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第二章(下)
第8話
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前回のあらすじ、四天王に追いつく。
突然の騒音に、響く悲鳴。降り注ぐ血の雨に戸惑っていただけの通行人達だったが、大剣で歩道の一部を砕いた少女を見ると、蜘蛛の子を散らしたように逃げ去る。
大剣持ちの少女に相対している老人はため息を吐き、腰に回していた手を前に出す。
「あやつもそうじゃが... 若いのは色々なものにすぐ対応してしまう」
老人が見せた手には手鏡が握られていて、光を反射する。
少女の目を狙ったその光は、大剣の刃の部分によって防がれ、老人の目に少しばかり眩しく映る。
「二度も同じ手が通じるかってんだ!」
ニヤつく少女を見ると、年相応のため息を再び吐く老人。そして少女の後ろのどこかを確認すると、顔をしかめる。
「タイラン様、通していただけますか!」
近づいてくる足音と共に少女の耳に届いてきたのは、よく耳に馴染んだ声。振り返らずとも分かる、自身の従者の声だ。
不思議と活力が湧き、心が踊る。従者だけを先に行かせてなるものかと、大剣持ちの少女は老人との距離を詰めようとする。
その様子を確認すると、老人は逃げず、のろい動きで右手を掲げ、指を鳴らす。
大剣持ちの少女の目には既視感のある光景。空気の動きが可視化できるように大きく震え、鼓膜にダメージを与えるというものだった。
だがもちろん、少女はひるまない。
「くどいぜ!同じ手は喰らわないって言ってるだろうが!」
少女の顔に向かって風が吹き乱れていた。まるでその場所が真空であるかのような空気の動きだ。
凄まじい音なんてものともしないというように老人との距離を詰め、下から斜め上に大剣を振る。
「たわけが、そんな事は分かっておる。じゃが、来ると分かっていてもこれを防げない者がおるじゃろう」
大剣は虚しく空を切る、老人は消えていた。落ち着き払った老人の声は、少女の背後から聞こえてきていた。またもや光を利用した奇妙な光景。だが、今はそんなことを少女は気にしていなかった。
「メイ!」
急いで地面を蹴って振り返る。老人の足音からして、老人はすでに自身と自身の従者の間にいるはずだった。
これで老人を挟み撃ちに出来ていたのなら、ただの間の抜けた老人で終わっていたのだろう。けれども、自身の従者はこの音に対処できていないはずだ。
だが現実は違った。振り返った少女が見た老人の顔は、どこか掴み所のないそれではなく、苦悶に歪んだ表情であり、見覚えのある剣が老人の心臓の部分を貫いていた。
「は... 馬鹿な!音量は十分な大きさだったはず...!」
「申し訳ありません。何かおっしゃっているようですが、聞き取ることが出来かねます」
剣に寄りかかるようにして立っていた老人の後ろには、メイド服の少女が立っていて、老人に剣を突き刺していた。
「おう、さすがメイだぜ!どうやって対処したんだよ!」
自身の従者に声を投げかけるも、応答が無い。少し困ったような顔を返されるだけだった。
「ちぇえ、秘密ってか?どこか建物にでも... 」
「み、耳栓じゃな... 随分と単純な手法... じゃが!」
静止していた剣先に老人が指を触れると、それは大きく震え、粉々になる。
その瞬間、大剣持ちの少女には目の錯覚のようなそれが見えた。
老人が動いたような感覚。少しどころの騒ぎではなく、老人の全身が、ゆっくりと移動したような。
「まだ戦うおつもりですか?どうせ致命傷です。人間であれば、何分かで死に至るでしょう... 」
「違うぞメイ!それは致命傷じゃない!」
老人の服の血の滲みは、胸からではなく、少し上の肩から広がっていた。
「老いぼれは自分の位置を光でごまかしているぞ!」
言うが早いか、少女達の目の前から老人の姿は消えていた。
*********
血の跡なんて辿らなくても、タイラン達がどこにいるか分かるような気がする。
だってドタバタ音を立てているんだもん。
スズに担がれているから良く周りを確認出来ないけれど、指を鳴らす音とかも聞こえてくるし。
老人で指を鳴らす... 紳士のような敵か?アンの話だと音や光を操る能力らしいが、あの二人は大丈夫だろうか...
