勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第四章(下)

四天王戦ーその5

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前回のあらすじ、タイランとメイに知らせる。


二人を連れて宿の外に出た頃、空はまだ明るいものの夕陽はかなり沈んでおり、辺りを照らすのは周りの建物の窓からうっすらと漏れる光のみだ。


「ガラスの破片が落ちていますね、リリー様が割られたのでしょうか」

「いや、スズが石の入った袋を投げ入れたみたいで、それを見てリリーが飛んで行ったんだ」


考えてみると、それだけでスズだと分かるのはすごいな... 


「ほーん、スズからの救助要請ってわけか、じゃあ敵は四天王で確定だな。で、リリーはどこに行ったんだ?」

「え?」


どこに行った... ってどういう事だ?そりゃもちろんスズの所に... 


「え、じゃねえよ。リリーはスズの所に行ったんだろ?で、リリーはどこ行ったんだよ」

「そりゃ四天王の所に... 」


いや違う... その四天王がどこにいるのかを聞かれているんだ... 


「まさかてめえ... ただボケっとリリーが窓から飛び降りる姿を見ていたわけじゃねえよな...?」

「いや、その... 」


言えない... リリーがどこに行ったのか、今まさに戦いが起きているであろう場所がどこか分からないなんて... 


「へっぽこてめえ... !」

「タイランお嬢様、落ち着きください。スズ様が戦闘に関わっているのならば必ず騒ぎが起きるはずです。それに窓に石を投げつけたということは、宿の手前側を探せばよろしいかと存じます」

「あ?つまりどういうことだよメイ」


タイランは曇りなき純粋なはてなマークを浮かべる。その様子にメイは一瞬だけ口を閉じ、タイランの目を見据え... 


「人けの無い所を探せばいいかと存じます」

「人けの無い所... あ?要するにスズとリリーを探せば良いんだよな」


顎に手を当て、斜め上に視線をずらすタイランの姿に、メイは再度口をつぐみ... 少しの間静止する。

俺は何も言えないが、とりあえず頑張ってくれメイ... 


「... はい、そうであると存じます」


するとタイランは、再度考える素振りを見せる。


「よしっ、二手に分かれて探そうぜ。メイはへっぽこの面倒を見てくれ」

「かしこまりました」


メイの返事も途中に、タイランは右手、上り坂を駆けていく。

となると俺たちは下り坂の方か... 確か市場への道はこっちの方が近いんだっけか。


「えっと... メイ、よろしく」

「... 」


坂を下ろうとするが、メイはなにか思うところがあるのか、無表情で俺の顔を見つめてくる。


「あの... リリーの行方を見てなくて本当にごめん... リリーがあまりにも素早いもので... 」

「いえ、そういう事ではございません。ご一緒に参りましょう、勇者様」


そう言うと、メイは下り坂を下りて行ってしまう。



**********

上空はうっすらと明るかったが、夕陽は沈み切っており、地面に影が出来ないほどに暗かった。

そんな中、人通りの無い路地にて、一人の少女と男、そしてそばの建物の屋根にいるちんちくりんな少女がおり、戦いを繰り広げていた。

地面の二人のそばには、火打石と力無く燃える綿が転がっており、その炎が二人を照らしている。

拳を突き出したまま静止している杖持ちの少女は、目を大きく見開き、驚いた表情を男に見せる。影に手を触れるため腕に力を入れようとするも、まるで凍り付いたように動かない。


「んー... そうそう、手に影は重ねないようにしなくちゃなあ。それに今度はお前を即死させねえといけねえよな、気絶させられなければお前は自分で治しちまうからなあ!」

「スズ!」


瞬間、力無く燃える綿めがけてナイフが放たれる。

だが軌道上に男の手が入り... ナイフが腕に刺さり、止まる。


「ん、ナイフも気を付けねえとな... んっ!?」


男が一瞬だけちんちくりんな少女から目を離し、自分の腕を確認する。そして次の瞬間、男がちんちくりんな少女の方を見上げようと顔を上げると... 

