勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第三章(下)

四天王戦Anotherーその3

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前回のあらすじ、逃げ出す俺。


睡眠作用のある香りで俺が眠ってしまったら、タイラン達に迷惑がかかる。だからこれで良い、これで良いんだ。

だが、やっぱり...


「考えてみたら、俺がこの旅でやった事ってメイに剣を投げただけなんだよな... 」


静かな森の中、落ち着いてくると冷静に状況を整理できる。俺がいる意味なんて、勇者であるはずの俺がこの世界にいる意味なんてないじゃないかと。

こう考えてみると、二人目の四天王戦の時に、努力することから逃げようとしてた自分が馬鹿馬鹿しく思える。能力も発動出来ない一般人のくせに、何を嫌がっていたのか。今の自分にあるのは勇者という立ち位置だけで、何の役にも立たない俺が意見なんて出来るわけないのに...


「っはあ、はあ... 二度も... 二度も、思い切り首を絞めましたね... レディーに対する仕打ちではありません」


リ、リリーの声だ。茂みの奥から聞こえてくる。カズ王子を追っていったはずだが、無事なんだろうか?


「やはり、視覚無しでは的確な位置には当てられませんか」


茂みの向こう側を覗いてみると、全身をローブに包んだカズ王子がこちらに背を向けていて、床に膝をつけているリリーの顔が伺える。俺とリリーが、カズ王子をちょうど真ん中の位置で挟むような関係だ。

リリーは忌々しそうな顔をカズ王子に向けているのに、なぜか目を瞑ったまま涙を流しているようで... 

リリーの目が開かないのか?呼吸も荒々しくて苦しそうだ。カズ王子の立っている姿から察するに二人の力量は同じくらいなのか。

... 能力無しでリリーと互角のカズ王子、強くね?


「リリー、どうやって君を倒したら良いのか分からないよ。君も同じことを考えているのかい?」

「... ええ、悔しいですが、あなたもやる事はやっていたようですね」


っ!?

瞬間、リリーは目を瞑っているのに、茂みの奥にいる俺の方を向く。目が開けば俺とばっちり目が合うような位置づけだ。

視線はそのまま、リリーは立ち上がる。

スズの誕生日パーティーの時と同じだ。不思議と、リリーが俺に行動を真似ろと言っている気がする。

深く考えずに俺も立ち上がってしまう。

やっべえっ!立ち上がっちゃった!?これカズ王子が振り返ったら俺が殺されるんじゃないのっ!?





俺には直感で分かった。

その力強い、はっきりとしたトーンの声は、俺に向けられたものだ。

俺も動かないといけない。

気付かれないよう、音を立てないように俺は茂みの低い位置を跨ぎ、リリーと同じようなペースでカズ王子に近づく。

や、やばい... この状態は絶対にまずい。

半ば無意識の内に、まるでリリーに強制されるようにやっていることだ。それ故か心臓がバクバクと破裂するように脈打ち、俺の体に引き返せと叫んでいる。

いや駄目だ。リリーの目は閉じているはずなのに、俺の目を捉えるような位置に固定されている。俺の居場所がリリーにバレている証拠だ。リリーは俺の存在込みで次の攻撃を計画しているはずだ、ここで引いては本当に何も出来ないまま終わる。


「そのまま、僕の元に近づいておいでリリー」


ゆっくりと、カズ王子を挟み撃ちにするように、徐々に距離を縮めていく。その間カズ王子は両腕を広げ、動かなかった。

だが互いに残り数メートルだといったところ、カズ王子は急に姿勢を屈め、足元の土をすくい、音を立てずに後ずさる。

当然リリーの足は止まらない。

まずい... このままじゃ俺が先にカズ王子とエンカウントする... 

逃げ出したい。背を向けたい。このまま走り去りたい。

だが現実は非情だ... リリーの瞑った目は俺の目に釘付けだし、俺の足は止まらないし、考えている時間も、心の余裕もない。

カズ王子の背中にぶつかりそうになる瞬間、俺は目を瞑り、考え無しに腰の短剣を抜き... 刺す。

魔獣や魔物とは訳が違う人間相手のはずなのに、普通はもっとためらわなくてはいけないはずなのに、まるで体が勝手に動くように短剣を動かしていた。


。君の脳に、今朝僕が言った内容は入っているのかい?」


まるで意識だけがどこかにあったようだった。そんな意識はカズ王子の冷たい言葉に一瞬で戻され、現状を理解する。

俺の短剣はカズ王子のローブと袖を切っただけのようで、両手首を完全に抑えられていた。


「う、ぐうううううっ!」


ドサッ... 

両手首を強く握られ、短剣が無理やり手を離れる。


「僕は言ったはずだ!圧倒的な力があれば、たとえ不意をつかれたとしても相手を容易くいなすことが出来ると!」


やばい... 力が強すぎる。片手で握られているだけなのに振り解けない!


「だからね、勇者君。弱者が強者に立ち向かうには、それを上回るほどに大きな隙をつかなくてはならないのだよ。僕はスズを眠らせることが出来たのが良い例さ!これくらいしなければ、強者の隙をつくなど出来ないのだからね!君の動きは、うるさすぎる!」


両腕をカズ王子の方に強く引っ張られる。思い切り重心を前に傾けさせられると... それをとがめるかのように顎に衝撃が走った。


「ぐっっ... !」


つ、強い... リリーが俺を殴る時よりも圧倒的に痛くて... 頭がくらくらしてくる。


「右腕が思ったように動かないな。まだ意識があるじゃない... か!」

「ぐはっっ...」


今度はみぞおちに膝蹴りだ... またリリーのパンチよりも遥かに強い... 

呼吸が止まっているのに息を吸おうとするが、それを腹が拒んできて痛みが引かない...

シュッ、グサッ... 


「っ... リリー。外したね」


そ、そうだ。リリー!リリーがいる!

自然と浮かんだ涙越しに、うっすらとリリーの存在を確認すると... ナイフを投げた直後のようだった。

だが俺の目に映るローブ姿のカズ王子はピンピンしている。ナイフはカズ王子の袖を引き裂いただけのようだった。


「リ、リリー... 」


カズ王子は俺の手を離し、俺は前のめりに地面に倒れる。

リリーが... ナイフを外した?

本当にまずい... 俺が介入したことで、足手まといが増えた事によって、リリーの状況が悪化してしまう... 

や、やっぱり今すぐに逃げ... 


「時間稼ぎ、ご苦労様でした。おかげでうっすらと目が開くようになりましたよ」

「… 少し、勇者君に構い過ぎたみたいだね」


目が... 開く?

地面に突っ伏した顔を上げ、ゆっくりと目を開ける。

リリーは両手にナイフを構え、半目でカズ王子を睨んでいた。


「でも、だからどうだっていうんだい?君の体力はもうそろそろ限界をむかえるじゃないか」

「馬鹿ですね。自分の左腕がどうなっているのか、確認してはどうですか?」


無理な体勢でカズ王子の腕を見ると... ローブと袖が千切れ、肘から下の手首の肌が露わになっていた。

だから... どうだっていうんだよ。リリー...
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