男装王女と、冷酷皇子の攻防 設定集

𝑹𝑼𝑲𝑨

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イアンの話

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「殿下、レステル商会の案件に関する書類はどちらに置いておけばよろしいでしょうか?」


「そこの書類の上に置いておいてくれ。直ぐに目を通す」


「かしこまりました」




王都郊外にて…

閉鎖的で、十分の広さのない部屋に置かれた中央の机には青年が1人





部屋に見合わぬ高貴さがあり、どこか近寄り難い雰囲気を纏っている

漆黒の癖のない髪と、どこか冷たさを感じさせる碧色の瞳







彼の名はイアン・テランス・エピスィミア

彼は名家ローゼンバルト公爵家の次期後継者であり、国で最も尊い血を引く王子だ

次代の公爵という立場であるため、姉のリリアーヌに名前を貸して外に出られない間も忙しい




小さな部屋にはただ紙の擦れる音が響いている






ーーー






「はぁ…」



一通り必要な書類に目を通して溜息をつく



姉の頼みによって始まったこの生活…



もう数週間陽の光を見ていない

ほんの少しだけなら外に出てもなんら問題は無いだろう

だがこういった普段の気の緩みは必ずツケが回ってくる

いくら王都郊外にいるにしても気は抜けない





姿勢を正し、ペンを握り直す

目の前の書類に再び目を向けようとした






………書類が無い






「…殿下……………少しお休み下さい。私達で処理できることは全てやっておきます」

視線を上げると、従者のひとりが書類を取り上げていた





「余計な世話だ。早く渡せ」


「この生活が始まってまだ数週間です!体力を温存なさって下さい!」


「僕なら大丈夫だ。ここ最近はずっと部屋に籠っていたんだ。慣れている」


「ですが……」


「姉上の生活に比べたらマシだろう」


「っ…」



従者はより一層困った顔をする

姉上は周りから信頼されてな………誤解されやすいからな…



「僕は自らの意思で部屋に篭っている。だが、姉上はそうはいかない。ずっと気が抜けない生活を送ってるんだ。………ハテサルにバレたらどうなるか、姉も僕も理解している」



首が飛ぶに決まってる

例え他国の王族だったとしても容赦しない国なんだ







「……出過ぎた真似を致しました」


「…いや…………心配してくれたことに感謝する」






………姉上は無事だろうか




ハイトから1度だけ手紙が届いたが…まぁ案の定というか

あの人…姉上はいい意味でも悪い意味でも期待を裏切らないからな…



『君のお姉さん………リリアーヌ王女は本当に面白い人だ!魔力の量も半端ない!もしかしたら君より優秀な魔術士かもしれないよ?……彼女は自分の強さをあまり理解していないようだった。皇子殿下も目を見開いていたんだよ!分かるかい?あの冷酷皇子がだよ?人を平気で殺るような残忍な青年なのに………あんな目を見開いているのは初めて見たよ!!!
……………!……………………。……………』




大分興奮気味だ

彼は魔法同好会とやらに参加している


以前メンバーにも会ったが………大分頭がやられていた

僕も魔法について研究することはあるが…あそこまでじゃない




『ぐへへぇ~凄い魔力だぁ~…キキッキヒヒッ』






悪寒がする


一般人を差別したい訳じゃない

だが、悪寒がするんだ





彼が一般人だからという訳ではなく、彼本人の性格に対してだとは思うが………


正直言ってあれは無い

どう生活したらあんな風に育つのだろうか





ーーー







『聞いたかい、イアン?』


城でたまたますれ違ったゼイン兄上からある日突然告げられた


『……何をですか?』


『何って…君の同い年の姉のことだよ』


『……同い年の…姉?』


『元々庶子だったそうなんだが、王族に籍を入れるそうだよ』


『………』


『嫌だよなぁ………』



初めて聞いた時は見た事のない新しい姉と父に怒りを覚えた


(新しい…………姉だと?あのクソ親父…何を考えている…!)


庶子が王族の籍に入るということ自体はどうでも良かった




だが、タイミングが悪すぎる





………………






『…………うぅぅぅっ………ゔうぅぁ……ジア゙ァ…ゔぁ…グジァァ………クシァ…』



ここ2週間、母の部屋には泣き声が響いている



『…母上』


『ア゙ア゙ア゙ァァァァア………ヴヴヴヴァァ………ジア゙ァ…』


『…………声が枯れてしまいます、母上。クシアが母上を思って、天国に行けなくなってしまうかもしれません』


『ヴルザイ!五月蝿い!!!!!!ア゙ぁ……』





双子の姉が殺された



姉………クシアは優しい王女だった

全てのものを愛していた

彼女が生きている間は幸せだった

母も僕も…笑顔だった





殺される時は一瞬だった

理解するのが追いつかないくらい早かった

姉の驚いた顔が………



姉は王族の籍から外された

名前も後世に残らない

生きていたことを忘れられる




姉は何か悪いことをしたのだろうか?