「勇者様、アンさん。どうやら戦いはすでに終わっているようですよ」
暗い路地を抜けたところ、高い建物が連なる大通りに出る。少し頭をずらして離れた所を見ると、こちらに背を向けた逆さまのメイが、後ろから逆さまの老人に剣を刺していた。
逆さまなのは俺の方なんだけれど。
遠目に見てもそれは致命傷のようで、タイランもメイも落ち着いているようだった。
リリーの足音も遠くの方から聞こえてくるし、今回はタイランとメイのお手柄という事で終わりそうだな。
「スズお姉ちゃん、あいつはまだ死んでいないよ」
マジかよ。
「違うぞメイ!それは致命傷じゃない!」
なんだこれ... 視界が曲がったような感じがするぞ。
「老いぼれは自分の位置を光でごまかしているぞ!」
瞬間、老人はメイの前から消えていた。スズの判断は早く、地面を蹴って二人の元に素早く駆けつけ始めていた。
激しく体を揺らされながらも、戸惑う二人の姿を捉えていると、まるで瞬間移動のように俺達とタイラン達との間に姿を現した老人が見える。
老人はこっちを、スズを見ていた。
スズとタイラン達とで老人を挟み撃ちにしている状態。光と音にさえ対策すれば勝てそうだ。
老人は目を瞑り、片手を地面についてその場にしゃがむ。
何をしようとしているのかは分からないが、老人とスズとの距離はあと十メートル程。後ろからタイラン達も近づいてきている。
「仲間が駆けつけるのが早いのう... じゃが一人ずつ対処すれば問題はない。まずは、小柄な女じゃ」
老人が呑気な独り言を口にする。
その瞬間、今までの激しい揺れがより一層激しくなり、体が大きく後ろに下がる。スズがよろめいたんだ。
じ、地面と顔が... 近い!ちょっと待ってスズさん。重心が後ろすぎませんか!?
「申し訳ありません、かなり揺れますよ」
「ふふふ、楽しみだなあ」
何を思ったのか、急にスズが後ろに大きく飛んだ。
地面から顔が離れ、何が起こったかようやく理解ができる。とても大きく、地面が揺れていたんだ。可視化できるほどに石造りの地面が震えていて、そして地面が粉々に砕けている。
多分この揺れのせいで重心を崩されたスズが、転びまいと後ろに飛んだのか。ものすごい身体能力のスズがバランスを崩したという違和感の謎が解けたぞ。
解けたついでにもう一つの違和感が。スズが地面に着地したは良いが、視界がおかしい。老人が消えたとか、ズレたとか、そんな奇妙なものではなくて、単純に視界が暗くなってきている。ものすごい速さで。
「スズお姉ちゃん。横の建物は大丈夫?」
首根っこを掴まれていたアンの見ている先には... 三階建てくらいの建物が、根本に切れ目を入れた木のように倒れてきている。
俺達死ぬじゃん。
「振り落とされないとは思いますが、一応掴まっておいてくださいね」
どこをですか?あと何をしようと...
口を開こうとした瞬間、嫌な予感に止められた。あり得ないはずなのに、スズの足元の地面がへこんだような感覚がする。
何が起こったかを理解する前に、ジェットコースターが落ちる瞬間のような緊張感が襲ってくる。慌ててスズの腰の辺りに手を回す。
スズが前のめりになったようで、地面との距離が近くなる。そして地面が素早く移動するように見え、お尻に風を感じる。
スズがものすごい速さで前の方に飛んでいる... 足の力で地面が少しへこんでいるし。
間隔を空けながら何回か地面を蹴り、最後にスズは前のめりにスライディングをするような姿勢を取りながら... 俺達を投げた。
俺の体が縦に一回転する間に、腰に手を回した老人の姿が見えた。もう少し詳しく説明すると、俺は老人に向かって飛んでいた。
つまりスズは俺達を助けるついでに、老人に攻撃を仕掛けたわけだ。俺達を使って。
「ふふふ、へっぽこ、楽しいね」
「楽しくなあああああいっ!!」
もう一回転すると、動かない老人はすぐそこに迫っていた。正確に言うと迫っているのは俺なわけだが。
やべ、ぶつかる...
反射的に目を瞑り、受け身を取ろうと身構える。
だが衝撃の感触は思ったものとは違い... とてつもなく硬かった。俺は、老人ではなく石造りの地面に不時着し、転がっていく。
俺が当たらなかったっていうことは、老人はすでに別の場所に移動していたということだ。じゃあ老人は一体どこに...
