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捨てる神あれば拾う神あり②
しおりを挟む「職ということは、ミザリアは成人しているのだよね?」
「十六になったばかりです」
「なるほど。成人と同時に家を出されたということか」
「はい」
先々の不安はその時に解消していくしかない。圧倒的に経験値が足りない私に予測できることは少ない。
それに、王都までの道はわりと整備されていると踏んでいた。
現に冒険者や旅人は歩いて移動することもあるし、余裕がある者は乗り合いの馬車などを利用する。
その過程で嫌な思いをすることも覚悟していた。
だけど、お金を手にして余裕ができたこともあるけれど久しぶりに人に親切にされ、私の心はふわふわした。
最悪の予想はしていたけれど人に助けてもらえるなんて考えてもいなかったので、話しているとだんだん嬉しくなってくる。
「もう。俺は心配しているのにその顔はなに?」
「すみません。ただ、ちょっと心配されるのに慣れていなくて。もしかして表情に出てしまっていたでしょうか。心配して声をかけてくださったのにそれを喜んですみません」
二度謝罪を口にし、緩んでしまったであろう頬をきゅっと引き締めながら告げると、フェリクス様は憂うるように瞼を伏せると声を落とした。
「そうか……」
そして今度は深く考えるように顎に手を当て、私の手元を見た。
フェリクス様は第二騎士団に所属しているのだから魔力は多い。もしかしたらなぜ私が伯爵家から追い出されたのかその理由に気づいたかもしれない。
――うーん。そういうことまで見えるものなのかはわからないけれど。
魔法は多岐に渡り、五歳で魔力なしとなりほぼ人と接触してこなかった私は知らないことのほうが多い。
とにかく家を追放されるほどの人物ということは知られてしまったし、この表情からは私が何かしたというよりは事情があると察してくれてはいるようだ。
上手な嘘をつくこともできず気を遣わせてしまったと一度息をつき、私は話題を変えた。
「それよりも先ほどの買いたたきは騎士様が黙認しても大丈夫なのでしょうか?」
「彼らも商売だからね。売りにくるほうも訳ありが多いだろうし、店主が脅していたわけではないし、互いに了承するなら当人同士の問題だ。ただ、あれは足下を見すぎだ」
「なるほど。……了承、ああ、私が返事をする前に止めたのはそういうことだったのですね」
「そういうことだ」
約束してしまえば、騎士といえども間に入りにくかったのか。
何でもかんでも取り締まるわけではなく、互いに領分というものがあるのだろう。
そういうものの経験がやはり私には足りてないので、そういうこともあるというのを知れたのはやはり大きい。
「フェリクス様のおかげで王都に向かう資金もでき向こうでも職を探すのにも余裕がもてそうです。本当にありがとうございました」
任務中と言っていたのでこれ以上足止めしてはいけないだろう。
心の安寧のためにも私も一刻も早く伯爵領から離れた土地に向かいたいので、次に出る馬車の時間を確認したい。
貴族であろう人にもいい人がいることが知れたことは、きっと自分にとってプラスになるだろう。
花形の第二騎士団の騎士と話せたことも貴重な経験だ。こういう機会は滅多になく、幸先が良いように思えてふふっと笑みを浮かべる。
幸運だったと、感謝の気持ちを込めて私は深々と頭を下げた。
すると慌てたように声を上げたフェリクス様に腕を掴まれた。
「ちょっと待って。話を終わらせようとしないで」
「まだ話が?」
顔を上げると、困ったような顔で見下ろされ戸惑う。
「ああ。話がある。それと俺たちも王都に戻るから良ければ一緒に行かないか?」
「騎士様たちと? ですが先ほど任務中だとおっしゃっていましたが」
「それも目処がついたから一度王都に戻ろうと思ってね。女性がひとり増えても問題ないし、何より俺の精神衛生上、ミザリアを無事に王都まで送り届けさせてほしい」
思いも寄らぬ提案に何度か瞬きをする。
随分と心配をしてくれているようだけれど、さすがにそこまで親切にしてもらうわけにはいかない。
「ですが……」
「同じ目的地なのにわかっていて置いていくのは鬼畜がすることだ」
とても真剣な顔で言い募られ、私は引こうとしていた腕を止めた。
――鬼畜って。どちらかと言えばこちらが図々しくならないかな?
助けてもらっただけで十分だ。これ以上のことは望まない。
だけど、いまだに逃がさないぞと軽くではあるが腕は掴まれたままであるし、フェリクス様の本気が伝わってくる。
頼りなく見えるのだろう。
魔力なしと判定されてから、ろくに食事をとれなかったので私の身体は薄い。
そういった見た目もあって心配してくれているようだ。
「ご迷惑ではないでしょうか?」
「言ったよね? 俺がそうしてほしい。もう少し話をして場合によってはお願いしたいこともあるから話す時間がほしい」
場合によってのお願いというのはわからないけれど、フェリクス様のほうにも何か事情があるようだ。
――なら、いいのかな?
私としては王都に行ければそれでいいし、安全に辿り着けるのならそれに越したことはない。
騎士という身分のしっかりしたフェリクス様と一緒なら、確実に着けるだろう。贅沢すぎる気もするけれど……。
「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」
そう告げると、フェリクス様は安堵したようにほっと息をついた。
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