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四章

鍛錬会・準備期間①

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「本日より、鍛錬会に向けての準備期間に入る!各自準備を……………………まあ言うまでもなく気合いが入っているようだが。練習は怠るなよ」



イアン(リリアーヌ)が学園に入って数週間


朝早々に高らかに宣言されたのは鍛錬会の練習期間に入ったという知らせだ







周囲は3ヶ月後に向けた鍛錬会モードに包まれていた



学生達の話題も、教師や授業の愚痴から
己がいかに鍛錬に励んでいるかのアピールへと変化するという






「俺の広背筋は誰よりも負けねえよ」


「何言ってんだ!!!俺の方が凄いだろう!!!!!」


「なんだとこの野郎?!」


「ハッ…おいおい、お前ら……そんなもので満足するようなら人間失格だなぁ……ククッ…」


「な、なに?!?!?!?!?!」


「見ろ!!!!!この美しき筋肉達を…………!!!!」

   



「「す、すげぇ……………!!!」」


「こ、広背筋だけじゃない…………上腕二頭筋や三角筋………僧帽筋まで鍛え抜かれているぞ…………!!!」


「それだけじゃない…………ただ鍛えるだけでなく、美しさまで保たれてる…………!!!!」


「鍛錬会でより映えるようになっているんだ………!」


「これはもう美術品の域に達しているぞ!!!!!」


「フハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」






「おいお前ら!!!!早く講堂に集まれ!いつまで他の学生を待たせるつもりだ!」


「先生!!!!!見てください!この筋肉達を!!!!」


「………………お?お、おぉぉぉ…す、すごいな」


「でしょう????!!!!!!」






3ヶ月後までにもいくつか行事があるようだが、それらを差し置いてのこの状況だ


多くの人からの期待値が高い分、それだけ大きな行事となる


学生に限らず学園全体で気合いが入っているのだろう








………









ほんと、遂にやってきたわね………












…………やってきてしまった

ガチでやってきたわ



さっきからため息か、舌打ちしか込み上げてこない

あんなに楽しみだった鍛錬会も今ではただのデスゲームよ







…………周りから聞こえる歓声がモスキート音に聞こえる…


鋭い視線を送って静かにさせようにも元気がない


後ろから締め上げたら少しは静かになるかしら




「見て!シルヴァン様とリュカ様よ!!」


「イアン様もいらっしゃるわ!」


「シルヴァン様やリュカ様がとてもお強いのは分かってるけど、イアン様もお強いはずだわ」


「前のウェズ卿との闘いをご覧になって?」


「えぇ!本当にお強かったのよ!!!」


「「「「きゃあああ!!!!」」」」




「俺の筋肉が1番だああああああぁぁぁ!!!」


「うをぉぉぉぉぉ!!!!!!」





あのね…………その悲鳴に近いソプラノ声と野太い遠吠え………ほんと…頼むからやめてくれないかしら?









最近の女子生徒は………………高い声しか出ないというの?

鼓膜が破れてしまうわ

貴女たちの声が脳内で木霊するのよ



最近の男子生徒は………………嬉しかったら何故吠えるの?

人間としての尊厳はどこに消えたのかしら

貴方たちそれでも人間なの?



こっちは知り合いが来るとかで苦労してるっていうのに

呑気でいいわね

羨ましいわ






「あっはは!皆気合入ってるなぁ!!!!!!」







……………………あぁ


…………今日も黄色頭が叫んでる



「俺も講義よりこっちの方に力入れたいし!はっはは!!」





…テンションは絶好調のようね


気楽でいいわね

羨ましいわ


少し冷たい視線を送ってしまうのは許してちょうだい





今は朝会を終え、授業が行われる講堂に向かう途中だ


この広い学園の位置がよく分かっていないのもあって同室のシルヴァンと行動を共にしているが、今日はAB合同のためリュカこの男も一緒に行くことになった








「おい、リュカ。お前、今年はどの種目に出るんだ?」



何?ここの話題も鍛錬会のことなの?



「ん?あっははー!そんなの決まってるだろ!」


決まってるの?

いや、知らないし

あと煩いから少し黙っててくれないかしら



「俺には体術とか魔術とかの才能ないからな!剣術一本!」


はんっ

剣術一本って


所詮は脳筋ね

私とは大違いだわ






「えぇ………」


ん?反応薄いわねシルヴァン




シルヴァンはリュカを見てゲンナリした様子だった

何で?

いいじゃない

たとえ脳筋でも選択の自由はあるわ





「お前また剣を持つ手、放して教師のカツラ吹っ飛ばすからやめとけ」





「あれはわざとじゃないって!今度はしっかり勝つからさ!」




わざとじゃないのにカツラを飛ばしたの?


「お前、昨年めちゃくちゃ怒られたの覚えてないのかよ!」


…………?


「今回は大丈夫だって!」











私カツラ着けてるんだけど






「大体な、お前は______で、_____よ。_____……………」


「_____!_………………」










……………カツラ………なんだけど

…………………………………。





「俺はもうお前と反省室に入るのは御免だからな…。おい、イアンからも言ってくれ。お前も巻き込まれるから」




「……………………」


「………イアン?」


「……あれイアン?おーい、王子ー」



「………………スゥ」


「「?」」














「ダメに決まってんだろうが!!!!!!!!!!」





「うぉっ」


「え、どうしたんだよ王子」


「なんだよ脳筋!!!」


「な、なんでキレてるんだよ!だ、大丈夫か?」


「大丈夫じゃないのは脳筋、お前の方だろうが!!!」


「えぇ…?」


「教師のカツラをぶっ飛ばすなんて処刑ものだぞ!!!」


「そうなの?!」


「カツラってものはな。彼らにとっちゃあ命同等なんだよ!!!!!!」


「…………………そうなのか?」


「思いやってやれよ!!!!!!」


「お前が1番その状況を楽しみそうだけどな」


「お、俺が悪かったよイアン…」


「お前に名前を呼んでいいなんて一言も言ってないからな!!!急に名前呼びしやがって!!!」


「お前がいいって初日に言ってただろ………」






は、何?

シルヴァン、貴方も私と殺り合うの?

貴方…………二度と大地を踏めなくなるわよ




「シルヴァン…………お前…………貴様の明日が無くなってもいいのか?」


「…………何で俺が脅されてるんだよ」


「おいイアン………ほんとに大丈夫なのか?」


「……チッ」


「おい聞いたかリュカ。こいつ舌打ちしたぞ」


「なんかあったのか?」






ゼイン兄上とシエル姉上ならハテサルまでお忍びで見に来るのも納得出来るわ

でもアメリアとエーテル様だけは聞いてない




アメリアなんかはまだ小さくて、きっと私に期待してるはずだもの

相手に勝つことは出来るかもしれないけど、ボコボコにするところは見せられないわ



教育に悪いし

何よりアメリアは優しい世界で生きていて欲しい

















「…………………何でもない。…行こう」


















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