプーンですくって口にいれた。私はそれをじっと観察する。――あれ、人が食べていい物なのかしら。

「う……」

 ライアンは苦しそうにそう呻いて、口を押えた。
 顔が青白い。
 しばらくそうしてからようやくそれを飲みこんで、すかさず近くの壺に入った水をがぶ飲みした。
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