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捨てる神あれば拾う神あり①
しおりを挟む四万ゼニと余裕の資金を得た私は、店から少し離れたところで改めて騎士に頭を下げた。
予定外だったが、予想よりもはるかに多く手に入ったお金は正直ありがたい。
王都ですぐに職が見つけられるかわからないので、お金はあるだけあったほうがいい。それに相場を知ったくず魔石はまだ十個残っているのも気持ちに余裕が持てる。
「騎士様。とても助かりました。これで王都に行けそうです」
「それだけどやっぱりひとり旅だよね?」
「はい」
同伴者がいないのは見ればわかるとは思うのだけどと、私は内心首を傾げながら小さく頷く。
騎士は店でもそうしたように上から下へと私の姿に視線を這わせ、最後に鞄に視線を投じた。
「それにしては旅に必要なものは持っていなそうだけど」
そういうことかと納得する。
大きめの鞄を持っているとはいえ、ワンピース姿ですりきれた靴は旅に向いていない。見た目は家出少女。保護対象として見られているのかもしれない。
先ほど髪を切ろうとしたところも見られたし、優しい騎士様は放っておけないのだろう。
私は鞄を抱え直しながら、少し考えてありのまま話すことにした。
「昨夜家を追い出されたばかりなので、まず職を探しに行きたいと思っています。王都なら私にもできる仕事や雇ってもらえるところがあるかもと、まず路銀をと思いあの店に入りました」
「そう。職を探しに王都にね。お金を何も持たされなかったから髪と魔石を売って足しにしようとしたということか。急ぐということは、家の者にはなるべく関わりたくない?」
「はい。向こうも関わるつもりはなく二度と顔を見せるなと言われていますが、近くにいるとどんな言いがかりをつけられるかわからないので」
急ぎお金を必要とした理由を苦笑しながら告げると、そこで騎士は考えるように目を伏せた。何かぶつぶつと声にならない声で言っている。
銀髪美形はぶつぶつ言っても様になっている。伸びた背筋や瞼を伏せる姿も美しい。
そう言えば、魔石の採掘をしているときに第一、第二騎士団は美形揃いなのだと一緒に現場にいた者たちが噂をしていた。
路上の向こう側で女性が騎士を見て嬉しそうに話しているのを見て、確かに人気になるのがわかるなと銀髪の騎士をぼんやりと見上げた。
「ん、なに?」
「いえ、騎士様なのだなと」
答えになっていない答えを返してしまった。
家を追い出されて初めての外で夜を過ごし気が張っていたところ、搾取されかけ助けられしばらく困らないお金が手に入りちょっと気が緩んでしまっている。
これからが大事なのにこれではいけないと、私は気を取り直すように首を振った。
「騎士は騎士ではあるのだけど……。そう言えば名乗っていなかったね。俺はフェリクスだ」
「フェリクス様。私は、ミザリアです」
名だけを名乗られたけれど、目の前の人物は貴族なのではと思った。
先ほど騎士が店主に近づいて何を話し見せたのかはわからないけれど、店主の顔の青さは尋常ではなかった。
第一騎士団は王族警護・王城警備がメインで貴族出身がほとんどだがどこよりも強く緊急時にはかけつけ活躍し、第二騎士団は魔道騎士団と言われるほど魔法の能力が高い者が所属するので貴族ばかりではないと聞く。
目の前の騎士の見た目は二十代と若そうだけど、店主がびびるほど彼にはそれなりの権力があるのならば納得の反応だ。
――貴族、か。
私の知る貴族は伯爵で父の周囲も似たような人ばかりで強欲というイメージだ。そういった人ばかりではないとは思いたいが、権力がある人はやはり怖い。
フェリクス様には助けてくれた恩があるしいい人そうだけれど、本人が名乗らない限り聞かないほうがいいだろう。知らないほうがいいこともある。
「ミザリアか。よろしく。さっきの話で事情はある程度は察した。それであの店で必要金額が得られるならと大した交渉もせず進めようとしたんだね」
「もしかして結構最初から見ておられました?」
「ん? ああ、職業柄人を観察する癖はあるね。しかも今は騎士服を着ていてわかるように任務中だ。町にたどり着いたばかりの荷物を持った少女がどう動くのかは気になって動向を見ていた」
すらすらと語られた事実に納得する。
そこまで不審な行動をしたつもりはなかったけれど、成人を迎えたばかりで外の知識はほとんど本や資料の情報が頼りの私にはわからないこともあると自覚している。
騎士のようなお仕事の人にとっては、気になるような行動と年齢ということなのだろう。
一歩外に出るだけで勉強することばかりである。知らないというのは怖いなと思う反面、少しわくわくした。
「先ほども話した通り少しでも早く遠くにと思ったので。相乗りの馬車と道中の資金が欲しくて焦ってしまいました」
「相乗り? 若い女性がひとりでは危ないよ」
騙したり悪さをしたりする大人がいると言いたいのだろう。
私もそれは重々承知している。
「心配していただきありがとうございます。ですが、私の選択肢は少なかったので。とにかくまず王都に。そして職を見つけることが大前提でそのほかのことまで気が回らなくて」
万が一の時は馬車を降りたらいいとも思っていた。頭に大まかな地図は入っているし、方向さえ合っていればいつかは着くだろう。
それに多少はどこが危険かとかは情報として入っている。その情報が間違っていたら仕方がないけれど、不安で尻込みしていたらいつまで経ってもここから離れられない。
むしろ、ここで足踏みして伯爵家の者と下手に関わる可能性が高くなるほうが怖かった。
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