勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第四章(下)

夜更かしをしよう!

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前回のあらすじ、スズが叱られたらしい。


二つのシングルベッドが置いてある宿の一室。パジャマ姿の二人の少女は、それぞれのベッドに腰掛け、湿った髪をタオルで乾かしていた。


「や、やっぱり似合いますよね、私のパジャマ。サイズはちょっとだけ大きかったみたいですけれど」
 
「そうですね、ありがとうございます」


向かい合った二人は、ほとんど真反対の表情を浮かべながら談笑をしている。片や無表情、片や楽しそうな表情で、身振り手振り話す。


「無理に引き留めてしまっている立場で、こんな事を言うのもおかしな話ですが... 同居している弟さんは心配されないのですか?」

「はい、一晩くらいなら弟も何も言いませんし。あの子も子供ではありませんから」

「双子... なのですよね。きっと弟さんもあなたに似て魅力て... いえ、可愛らしいのでしょうね!」

「まあ、双子ですから」


そして会話の途中何を思ったのか、杖持ちの少女は顔を逸らし、相手に聞こえないような声でぼそぼそと... 


『店員さんが人形を扱うということは、弟さんもなにか奇抜な武器を扱うのでしょうか... 絵描きさんと言ってましたから、それ関係の... 』

「... 」


そんな様子を、人形のような少女は観察するように見ていた。


『リリーさんは、弟さんが四天王、あるいは四天王に関する人物だと予測して... 』

「今は、お姉さまから危険なものを感じませんね」

「え?あ、どうしても面白そうな戦いに参加できると思うと、熱くなってしまって... 」

「いえ、戦いの前、私と店の裏の部屋で話した時もそうでしたよ。最初からなにか、得体の知れないものをずっと感じていましたから」

「... す、少し恥ずかしいです。物語への好奇心がバレていただなんて... 」


人形のような少女は目を細め、呆れたように相手を見つめる。まるで、何を分かり切った事を、とでも言いたげな顔だ。


「いえ、良く見た... 危ない顔ですから」

「... よく見た?」


何かを思い出すような表情を浮かべ、何もない所に目を向ける人形のような少女。なにか含みのある言い方に杖持ちの少女が質問するも... 


「そんな事よりお姉さま、何か聞きたいことがあるのではないですか?」

「そうでした!弟さんについてもっと詳しく話を聞きたいのです。どういう方なのかももちろん知りたいのですが、一番はちょっと前の事件の事です。元船乗りさんが、自身の体を操られたように自傷したそうなのですが... 」


杖持ちの少女は両手を合わせ、笑顔で首をかしげる。そんな彼女の様子に、人形のような少女は少し眉を潜める。


「い、いえ。そんな話は弟から聞いていな... っ!?」


思わず、人形のような少女は息をのんでしまう。

杖持ちの少女の目は、戦っていた時のようなキラキラとしたものではなく、無機質なものだった。まるで全てを見通すようなその目は、人形のような少女に威圧的ななにかを感じさせ、思わず目を逸らしてしまう。


「そんな話は... なんですか?」

「知りませ... んんっ!?」
 
「嘘です」


再び人形のような少女は息をのむ。

威圧にのまれ、目を逸らしたのが良くなかった。気がつくと、杖持ちの少女の顔が息のかかる所まで近づけられていた。

杖持ちの少女の瞳はどんよりとしたもので、人形のような少女の姿がはっきりと映っているのが分かる。


「目を逸らしました、呼吸が荒いです... 今は逆に目を合わせすぎていますね。確実に嘘です。この物語は面白く、真実でなくてはいけません。勇者様の冒険に、嘘を持ち込まないでください」

「っ!?」


瞬間、人形のような少女は指を小さく振る。すると両者の顔の間を、きらりと光る糸が上向きに飛ぶ。

スッ... 