四階建ての建物の屋根から、躊躇なく飛び降りたちんちくりんな少女がすぐそこまで迫っており... 落下の勢いを利用し、顔面に蹴りを放っているのが分かる。

喰らえば歯の一本や二本が無事ではすまなさそうなその攻撃を... 男は足をしっかりと踏ん張り、顔に直撃させる。


「お前... 俺は別に男がどうなったって良いってのが分からねえのか?... 」


蹴りを顔面で跳ね返すように力を入れると... ちんちくりんな少女は男のすぐそば、二メートル程離れた男と少女の間に割って入るような位置に着地してしまう。


「無駄なあがきをしてんじゃねえよぞっ!ん!?わざわざ俺の影に入るリスクまで犯しやがって訳の分からねえ奴だ!」


ちんちくりんな少女は立ち上がると同時に太もものナイフに手をかけるも、中腰で静止してしまう。男と影が重なっているからだ。

そのまま奥歯を噛み、男を睨み付ける。


「一体どういう神経してやがんだよてめえ...!訳の分からねえ... もしかして先にお前から始末させる気か...?そうして出来た隙でそこの頭のおかしい女に俺を倒させ、治してもらおうってか... 」

「ごたごたうるさいですね。喋りす... 」

「俺の影の中で喋ってんじゃねえぞっっ!!やっぱりやる事は変わらねえ!先にそこの頭のおかしい女から始末してやるっ !」


途端、杖持ちの少女の空中で静止している拳は半回転し... 少女自身の顔に向けられる。


「てめえのその強力な拳なら自身の骸骨を砕く事くらい造作もねえよなあ!」

「どうしても、スズから攻撃しますよね... 」


そして、目を見開いた杖持ちの少女の顔めがけ、勢いよくその拳は振るわれる。

ちんちくりんな少女は、振り返らずとも背後で何が起こっているのかを理解し、くちびるを噛みしめ顔を俯かせる。

だが次の瞬間、ちんちくりんな少女が顔を上げると同時に事は起こる。


「なにいいぃっ!?」

「私にっ...!スズを攻撃させましたねっ!!」


ちんちくりんな少女の背後で勢いよく血がまき散らされ、男の視界を赤く染める。

見ると杖持ちの少女の腕にナイフが貫通しており、体勢とともに腕の位置を大きく下げている。


「ナイフを... 投げていた!?燃える綿や俺を狙えないと悟って、すでにナイフを投げていただと!?」

「ナイフはスズの腕を突き刺し... その勢いでスズの腕を降下させます。あなたの本体、あなたの乗っ取っているその体の影に重なるまで... 」


瞬間、杖持ちの少女の手の辺りから、赤黒い霧のようなものが発散していく。それは男の影から噴き出しているようだ。

相も変わらずちんちくりんな少女は振り返らない。だが、たじろぐ男の顔を観察していると... 

ちんちくりんな少女は急に目を大きく見開き... 足を上げ、男を後方に勢いよく蹴り飛ばす。その膝の角度は人間の足の可動域を超えており... 膝は少し逆に曲がってしまい、少女の顔には苦痛の表情が浮かぶ。

男が大きく後ろに飛ばされると、当然男の影は杖持ちの少女の影と交わらなくなってしまう。


「ぐっぐあああああ... !?ぐっ... はあっ... はあ... わ、私は一体何を...  」

「リリーさん!?」


男は全身から力を抜いたように市場のある道まで飛ばされ、無様に着地する。周囲の建物や屋台から漏れ出る光が男を薄く照らすので、男の影はまだ残っている。


「操ったんだよお... 俺の体がそこの女に発散されきる前に、ちょいと早く抜け出してやれば問題はねえからよお... 」


男は周囲の目を気にせず、おかしな体勢で少女たちを指差す。そして綿を燃やす炎が徐々に弱まっていく姿を確認すると、少女たちから体と影を隠すように市場を駆け出す。


「何と言われようと俺は引かせてもらうぜ... こんな頭のおかしいお前らと一対ニじゃちと分が悪いからな... やっぱりおとなしく影から討つのが合ってるぜ」

「行かせる理由が無いです」


瞬間、綿は燃え尽き、二人の少女を照らす光は消える。同時にちんちくりんな少女はすぐにナイフを抜いて投げるも... 間に合わない。

いち早く男は市場に逃げ去り、ナイフは地面に刺さる。


「っはあ、はあ... はあ... スズ!すぐに治療を!」

「は、はい... 」


杖持ちの少女は、その言葉にちんちくりんな少女の足を確認すると... ナイフが刺さったままの、まだ血が流れている腕を伸ばし、彼女の胸に向ける。

その様子にちんちくりんな少女は少したじろぎ... 


「... いえ、私のはただ靭帯がやられただけです。先にスズのナイフの傷を治してください」

「で、ですが... す、すみません。急ぎますね」

「... 貫通させてしまってすみませんね」

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