勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第四章(下)

壁をぶち破った!

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前回のあらすじ、夜更かししたお二方。


朝。異世界の住人の異常な起こし方のおかげで、早起きが板についてきた気がする。

昨日早く寝すぎたからか、まさに日が昇り始めてきたこの時間に目が覚めてしまった... 

とりあえずリリーを起こさないようにして、下の食堂に人がいるか確認をするか。

… なんか隣の部屋が騒々しいな。確かスズが泊っているはずだが、スズは絶対に何時間も店員さんと話をすると言っていたし、さすがに起きていることは無いと思うのだが... 

 
「...  スズも気まずそうにしていたけれど、いつものキラキラとした目で物語を聞いたんだろうか」


ベッドから立ち上がり、ぴたりと壁に手を当て、思わずつぶやく。

そんな俺のこの行動。もしも未来の俺が今のこの姿を見れば、ガッツポーズをしながら、ナイス俺!とでも叫ぶだろう。

もしも俺が少し違う位置、例えばほんのちょっぴり右にずれた位置に立っていたのなら、俺は無事ではすまなかったのだから。

ドゴォッ... !


「リリーさん、勇者様!起きてください!」


何の前触れもなく俺の右側の壁を破壊し、部屋に入ってくるのはスズだ。


「ぎょええええぇぇっ!?か、壁... !壁ぶっ壊し!?」

「勇者様、リリーさんを起こしてください!」


スズが部屋に飛び込み、着地した場所は... 俺が寝ていたベッドの上だ... 

早起きは三文の得とはまさにこの事... 危うく死ぬところだった...


「リぃ... リリー!!起きてくれ!スズが!っぐふうっ!?」


スズはベッドの上で振り返ると、ぶち破られた壁の穴から、注意深く自分の部屋を覗く。

まだ砂ぼこりは晴れてはいないが、その先で一体何が起こっているのか... 

それに対し慌てふためく俺は、リリーを起こそうと揺らすも... 寝ぼけたリリーから頬にジャブをもらう。

あ、朝からなんて目に... 


「ふうあああはあああぁぁぁ... 私を... 朝から起こすのは誰ですか?」

「リリーさん、四天王の攻撃です!」

「リリー... ?リリーが私を起こしたっていうのですか... 」

「寝ぼけてんじゃねえっ!!!」


いや四天王の攻撃!?やばい、わざわざ壁をぶち破って入ってきた事への衝撃が強すぎて、四天王の攻撃がかすんで見える... 

だがリリーは、寝起きにおかしな行動を取り、その記憶を保持しないというほどに朝が弱い。そんなリリーに早朝から助けを求めるのは間違いのような... 


「あれスズ、おはようございます。どうしたんですか?こんな朝早くから... 」


そう言うとリリーはベッドから下り... のそのそと、スズが立っているベッドまで歩いていく。


「砂ぼこりが晴れます!」


のそのそ、のそのそと歩き... 俺のベッドにたどり着くリリー。

あれ?そういえば、俺がいようといまいと、いつもリリーは寝起きに俺をベッドから足で突き落とすから... 


「きゃっ... 」


もしも俺がそこに寝そべっていれば、俺はベッドから落ちたであろう。ベッドにたどり着いたリリーは、足でベッドの上... スズのふくらはぎを蹴る。

当然スズはバランスを崩し、リリーを下敷きに後ろに落ちる。

ま、まじか... 四天王からの攻撃が来てるのに大丈夫なのか!?

ドガゴンッ... 


「ス、スズ!?一体ここで何を... 」

「おい、壁の向こう側... 」


スズの下敷きになった衝撃でようやくリリーが目を覚ましたころ、晴れた砂ぼこりの向こう側、破壊された壁からスズの部屋を見ると... 

何も、誰も動いていなかった。

それはドアノブに人形と糸はかかっているが、おそらくそれの持ち主であろう店員さんは、ベッドに横たわり、すやすやと寝息をたてている。

四天王がいない?


「何があったんですか?スズ」

「し、四天王の攻撃です」



**********


騒動を聞きつけ駆けつけてきた宿の主人には、が平謝りして許してもらい、広さが二倍になった宿の一室にて、俺たち三人は話し合っていた。

スズの部屋で寝ていた店員さんは、こんな騒動があったのにまだ目を覚まさない。


「ひとまず壁の修理費と部屋が使えない間の補填には、船の購入費の一部を当てておきます。船を買うために不足する分は王都にいる馬鹿に送らせましょう」

「い、いえ。王都にお兄様が戻っているので、お兄様を通じてお父様の秘書に頼むのが良いと思います。私が手紙を出しておきますね」


カズ王子か... あんまり気にしてなかったけど、三人目の四天王であるアンに組したことに関してはお咎め無しなんだな。


「お願いします。さて本題に入りますが... スズ、何があったのかを説明してください」


扉が開かないように糸で留めていたのは、恐らく店員さんの仕業だったのだろうが... さすがに店員さんが四天王という訳ではないんだろうな。


「恐らく今回の四天王は、影に関する能力を持っていると思います。店員さんの影からほんの少しですが、魔物の魂を感じ取りました」

「影... ですか。物理的な影と捉えて良いんですよね?」

「はい。店員さんの影のみが、何の前触れもなく不自然に動き、店員さんの体が眠ったまま私を攻撃してきました」


なるほど... 影に自分の魂の一部を残し、それを使って人間を操る... 的な感じかな?リリーさん!

目を大きく開き、リリーの方を見てみると... 呆れたように細めた目を返される。

その顔は、例えるならそう『確証はありませんが、あなたの考えている事でおおむね合っていますよ』とでも言っているようだ。


「そうですか。スズ、今も魂を感じるか確認してくれませんか?」

「わ、分かりました」


という訳で、壁の穴をくぐってスズの部屋に行く俺たち。

うお、床に糸が散らばっていて、スズのベッドの下に何体か人形が転がっているな。リリーは店員さんの事を、面白い戦い方をする人物って言ってたけれど、この様子を見ると確かにそうらしいな。


「彼女はまだ寝ていますね。スズ、まだ影には触れないでくださいね」

「は、はい」


ベッドの近くまで来ると、スズは店員さんの影の近くに一方の手を置き、もう一方の手を自分の服の中に入れる。


「っぐはあっ!?」


すると突如、俺の頬を理不尽な暴力が襲う。


「あっちを見ていてください」


くっ、痛い、ひりひりする... 寝ぼけて殴った時と同じ場所を殴りやがって... 


「くっ、口で言えよ... 」

「うるさいです。この女が起きたら面倒でしょう」


口で言えよ。



「ん... 何も感じません。さっきは少し離れた所からでも分かったのですが」

「影に重なると何か影響はありそうですか?」

「恐らく何も無いと思うのですが、やってみていいですか?」

「お願いします」


見えないが、多分スズが手を伸ばし、影に自身の指を重ねたのであろう。少し経つと... 


「何もありません。もしかして魂を回収されたか、それともエネルギーを使い果たして消えたのだと思います」

「そうですか」


もう良いだろうと思い振り返ると、リリーが顎に手を当て、何かを考えているのが分かる。


「スズが魂を感じたのなら、でこの女の弟に何かがある可能性が強くなりましたね」

「これからどうするんだリリー?またこの店員さんを操られるのは面倒だよな」

「... ひとまず朝食を食べ、この女の弟を探しに行きましょう」


… やっぱり晩御飯抜きは腹にきますよね。

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