「耳を塞げ!スズッ!」
痛みを堪えて顔をあげると同時に、その音は聞こえてきた。
聞こえてきたというよりかは、顔面をクッションで思い切り殴られたような衝撃と共に、耳の奥を突き刺すような痛みが襲ってきた。
遅れて理解する。それは、指を鳴らす乾いた音だ。
ーーーーーーーーーー
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突然の騒音に、響く悲鳴。降り注ぐ血の雨に戸惑っていただけの通行人達だったが、大剣で歩道の一部を砕いた少女を見ると、蜘蛛の子を散らしたように逃げ去る。
大剣持ちの少女に相対している老人はため息を吐き、腰に回していた手を前に出す。
「あやつもそうじゃが... 若いのは色々なものにすぐ対応してしまう」
老人が見せた手には手鏡が握られていて、光を反射する。
少女の目を狙ったその光は、大剣の刃の部分によって防がれ、老人の目に少しばかり眩しく映る。
「二度も同じ手が通じるかってんだ!」
ニヤつく少女を見ると、年相応のため息を再び吐く老人。そして少女の後ろのどこかを確認すると、顔をしかめる。
「タイラン様、通していただけますか!」
近づいてくる足音と共に少女の耳に届いてきたのは、よく耳に馴染んだ声。振り返らずとも分かる、自身の従者の声だ。
不思議と活力が湧き、心が踊る。従者だけを先に行かせてなるものかと、大剣持ちの少女は老人との距離を詰めようとする。
その様子を確認すると、老人は逃げず、のろい動きで右手を掲げ、指を鳴らす。
大剣持ちの少女の目には既視感のある光景。空気の動きが可視化できるように大きく震え、鼓膜にダメージを与えるというものだった。
だがもちろん、少女はひるまない。
「くどいぜ!同じ手は喰らわないって言ってるだろうが!」
少女の顔に向かって風が吹き乱れていた。まるでその場所が真空であるかのような空気の動きだ。
凄まじい音なんてものともしないというように老人との距離を詰め、下から斜め上に大剣を振る。
「たわけが、そんな事は分かっておる。じゃが、来ると分かっていてもこれを防げない者がおるじゃろう」
大剣は虚しく空を切る、老人は消えていた。落ち着き払った老人の声は、少女の背後から聞こえてきていた。またもや光を利用した奇妙な光景。だが、今はそんなことを少女は気にしていなかった。
「メイ!」
急いで地面を蹴って振り返る。老人の足音からして、老人はすでに自身と自身の従者の間にいるはずだった。
これで老人を挟み撃ちに出来ていたのなら、ただの間の抜けた老人で終わっていたのだろう。けれども、自身の従者はこの音に対処できていないはずだ。
だが現実は違った。振り返った少女が見た老人の顔は、どこか掴み所のないそれではなく、苦悶に歪んだ表情であり、見覚えのある剣が老人の心臓の部分を貫いていた。
「は... 馬鹿な!音量は十分な大きさだったはず...!」
「申し訳ありません。何かおっしゃっているようですが、聞き取ることが出来かねます」
剣に寄りかかるようにして立っていた老人の後ろには、メイド服の少女が立っていて、老人に剣を突き刺していた。
「おう、さすがメイだぜ!どうやって対処したんだよ!」
自身の従者に声を投げかけるも、応答が無い。少し困ったような顔を返されるだけだった。
「ちぇえ、秘密ってか?どこか建物にでも... 」
「み、耳栓じゃな... 随分と単純な手法... じゃが!」
静止していた剣先に老人が指を触れると、それは大きく震え、粉々になる。
その瞬間、大剣持ちの少女には目の錯覚のようなそれが見えた。
老人が動いたような感覚。少しどころの騒ぎではなく、老人の全身が、ゆっくりと移動したような。
「まだ戦うおつもりですか?どうせ致命傷です。人間であれば、何分かで死に至るでしょう... 」
「違うぞメイ!それは致命傷じゃない!」
老人の服の血の滲みは、胸からではなく、少し上の肩から広がっていた。
「老いぼれは自分の位置を光でごまかしているぞ!」
言うが早いか、少女達の目の前から老人の姿は消えていた。
*********
血の跡なんて辿らなくても、タイラン達がどこにいるか分かるような気がする。
だってドタバタ音を立てているんだもん。
スズに担がれているから良く周りを確認出来ないけれど、指を鳴らす音とかも聞こえてくるし。
老人で指を鳴らす... 紳士のような敵か?アンの話だと音や光を操る能力らしいが、あの二人は大丈夫だろうか...