「何を... しておられるのですか?」


だが宙を舞ったその糸は... 杖持ちの少女の手で切られてしまう。


「私の体に巻き付けようとしたわけではないですよね?」

「遊んでいただけ... 」

「それも嘘です」


更に距離を詰められる。


「さあ、教えてください。私は人を読むのは得意ではありませんが、物語の真偽はほぼ確実に見分けられます」


その夜、二人の少女はたっぷりと夜更かしをした。


**********

まだ町の人々の大半が眠っている頃。うっすらと太陽が昇り始めてきた時間。

夜中遅くまで「会話」をしていた杖持ちの少女はおもむろに目を覚まし、起き上がる。


「随分と早起きをしてしまいましたね... 昨日は久しぶりに戦えたというのに」


布団の中に入ったまま、少女は窓の外を眺め、呟く。


『いくら自分で治療出来ると言っても、むやみに怪我を負わないでください!能力で栄養素を作り出す事は出来ないのですよ!血液を作るのにも限界があります!』

「... 」


すると思い出すのは、昨日の出来事。少女は昨日負った腕の切り傷の箇所を、手のひらでさする。


「心配をかけてしまいましたよね... 物語はもっと追いたいですが、リリーさんに心配はかけたくないです... 」


そしてその腕の切り傷の箇所から、指で何かをすくう動作をすると... その指を口元に持ってくる。


「... でもやっぱり、あのたぎるような感覚は... なにものにも代えがたいものですね」


その顔はどこか、うっとりとしたものだった。

そして表情はそのまま、杖持ちの少女は、右のベッドに横たわる、人形のような少女に目を向ける。

その瞳に、うっすらとキラキラとしたハイライトが浮かぶも、すぐに首を左右に振り... 


「再戦なんてしたら、また大量に血を失ってしまいそうです。かと言って、もう傷を伴わない戦いはつまらないですし... 」


杖持ちの少女はベッドから下り、横たわる少女を頭からつまさきまでじっくりと眺める。その様子はまるで絵画でも見るかのようなもので、とても落ち着いていた。


「寝てしまうと、まるで本物の人形のようですね。魅力的な戦い方、性格... 素晴らしい登場人物ですね。弟さんに会うのが楽しみです... あら?おはようござ...」


おもむろに、人形のような少女は力無く起き上がり... 杖持ちの少女の方に顔を向ける。

すると人形のような少女の影は揺らめき... 

少女は人形を投げつけた。


「店員さん!まだ早朝なのに運動ですか?随分元気ですね... あら?」


素早い動きで糸を抑え、人形の動きを止める杖持ちの少女。ここまでは平常心だったが、人形のような少女の左手の指、そして顔を見ると、急に心拍数が上がる。


「影に... いえ、影からとても微弱な魂の力を感じます。これは... 魔物の魂のほんの一部?能力ですね!」


そして空いている手を頬に当て、笑顔を浮かべる。


「わくわく... してしまいます!」


人形のような少女は顔は目を瞑り、眠ったままの穏やかなものだ。彼女は眠ったまま人形を投げていた。

そして彼女の二本の指には糸が巻き付けられており、片方は杖持ちの少女が抑えているもの、そしてもう片方は... 


「一体目の人形の裏に、もう一体隠して投げていたんですね。一体目はただのおとり。二体目を隠し、扉を、逃げ道を塞がせるために投げたもの!」


もう片方の糸は、部屋の入口に繋がっており、ドアノブには人形が待機していた。見ると、ドアノブが簡単には回せないよう、コートかけと糸で固定されている。


「ですが人形使いであるあなた!店員さんは手薄です!」


それを見た杖持ちの少女は、拳をぐっと握り、力を入れようとする。その瞬間、人形のような少女の布団の中から、何かきらりと光る物が少女の目に映る。


「私が突きを入れる瞬間に人形に攻撃をさせようとしていますね!私は相打ちでも良いのですよ!」


突きを入れるため、拳を上げようとしたその一瞬、杖持ちの少女は昨日の出来事を思い出す。


『いくら自分で治療出来ると言っても、むやみに怪我を負わないでください!』


そのせいで突きのタイミングが一呼吸遅れる。


「眠ったまま動いている… 冷静に考えれば四天王に操られている状態です。リリーさんを呼んできましょう」


上げられた拳は、代わりに布団から飛び出した人形の糸を切るために使われる。

そして杖持ちの少女は、後ろ向きに自身のベッドを飛び越し、扉へ向かうため振り向こうとする。


「ドアノブに糸が張られていようと関係ありません。扉に体当たりをしてここから出れば... っ!?」


ドタンッ... !


だがその瞬間、杖持ちの少女はバランスを崩し、思い切り前のめりに転んでしまう。

見ると、自身の片足に糸が巻き付けられているのが分かる。


「糸!?ここら一体に張り巡らされていますね... そしてこの糸が引っ張られたという事は...」


床には、輪っか状に何本もの糸が置かれており、その一本一本が人形に繋がっているというものだった。

杖持ちの少女が素早く自分の足に巻きついた糸を切ると、ベッドの下から飛び出してきた人形は地面に不時着する。


「いつものようにドアまで跳躍していっても良いですが... ここは三階。床が耐えられるかどうか... 普通に走って行っても数歩は必要です。ならば!」


少女は立ち上がってそばの壁に手をかけ、扉を見据える。そして何かを決断したように拳をぐっと握り... 

それを壁に放つ。
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