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アメリア王女の話
しおりを挟むエピスィミアの王城には小さなプリンセスが住んでいる
仲の悪い兄や姉達もこのプリンセスだけは特別
全ての兄弟…いや全国民から愛された、特別な存在
彼女が笑えば周りの雰囲気は、まるでお花畑のよう
誘拐されそうになっても誘拐者を陥落させてしまう純粋無垢な心を持つ少女…………
ーーー
コンコン
ある日の夜明け、第2王女シエルの部屋にノック音が鳴り響く
外はまだ薄暗く、とても静かだった
(………?…こんな朝早くに…誰かしら?)
ベッドで眠っていたシエルは閉ざされた重たい目をゆっくり開く
「…………ふぁ」
小さな欠伸をしてモゾモゾと動き出す
護衛は外に控えているはずだが、声がかけられなかったということは兄弟が尋ねてきたのかもしれない
「………………どなた?」
ベッドの上で背筋を伸ばし、扉に視線を向ける
横になりながら対応するのは不敬だ
だが、こんな朝早くに来たのだ。多少の無礼は許されるだろう
シエルの声を聞いて、扉が控えめに開く
扉が開いてしばらくすると小さく空いた隙間から頭がひょっこり
「ねぇ様ー……」
「!」
シエルと同じ美しい金色の髪と、大きな愛らしいグリーンの瞳を持つ少女
彼女は第6王女アメリア・ルーセント・エピスィミア
兄弟達の歳の離れた末っ子だ
ーーー
「朝早くにごめんなさい…」
起きてそのまま部屋まで来たのか、まだ部屋着のままだ
突然の末っ子の訪問にシエルはかなり驚いていた
「いいのよ。それよりアメリア、どうしたの?怖い夢でも見たのかしら?」
姉に尋ねられ顔をあげる
瞳には涙が溜まっているようだ
「違うわ……」
「あら、ではどうしたの?嫌なことがあったのでしょう?さぁ、姉様にお話しなさい」
可哀想だとは思いつつ、幼い妹が可愛くてしかたないのかシエルは微笑みを浮かべる
「姉様が解決できるかもしれないでしょう?」
「……………あのね…私…ぐす」
思い出してしまったのか、とうとう泣き出してしまった
姉は泣き出してしまった小さな妹にオロオロしてしまう
「あ、アメリア…!どうしたの?辛いことがあるのよね?泣かなくていいわ。姉様がお話を聞くから」
妹を手招いて、ベッドの端に座らせ落ち着かせる
姉に撫でられて少し落ち着いたのか、非常に悲しそうな顔でぽつぽつと話し始めた
「…リリお姉様に会いに行ったの」
「…………えっ」
この日はリリアーヌがハテサルに向かうため、国を出てから2日目だ
アメリアはまだ父王の召集する会に参加出来ないため、留学する件を聞いていない
あれよあれよとすぐに準備が整えられ、アメリアの方に情報が伝わっていなかった
「さっき…お姉様がいる離宮に行ったわ………お話したかったの…いつでも来ていいって言ってたから、今日も行ったわ………でも、誰もいなくて………侍女に聞いても分からないとしか言わなくて……」
「あ、アメリア…それは」
アメリアはリリアーヌにとても懐いていた
兄弟からとても大切にされている彼女だが、リリアーヌのする話は彼女にとって魅力的だった
リリアーヌはよく離宮を抜け出している
男装をして平民を装い、人々の様子をよく観察しているリリは色々な話題を持っていた
今はどんなものが流行っているのか
あそこの路地裏には美味しい料理亭があるとか
今日はどんな変人共を叩きのめしてきたか
最近のよく使う殴り方はどんな型なのか
城で生活していたら絶対に知ることが出来ない色々なことを教えてくれる
アメリアにとってリリアーヌがする話は輝いていた
そのため面白い話を聞こうと、アメリアは暇があればリリアーヌの部屋に行き、夜は一緒に眠ることが多い
2日後にいないことを知ったのは、アメリアが次兄ルークの視察に同行していたからだ
ルークは、リリアーヌがしばらく城を離れることをアメリアが知ったら泣いてここに留まるよう懇願することを予想していた