「勇者様、アンさん。どうやら戦いはすでに終わっているようですよ」
暗い路地を抜けたところ、高い建物が連なる大通りに出る。少し頭をずらして離れた所を見ると、こちらに背を向けた逆さまのメイが、後ろから逆さまの老人に剣を刺していた。
逆さまなのは俺の方なんだけれど。
遠目に見てもそれは致命傷のようで、タイランもメイも落ち着いているようだった。
リリーの足音も遠くの方から聞こえてくるし、今回はタイランとメイのお手柄という事で終わりそうだな。
「スズお姉ちゃん、あいつはまだ死んでいないよ」
マジかよ。
「違うぞメイ!それは致命傷じゃない!」
なんだこれ... 視界が曲がったような感じがするぞ。
「老いぼれは自分の位置を光でごまかしているぞ!」
瞬間、老人はメイの前から消えていた。スズの判断は早く、地面を蹴って二人の元に素早く駆けつけ始めていた。
激しく体を揺らされながらも、戸惑う二人の姿を捉えていると、まるで瞬間移動のように俺達とタイラン達との間に姿を現した老人が見える。
老人はこっちを、スズを見ていた。
スズとタイラン達とで老人を挟み撃ちにしている状態。光と音にさえ対策すれば勝てそうだ。
老人は目を瞑り、片手を地面についてその場にしゃがむ。
何をしようとしているのかは分からないが、老人とスズとの距離はあと十メートル程。後ろからタイラン達も近づいてきている。
「仲間が駆けつけるのが早いのう... じゃが一人ずつ対処すれば問題はない。まずは、小柄な女じゃ」
老人が呑気な独り言を口にする。
その瞬間、今までの激しい揺れがより一層激しくなり、体が大きく後ろに下がる。スズがよろめいたんだ。
じ、地面と顔が... 近い!ちょっと待ってスズさん。重心が後ろすぎませんか!?
「申し訳ありません、かなり揺れますよ」
「ふふふ、楽しみだなあ」
何を思ったのか、急にスズが後ろに大きく飛んだ。
地面から顔が離れ、何が起こったかようやく理解ができる。とても大きく、地面が揺れていたんだ。可視化できるほどに石造りの地面が震えていて、そして地面が粉々に砕けている。
多分この揺れのせいで重心を崩されたスズが、転びまいと後ろに飛んだのか。ものすごい身体能力のスズがバランスを崩したという違和感の謎が解けたぞ。
解けたついでにもう一つの違和感が。スズが地面に着地したは良いが、視界がおかしい。老人が消えたとか、ズレたとか、そんな奇妙なものではなくて、単純に視界が暗くなってきている。ものすごい速さで。
「スズお姉ちゃん。横の建物は大丈夫?」
首根っこを掴まれていたアンの見ている先には... 三階建てくらいの建物が、根本に切れ目を入れた木のように倒れてきている。
俺達死ぬじゃん。
「振り落とされないとは思いますが、一応掴まっておいてくださいね」
どこをですか?あと何をしようと...
口を開こうとした瞬間、嫌な予感に止められた。あり得ないはずなのに、スズの足元の地面がへこんだような感覚がする。
何が起こったかを理解する前に、ジェットコースターが落ちる瞬間のような緊張感が襲ってくる。慌ててスズの腰の辺りに手を回す。
スズが前のめりになったようで、地面との距離が近くなる。そして地面が素早く移動するように見え、お尻に風を感じる。
スズがものすごい速さで前の方に飛んでいる... 足の力で地面が少しへこんでいるし。
間隔を空けながら何回か地面を蹴り、最後にスズは前のめりにスライディングをするような姿勢を取りながら... 俺達を投げた。
俺の体が縦に一回転する間に、腰に手を回した老人の姿が見えた。もう少し詳しく説明すると、俺は老人に向かって飛んでいた。
つまりスズは俺達を助けるついでに、老人に攻撃を仕掛けたわけだ。俺達を使って。
「ふふふ、へっぽこ、楽しいね」
「楽しくなあああああいっ!!」
もう一回転すると、動かない老人はすぐそこに迫っていた。正確に言うと迫っているのは俺なわけだが。
やべ、ぶつかる...
反射的に目を瞑り、受け身を取ろうと身構える。
だが衝撃の感触は思ったものとは違い... とてつもなく硬かった。俺は、老人ではなく石造りの地面に不時着し、転がっていく。
俺が当たらなかったっていうことは、老人はすでに別の場所に移動していたということだ。じゃあ老人は一体どこに...
「耳を塞げ!スズッ!」
痛みを堪えて顔をあげると同時に、その音は聞こえてきた。
聞こえてきたというよりかは、顔面をクッションで思い切り殴られたような衝撃と共に、耳の奥を突き刺すような痛みが襲ってきた。
遅れて理解する。それは、指を鳴らす乾いた音だ。
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