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エーテル側妃の話②
しおりを挟む「リリ!さぁ、こっちにいらっしゃい。………………どれが似合うかしら…。クシアと背丈も殆ど同じだし、作り直す必要もなさそうね。でも………そうね……………貴女は肌もそうだけど、髪も色白だから薄い色のドレスが良さそうね」
「…………えっと………」
リリアーヌを養女に迎えて、数ヶ月
私の周りの環境は一気に明るくなった
「リリアーヌ王女殿下は美しい蒼の瞳をお持ちですから瞳の色に合わせても良いのではないでしょうか、側妃様」
「そうね…………」
例えば、心の病がようやく治ったようだと
侍従や侍女がまた傍に数名付けられることになった
以前は言葉を発しもしない、王に見捨てられた側妃など殆どの者が相手にしなかった
こんなに賑やかなのは本当に久しぶりだ
「側妃様。こちらのドレスはいかがでしょうか?」
「あら、確かに似合うわ」
「……………」
リリアーヌのドレス選びを進めているとノック音と共に扉の開く音がした
疎遠だった息子のイアンが顔を見せるようになったのはとても大きい変化だ
「………母上。リリアーヌ……王女殿下」
「あらイアン。来ていたのね」
「来てたのk…………来て…い……たの………ね?」
「………………はい」
(………まだリリアーヌには慣れていないようね…………)
姉のクシアが色々と勝手をしていた分、弟のイアンは大変落ち着いた性格だ
リリアーヌも、今は少し遠慮しているところがあるものの
クシアと似ているところが多い
クシアがこの世から消え、リリアーヌが城に来るまでの期間はそこまで空いていなかったのだが
夫に、父に、明るい希望を奪われたことによる闇は深かった
何千年の空白があったようにも感じる
だからこそ久しぶりの光にまだ慣れない
(イアンが拒絶しなくて本当に良かったわ)
目の前で姉を切り殺されたのだ
トラウマになっていることは間違いないだろう
勝手に血の繋がらない姉が出来ていたら不満を抱きそうだけれど、
イアンにも思うところがあるのか対応は彼にしては穏やかだ
…………恋しかったのかもしれない
「…………姉上の服をリリアーヌ王女に?」
「えぇ」
私に尋ねると、数秒視線を彷徨わせてからドレスの選択会に参加し始める
「………………イアン王子も参加するんですか…」
リリアーヌは困ったように眉尻を下げる
いつもは無表情で暗い顔をしている王女だというのに珍しい
(………………クシアがお茶会を開いて以来の穏やかさね)
クシアは自分の後に会ったこともない少女が、自分の弟や母親と親しげにしている所を見たらどうするだろう
『わぁ!私に姉が!こんな嬉しいことはないわ!!!さあ、一緒にドレスの着せ替えとか、読書とか、色んなことをしましょう!!!!ね、リリアーヌお姉様!』
……………きっと仲良くなっていたわ
そんな未来が絶対にあった
愛しい3人の子供と暮らす日々がそこにはあった
もう少し…………早ければ
メイドや義弟にあれだのこれだのとドレスを着せられる少女に目を向ける
(………………………………自分が探していた子だというのに…………ドレスの1着も与えぬとは……。どうかしているわ)
新しく入ってきた王女ではあるが、リリアーヌはかなり冷遇されている
要するに、リリアーヌは王の庶子だった訳だが。
大臣達の反発を押し切り、わざわざ王族の籍に入れさせたというのに王本人に王女に対しての関心はない
彼女に与えられた場所は王子王女が暮らす別宮とは違う、
以前使われていたもうひとつの別宮だった
かなり廃れていて、とても暮らせるような状態ではない
実家の者に頼んで、
ある程度改修を頼んでいる間、私の部屋に住まわせている
この間に、王女として必要な知識を与えていかなくてはいけない
彼女にどのような事情があるにせよ、王族として、
王女として生きていくには知識は必要
いくら絶望の縁に立っていたのだとしても、知識だけは絶対に与えておかなくてはいけない
無表情の顔に、笑顔の仮面を着けさせ
地味な服装に、彩りを加え
乱雑な動きに、美しさを
知識を得て完璧にこなせば、後は自由
その後どれだけ態度や素行が悪くても、実力があれば生きていける
これは教師を与えないという夫の……………王の冷たい対応に反抗するため
知識があれば王女として生活していけるだろう
後ろ盾としてローゼンバルト公爵家がいるのだから、これ以上無下にも出来ないはず
イアンもリリアーヌの置かれている状況を十分に理解しているのか、反対してくることは1度もない
彼なりの思いやりだろう
それにリリアーヌにはさらに強い味方がいる
長男のゼイン王子と、次女のシエル王女が
リリアーヌのことをとても大切にしてくれているという事実
ゼイン王子は国内外で有名な方
彼の後ろに立つ者たちはかなり屈強だ