リリアーヌはアメリアを溺愛している
可愛い妹にお願いされてしまったら、勝利は不可能
リリアーヌがアメリアにお願いされてやっぱり行かないなどと言い出すのを防ぐという目的があった
しかし、それだけならアメリアを城の奥に置いておけば済む話だ
問題は(意外にも)彼らの父にあった
父である国王は確かにリリアーヌの暴力の前には勝てない
それが原因でかなり気が弱い男だと思われがちだ
しかし彼は国のためならどんなクズのようなことも平然と行うサディストだった
リリアーヌが結局、留学の件を承諾したのは彼女が彼の性格をよく知るからでもある
リリアーヌは強い
だが権力がない
父王はたとえ我が子だろうと容赦しない
彼女は兄弟や、母親に矛先が向いてしまうことを理解している
ルークも同様に面倒臭い王子ではあるが兄弟のことは大切に思っている
外へ連れ出したのは父にアメリアがたとえ不満を漏らしたとしても、このことが伝わらないよう防ぐためだった
「うぅ…………もしかしてお姉様は私のことが嫌いになっちゃったから出ていっちゃったのかも………」
「そんなことないわ!リリは貴女のことが大好きなのよ!リリだって出ていきたくて出ていった訳じゃないわ!」
「そうなの?」
「そうよ!それに、貴女には沢山愛してくれる人がいるでしょう?リリアーヌだけじゃないわ」
「…うん」
「ふふっ。あぁそうだ、ゼインお兄様の所に行くといいわ!」
「ゼイン兄様の所?」
何故急に長兄の名前が出てきたのか分からなかったのか、首を傾げる
「ゼインお兄様は色々な国に行き来しているのよ。きっと、アメリアが好きな冒険物語を話してくれるわ!」
「ほんとに?!」
「えぇ、本当よ。私は外にあまり出ないから、お兄様の方がよく知っているはず」
シエルの話を聞いて目を輝かせたプリンセスはクルクルと回った
「ありがとう、姉様!私、行ってくる!」
ーーー
(えっと……ゼイン兄様のお部屋は…………あ、あれだわ!)
姉に助言を貰って希望が持てたアメリアは廊下を駆ける
兄が住む場所は普段来ることがないが、護衛に聞けば何とかなると思っていた
「…………なぁ何か足音が聞こえないか?」
「……ん?………っな!あ、アメリア王女様?!」
まさかの来訪に驚いた護衛が声をあげる
「王女様、まだ夜明けです。お休みになった方が………」
「兄様に取り次いで欲しいの」
「で、ですが……まだお休みになっているかと………」
「貴方達が起こさなくていいわ。私が起こすの。そっと部屋に入るだけだもの。大丈夫よ!さぁ!」
護衛達はかなり驚いた様子で固まっていたが、しばらくすると扉を開けてくれた
(やったわ!あれ………でも、さっきの護衛さん…この前の視察の時に会ったような…)
若干の違和感を持ちつつ、兄のいる部屋に入る
見渡すとまだカーテンが閉まって薄暗く、中の様子がよく見えない
ベッドの上に誰かが寝ていることだけ分かった
(トントンって優しく起こしたら多分目を開けてくれるわ)
そう思って、ベッドに近づく
布団を頭まで被っているのか顔までは見えなかった
「兄様ー」
「………」
「にいさまー、あさー」
「……………………ん」
「にいさまー、おきてー」
「………………んん?」
「あ、起きた?」
「………………………………ぁ、アメリア?」
大分掠れた声だ
寝起きでまだ朦朧としているのかピクリとも動かない
ベッドの上にはただ白い物体が乗っかっている
「そうよ、兄様!アメリアが来たわ」
「…………どぅぇ?」
大分変な声だ
かなり驚いているのは分かるが、それでも変な声だ
「にいさまー、何かお話してー?」
「………幻覚か?」
かけられた白い物体から聞こえてきた声ははっきりしていた
毛布の中にいたため、まだ薄暗い部屋の中さえも眩しいのか
隙間から様子を伺っているらしい
だが、この声の持ち主はアメリアが想像していた兄とは違う
