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第三章(中)
少しは悩もう!
しおりを挟む前回のあらすじ、アンの情報を聞き出す。
「助かったよリリー、後はあの女の子から衛兵たちが仲間の情報を割り出してくれるだろう。それじゃあ次は僕が手伝う番だ、アンちゃんに会いに行こうか」
「もうついて来なくて良いですよ」
衛兵に店員の女の子を引き渡し、建物から出た所。
あの後ようやく起きたクルミ王子は、まだ少し眠そうにしながら歩いている。
「つれないなあリリー。この僕がいればより一層安心出来るというの... に?やあスズ奇遇だね!聞いてくれよ、カズ兄達、大手柄を立ててしまったんだ!」
あ、メイ達だ。魔獣の件を調査しているみたいだから、衛兵に話を聞きに行こうとしたのかな?
「申し訳ございませんリリー様。道中、タイランお嬢様が麻薬を所持している者を発見され、その者を拘束するのに少々手間取ってしまいました」
「ようリリー、お宝情報をゲットしたぜ!麻薬の売人が手芸用品店にいるんだとよ!」
見ると、タイランが片方の手で親指を立て、もう片方の手では、ぐったりと全身の力を抜いている男の、後ろ襟のあたりを掴んで引きづっている。
そういえば周囲の視線が痛いと思ったらそういうことだったのか...
自慢げに収穫を語るタイランだったが... 俺もリリーも考えている事は同じのようで、リリーも自分の状況を報告する。
「そうですか、ちょうど良い所でした。もうすでにその手芸用品店から情報を引き出してあります。詳しい事は宿に戻って話しましょうか」
するとタイランはがっかりするどころか、声を弾ませ...
「そうか、やっぱりリリーとカズのやつが組むと仕事が早いな!俺たちはこれから衛兵に魔獣の話を聞く所だぜ!」
「それも必要なくなりました。店員がアンの居場所を吐きましたからね」
「なに!?アンに会えるのか!ていうことはアンが麻薬を流していたんだな!?」
タイランは、後ろ手に持った男の後ろ襟をグイっと引っ張り、リリーの話に食いつく。
「うぅっ... 」
「はい、明日その場所に行きます」
するとタイランは更に男の後ろ襟を引っ張って、真面目な顔でメイの方を振り返り...
「メイ!」
「いかがなさいましたか、タイランお嬢様」
ためる。しばらく二人が見つめあったかと思うと...
「お土産を買いに行こうぜ!」
「... かしこまりました」
...まあ、明日までやる事は無いだろうから、それで良いのか?
*********
「「っっはあああ... 」」
俺もリリーも、ほぼ同じタイミングでそれぞれのベッドに横たわる。
どうしてだろうか、俺は特に何もしていないはずなのに、とても疲れている。
縛り上げられた売人を見たり、熱いお茶を浴びたり、声の弾んだ店員の女の子に襲われたりと... いや、これらは大きな問題じゃないな。恐らく今抱えている一番の問題には、となりにいるリリーが絡んでいて...
おもむろに、こちらにぐるんと顔を向けると、親指を立て、ドヤ顔で話しかけてくる。
「あのスズの婚約者を、この部屋に誘う事に成功しました。少し休憩したら出てってくださいね」
クルミ王子をリリーになびかせ、スズと婚約破棄させる作戦は、今もなお継続中である。アンへの手がかりが明らかになった今、リリーがその作戦を前に進める事は必然で...
「あの男、私といられる時間をとても楽しそうに過ごしていましたね!やっぱりロリコンの気があります!私が部屋に遊びに来ないかと誘ったら、二つ返事で了承しましたよ」
一度はヒートアップし、婚約破棄させることに前向きになったものの... 冷静に考えると、クルミ王子ほどの柔らかい見た目に優しい性格の男なら、スズとなんだかんだ上手くやっていくんじゃないんだろうか。
まあ、ただ一つ...
『はい、私もそう思います!私達が関わるべきでは無いですよね!いやあ勇者様は分かっていらっしゃいますね!』
スズとリリーの関係性について話していた時の、クルミ王子のあの顔は... どこか、スズが物語へ向けるそれと、同じような目だった気がする。
あの王子、絶対になんかあるぞ。このパーティーに関わっておいて、普通の男なわけが無い。
「なあにを不安がっているですか、へっぽこ。私があいつの本性を暴いてやりますから、安心していてください。とりあえず、あなたは何もしなくていいですよ」
…
そしてもう一つの疲れている原因、というより悩みは俺の力だ。
ジジイとの戦いの時には、なんだかんだ役に立ったとタイランが話していたが、本当に何もしていないのは事実。今日リリーとカズ王子が戦っている際も、俺は何も出来なかったし、する必要が無かった。
… このままだと俺、何もしない勇者のまま、ただパーティー仲間についていって旅を終える勇者になってしまうな。ちゃんとした戦いも、最初の四天王戦以来関われていないし。
いや待てよ。今回の四天王戦は見ようによってはチャンスなのでは?相手は植物を高速で操るとかいうぶっ飛んだ能力を持ってはいるが、それを使うのはアンだ。戦いというよりかは、遊びという認識をアンは持っているようだし、パルスとかいう二人目の四天王もそれを肯定していた。
つまりは、ローリスクで俺の能力が発動するチャンスか!?
「な、なんですか急に元気になって... 気持ちが悪いですね」
だがそれはそうと...
「なあ、もう一度聞くが、スズはクルミ王子の事をどう思っているんだ?てっきりリリーは、スズの気持ちを優先するものだと思っていたんだが... 」
するとリリーは俺と目を合わせたままニコッと笑い...
え、なんだ?じゃあ俺もニコッと...
... 一度の瞬きだ。その刹那、俺の耳をかすめるように、何かが空を切る。
瞬間、プスッという勢いのある音が背後から響く。
「ひっ... 」
「そろそろあの婚約者が来る頃です。タイランの部屋にでも邪魔してはどうですか?」
ご存知、投げナイフだ。
俺の耳の少し上を通り、壁に刺さった模様。
なにもそんなに怒らなくても...
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