彼の支持を受けられれば彼の後ろ盾からも援護してもらえるだろう
またシエル王女は慈悲深く、優しい性格の持ち主だ
彼女の母の側妃共にリリアーヌの容姿や内面を気に入っているようだった
何かあれば彼らも援護してくれるのは明らかだ
ーーー
『ゼインお兄様と、シエルお姉様はお優しいけれどルイーゼお姉様やルークお兄様は嫌いなのよね。あと、ローズとフィオナ。血統が、血筋がとか……………五月蝿いのよ。私にはお母様がローゼンバルト家出身だから何も言ってこないけど、国民…特に身分を持たない平民や、下級貴族なんかに対してはきっとキツいことを言っているはずよ。………まだまだ小さいけど、あのまま大きくなると悩みどころじゃないかしら。』
『随分と気に入らないようね』
『人をそんなことで馬鹿にするなんて有り得ないわ。身体の作りは全員同じなのよ?』
『そうね。だからクシアは真似をせずに、そんな姿を見たらすぐに守ってあげなさい』
『当然よ!!!お兄様やお姉様は一旦置いておいてフィオナとローズには躾ておかないと』
『…………躾って…』
ーーー
「………あの、エーテル様」
弱々しいボソボソとした声で意識が戻る
「.私……別に元々持っていた服だけで十分です…………」
随分と控えめなのね
きっとクシアだったら、全部貰っていくと言うはず
リリアーヌとの違いを見つけてしまったわ
「いやいや、ダメでしょう?ドレスを満足に持っていないなんて………それでは馬鹿にされてしまうかもしれない」
リリアーヌを困らせるために、顔に手を当て悲しそうに見えるように表情を作る
「………ルイーゼ姉上やルーク兄上は外見を特に気にされているので、ドレスは何着か持っておいた方がいいと思います」
「…………………」
息子からの援護射撃もあって、
ようやく小さな声で『ありがとう.........ござ…います』と言ってくれた
ーーーーーー
「お久しぶりです、エーテル様」
リリアーヌが尋ねてきたのは、彼女が留学するという話を聞いてから数日後
「いらっしゃい、リリ」
そう言うと、目の前の少女………大人の女性になりかけているこの美しい娘は穏やかに微笑んだ
(淑女教育の賜物ね)
リリアーヌは素行が悪いと言われているが、こうして実際に見ればそれが偽りだと誰もが分かるだろう
リリアーヌの態度が悪くなる相手はつまらない人間ばかりだ
つまらないと自覚していないから、そうやって評価を下すのだ
「実はもうすぐ、クソジジ…………国王陛下の命で、留学することになりまして」
満面の笑みを浮かべて、養母である私に報告する
(………………………''クソジジイ''と言いかけたわね)
数秒の間があって、笑顔でカバーしている
(最後まで言わないだけまだましよ。…よく耐えたわ)
「…何でも、イアンに変装して留学するのだとか………。本当に大丈夫なの?…………心配だわ」
「そう言って頂けて光栄ですわ。……………行く甲斐があるというもの」
「……………リリ…」
留学だなんて、行きたくないに決まっている
リリの趣味は裏路地に住んでいるガラの悪い輩を潰すことだというのに
留学に行けば、そんな楽しみすら失われてしまうわ
きっと悲しみにくれているでしょう
………………そうだわ
「貴女のもう1人の母…リデラ様は何と言っているの?」
私は養母として認められる際、1度だけリリの産みの母と話をした
彼女は
自分がリリアーヌの王女としての立場に対して足枷になっていると思っていたのか、
実家が公爵家である私の提案に感謝の意を示した
陛下が兵を動員してまで探した親子なのだから、
もう1人妻がいたという隠されていた事実に興味を示してはいたけれど…
リリアーヌの母親は、
人には見えない程の美しさを持った女性だった
王女として成長するにつれ、徐々に(物理的に)強くなっていくリリとは違って
本当に母親かと疑うほど穏やかな性格だった
…………リリもこんなところに来なければ穏やかに育っていたのかもしれないわ
「……………母にはまだ直接会えていなくて……。おそらくですがエピスィミアを離れる日に挨拶は出来るかと思います」
「リデラ様については心配しなくていいわ。私が守っておく」
彼女の母にはいつも護衛を付けて守らせていることは黙っておこう
「本当に感謝しています」
微笑みながら優雅なカーテシーを見せてくれる
「リリは私の前に立つとどこかの姫に見えるわ」
「……………普段は何に見えてるんですか?」
自分がやっている事だというのに随分微妙な顔をしている
「うーん…そうね………。頼れる街の用心棒?」
「…………………どこ情報ですか?」
「貴女はいつも護られているわ。だから分かるの」
「……………」
「ふふっ」
「……………………………………………ストーカー?」
リリアーヌの疑問は穏やかな空間に溶けていった
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