毎日人助けをしていた彼女が?

貴族は自分の領地で私腹を肥やすだけだから、姉は少しでも…と



姉はずっと働いていた

病気にかかった人々を助けるために薬学の勉強までやっていたんだ

同い年なのに、産まれたのが先だっただけなのに、僕と天と地の差がある

そんな不甲斐ない弟も愛していた


……


『今度はこの前得た利益で孤児院と、病院を建てようと思うの!』


『え』


『きーっと、気に入ってくれるわ!!』


『……父上がなんて言うか…………』


『別にお金はせびってないし。大丈夫でしょ』


『ふふ、いいじゃないの。孤児院はまだまだ足りないし、病院も必要だわ。陛下も許してくれるはずよ』


『…………でも最近機嫌が悪いんだ。誰かを探してるみたいで…』


『ふぅ~ん』


『真面目に聞いてる、クシア?』


『この紅茶美味しいわ!孤児院に持って行きましょう』


『怒られても知らないからな』





『おいっ!なんだ、これは!!!!!!』


『『『へ、陛下!?』』』


『私がこうして働いている時に…………のうのうと茶を飲んでいるのか!!!!!』


『も、申し訳ありません、陛下。今すぐ片付けます。さぁあなた達早く片しなさい』


『は、はい…母上。』

『……分かりましたお母様』









『おい、クシア』


『………如何致しましたか』


『お前………………ベゼル領の病院を勝手に改装したようだな?』


『…ナリ公爵に何度も連絡致しました』


『何度も連絡した…………だと?』


『あの病院は……衛生管理が整っておりませんでした。死者も出ているとか………ですので、わたくしが自費で対応したまでです』


『ナリ公爵は私の叔父だぞ!!!!私の顔が丸つぶれではないか!!!』


『………関係ありません。人々を助けることに悪いことなどありますか?』


『…く、クシア!あぁ………申し訳ありません陛下。後でしっかりと言い聞かせておきます………。まだ小さく、前も後ろも分からぬ子供です。どうかご慈悲を………』






『クシア…前へ来なさい』


冷たい声だった

底冷えする声だ

どうせまた叩かれるのだと…そう思っていた



グサッ



『………え?』


『く、クシアッ!!!!!!は、早く医者を……』



『土に埋めろ』


『お……………おどうざま…』


『…………な、なんてこと!!あぁクシア!!!』


『あの世で悔いるがいい』



……………………




『…………イアン?』


『……!』


考え込んで、一言も発しない弟が心配になったのかとても不安げな顔をしている


『1度…………新しい君の姉に…会ってきたらどうかな?』


『……………何故そのようなことを僕に言うのですか』


『…今から会いに行こうと思ってたんだ。一緒に行こう』



ーーー




姉という存在が恋しくて、無言で兄についていく

自分の部屋のより大きな扉の前にはかなり厳重な警備が敷かれている


中に入ると、少女が1人

背丈は同じくらいだが、体は細い




『…………誰?』


振り返った少女はこちらに目を向ける

クシア同じ、銀の髪

クシアは黒に近い色をしていたが……


目の前にいる彼女は白に近い





クシアが潔白イノセンスを証明するためにあの世から降りてきたに違いない

そう思わせるような幻想的な少女だった



ーーー




新たな姉………:リリアーヌ姉上はクシアとはある意味正反対だった


外に逃げ出しては暴動を起こすの繰り返し

城では生活させられないと、使われていない離宮に閉じ込められた

すぐに叫ぶし、優雅さに欠ける




(これが姉?………………動物だろう?)

本気でそう思った




だが…………

クシアが殺され、皆が父に怯えていた時…………



『こんなのふざけてるでしょ?馬鹿なの?国王なのに?』


『なっ?!』


『私はクシアとかいう姫様に会ったことないけど…そんなことで殺したの?頭大丈夫?』


『ふざけるなあ!!!!!庶子の癖に何様だ!この城にいるだけでも有難いことだと言うに…………!!!!!』


するとリリアーヌ姉上は父に近寄り、殴り始めた

流石に護衛が駆けつけてきたが全くもって問題なかった



『邪魔』



膨大な魔力を解き放ち、一掃する




僕は…………僕はあの時……妖精を見た






ーーー







「……姉上は無事だろうか?」


「心配ですか?」


「いや………」




従者の問いに素直になれない

素直になれないのはきっとあの時から…




「母上が気にしていたんだ………姉上が心配だと」


「あぁ…エーテル側妃が…………リリアーヌ王女様のことを大切に思っていらっしゃいますしね…」


「母上なら何か知っているかもな…絶対ハテサルに誰かは送り込んでいるだろう」


「では、エーテル側妃に手紙を送ります」


「そうしてくれ」







問題…………起こしてないといいが…

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