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ゼイン(長兄)が語る話※おまけ

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「さぁアメリア。そこに座るといい。兄様がお話を聞かせてあげよう」


久しぶりに入った兄の部屋にあるソファに腰掛ける

やっと目的地に着けた安心感が込み上げてくる


「どんなお話?兄様!早く聞きたいわ!」



うーん…どんなお話を兄様はしてくれるのかしら!

やっぱり冒険物語かな?

蜂と蟻が恋に落ちる、『しゅ』?を超えた恋愛物語?

それとも、兄様の恋話かしら?



色々と考えて話し始めるのを待っていたけれど、まだ始まらない

どうしたのかしら?


「兄様?どうしたの?」


「少し待ってね…」


「…泣いてる?」
「泣いてないね」


即答だったわ

ルーク兄様は疲れてたのよ、きっと

お話はいつでも聞けるわ

また尋ねてみようかな?

きっと歓迎してくれるはずだわ!



「よし、準備出来た」


そう言って兄は机に何かを置いた

手元に見ると人形が2つ置いてある


…あ、3つね


「…兄様、私はもう6つよ」


「ん?それがどうしたんだ?」


「立派なしゅくじょなのに…」


人形が無いと物語を理解できないと思われているのかしら

私はもう理解出来るわ…


「いや、アメリアを馬鹿にした訳じゃない。これは私の物語を語る上での必需品なんだ。気にしなくていいよ」


「必需品?」


物語は声で伝えて頭に入るわ

文字で理解することこそ物語を読むことになるのに

それを見て理解するの?


「アメリア、私は長兄なんだ。それも1番早くに産まれたんだよ」


「知ってるわ」


「だから兄弟達には全員お兄ちゃんとして色々やってきたんだ」

やってきた?


「何を?」


「そうだな…例えば、シエルにはこの人形で一緒に遊んであげたよ」


「え、姉様に?!いつも刺繍か、本しか読まないのに?」


「…あぁ。そうだね」


顔が引き攣ってるみたい

最近多いのよね…なんでかしら…


「あ、じゃあリリお姉様には?」


これはとても気になるわ!

お姉様にはあまり昔のことを聞いたことがなかったし!

ゼイン兄様から聞けるかもしれない!


「リリは………あまり…人形とか、そういうのが好きじゃなかったんだよ。昔はね」


「え?でも、人形劇に見に行くって言ってたわ?」


「ん?それは本人が言っていたのかな?」


あ、笑った

ちょっと怖い


「うん…そうよ」


「そうか。リリには問い詰めないと」


お姉様ごめんなさい

私何か大変なことをしてしまったのかもしれないわ

帰ってきたら謝るから許して

ね?




「ふぅ…まぁいい。じゃあ人形はいいみたいだし、早速話していこうか」






………




ーある国には王子が暮らしていた

兄弟はいるんだけど、特に仲がいいという訳でもない

母親が異なる場合が多くて、それぞれが仲があまり良くなかった


『母さん。僕は初めに産まれたから王太子になるのかな?』


『まぁ…家のことを考えるとそうして欲しいけれどね。別に無理をしなくてもいいわ。貴方が王になってもさほど意味は無いもの』


それぞれの母親…つまり側妃が王子、王女を嫌っていることが多かったが、
その王子は幸いにも母が嫌うという訳でもなく、また権力にあまり関心が無かったため比較的自由に暮らしていた


だが彼は第1王子

王太子でなくともそれ相応の対応が求められた


学術

武術

魔術


などなど


沢山の知識、技術が必要だった



彼は幼少期にゆったりとした生活を送っていたせいで、かなり厳しい日々を送っていたのだった



そんなある日、その国で王子と王女のお披露目があった

母も父もそこまで興味が無い



別に何をしても問題ないだろうと、彼は気を抜いていた

彼が披露した剣舞は失敗

練習していない

当然だった


とりあえず謝罪の言葉を王である父親に伝え、その場を早々に去ろうとする


すると…


『そのザマはなんだ』


『…え?』


突然父に声をかけられた


『第1王子ともある者がその程度か』


『…申し訳ございません』


『……………………』


その場に静寂が訪れる


これ・・は誰の責任だ』


『…え?』


父の発言にその場の者たちはみな困惑した

特に気にもかけない息子の失態

恥をかいているのは本人のみだというのに、妙に失態に固執する


『………王妃』


突然母の名前を出され王子はより、困惑する


『なんでしょうか、陛下』


母親は王の呼び掛けに答える

困惑している様子はなかった


『今このときをもって、王妃の地位を剥奪する』


ーー


そこからは追われる日々が続いた

母が城を追い出され、王子は後ろ盾を失ったのだから

1人で全てに立ち向かわなくてはいけない


まだ6歳の幼い王子は周りの悪意に対抗しなくてはならなくなった



もちろん不服を父に伝えたが、『気まぐれだ』と言うのみ

母親に関しては王子に関心が無いようだった




………



「え、王子…6歳だったの?!…同い年だわ…」


「そうだね。その歳で丸裸で戦場に出されたようなものだよ」


「…私なら一撃ね…」


………




だから見返す………と言うよりは自分が生き残るために、王子は力をつけることにしたんだ


今まで疎かにしていたものに真剣に取り組み、数々の成績を残した

たった2年で、その存在を無視は出来なくなるようにしたんだ

そして母親をまた元の地位に戻すよう父に頼み、結局また別れてから3年後に再度母親は王妃になった




後にこれが母親が王に王子のために頼んだことだと明らかになるのだが





そうして思わぬ成長を遂げた王子だったが、何でもこなせるようになってしまったおかげで
何をしても気乗りしなくなってしまった

普段笑顔を貼り付けて、愛想を振りまく

そんな日々



そんな日々にある知らせが届く


『………もう1人の妹?』


『はい……。陛下の婚外子だとか』


『第3王子と同い年でもあるみたいですよ王子』


(第3王子は先日双子の妹を亡くしていたな…)


それ自体はあまり気にとめなかったが、何となくその新たな妹が気になった王子は

弟の第3王子と共にその妹の部屋を訪ねることにした




侍従が扉を開け、部屋の中には少女が1人

儚げな雰囲気が漂っており、白銀の髪の毛が相まっている


それに彼女を纏う空気は異質だった

妖精………いや、精霊のような少女


明らかに自分とは違う



ーー




王子の新たな妹は冷たかった


『ねぇ、外に行かないかい?空気を吸いに行こう』


『近づかないで』


『そんな硬いことを言わずに』


『出てってって言ってるでしょ!』


『うーん…君からも何か言ってよ』


隣にいる弟にも援護を求めるが、無反応


まるで巨塔だった

絶対に崩せない強固な城



彼女は婚外子

母親は外にいる

母親と一緒にいられないのが辛いのだろう


そうして、王子は男装をさせ母親に会わせることにした



そしたらすこぶる元気になって

周りに色んな話をするようになった



特に王子に懐いていって

王子と妹、兄弟達は幸せに暮らしましたとさ




………





「無理やり終わらせたのね、兄様」


「もう少し語りたかったけどね。大変だから省略したんだ」


「でも、ほんの少しだけ面白かったわ!」


「それは良かった」


アメリアは大変満足したようだ

このまま話していたら、本当に語れない






本当に大変な物語だからな…………










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