今度はアメリアが驚く番だった
「………あれ?ルーク兄様?」
「…………?そうだが…」
アメリアがつい先日まで一緒に行動していた兄だ
ゼインの方を期待していたアメリアは少しガッカリしたものの、目の前の兄には見せない
「ルーク兄様、ごめんなさい。部屋を間違えちゃった」
「………誰の部屋に行こうとしたんだ?この辺りの部屋はゼイン兄上や、イアンの部屋しかないぞ」
「!そうよ、私、ゼイン兄様のお部屋に行きたいの!」
「…………兄様を尋ねようとは思ってなかったんだな」
「……あ…………ち、違うわ!ルーク兄様の所に行ってから、ゼイン兄様の所に行こうと思ってたの!」
「!そうだったんだな!」
「えぇ、そうよ!」
アメリアはルークのことをよく理解していた
いつもは誰にでも怒りを露わにする王子の顔は緩みきっている
背は小さいが、顔は綺麗で有名なルークは他の兄弟と同様に末の妹を溺愛していた
「じゃあついで………じゃなくて、兄様に質問してもいい?」
「?どうしたんだアメリア?」
「面白いお話をして!」
「……面白い………話?」
「そうよ!例えば、主人公が冒険に出る話とか!」
「あぁ…そういう…」
ルークは妹が言っていることを納得した
要は読み聞かせなるものをして欲しいという要望だ
可愛い妹のためなら何だってこなしてみせるのがルークという青年だ
是非ともやりたいと思っていた
だが、ルークにはひとつ気がかりなことがひとつ
それは彼が読み聞かせなるものをした経験がないということ
彼が文字を誰かに対して読むことなどスピーチか、宣誓の時くらいしかないのだ
それも馬鹿でかい声で。
優しく
「おおむかし………ちいさなくにのおうじさまは………__」
などと語りかけることなど不可
ましてや、短気な性格ということもあって、彼が出す声など罵声か怒声だ
「あ、アメリア…その、」
話したいがどう話せばいいか分からない
どうしたものかと頭を抱えた
「………冒険物語じゃなくてもいいわ!ほんとに何でもいいの!…………………例えば………」
ちいさな顎にちいさな手を添えポーズをとる
そして暫くした後、「思いついた!」と笑顔を兄に向ける
「路地裏であったクズどもをボコボコにして、金品を奪う話とか!」
「アメリア??????」
「あとはね~…あ、出会い頭にあったゴロツキにジャーマンスープレックスをかました話とか!」
「????????」
「まだ他となると………酒屋で大暴れしてたクソじじいどもを顔が嫌いっていう理由だけで顔面の骨を粉砕する話とか!」
「アメリア?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」
天使のような妹から出たとは思えない殺伐としたワードが次々に並べられていく
「どうしたの?兄様?」
「君がどうしてしまったんだ、アメリア?!?!」
ほぼ悲鳴である
「何かあったの?」
「一体誰の入れ知恵なんだ?!一切の穢れすら見当たらない俺の天使に何てことを!!!!!!!」
「え、天使?」
そんな可愛らしい声の質問と共に部屋の扉が開く
「こんな朝早くに一体どうしたんだルーク」
「あ!ゼイン兄様!!!!」
アメリアは目的の人物が現れて嬉しくなったのか、兄の所へ走っていく
一方でもう片方の兄は放心状態だった
「………………ゼイン兄上…」
「………あー…成程なぁ」
瞬時にどういった状況か理解した長兄は普段あまり見られない苦笑いを顔に浮かべた
「アメリア、あまりルークを虐めてはいけないよ。ルークはお前のことが大好きだからね」
長い足にしがみついている妹に目を向けて諭すように言う
「………?うん!」
((リリアーヌに似てこないか心配だな……………………))
兄ふたりは小さな天使アメリアの行く先を初めて案じた
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