魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

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何でも屋②

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 グリテリア騎士団は第一から第十五まであり、そのうち第一から第三騎士団は王都を主軸とするのでよほどのことがない限り田舎ではお目にかかることはない。
 驚いたけれど、私にとってはアメの当たりくじが当たったような珍しいことに少しお得感を覚えるくらいのものだ。

「騎士様。配慮には感謝いたしますが、私にとって死活問題なので簡単というわけではないのです」
「なら、なおさら捨て置けない。それにくず魔石といえども、君が出した魔石は一般的にはまだまだ使える魔石だ。これが百ゼニなんてありえない。そんなに安くないよ」

 優しい騎士様だ。
 そのセリフに店主が嫌そうに顔をしかめたので、騎士の見立ては合っているのだろう。

 第二騎士団に所属しているだけあって、魔力がともなうものの鑑定はそこらの一般人よりもしっかりしていそうだ。
 私もこの魔石に魔力が残っていないわけではないとわかってはいたけれど、何せやはり相場がわからなかった。店主がそうだと言えば、それを信じるしかない。

「そうだったんですね」

 急いたことで判断を間違ってしまったようだけれど、結局他を回るということはしなかったと思うので店主に憤りを感じるということはない。これも勉強である。
 そうかと小さく頷くと、騎士は薄い水色の瞳を私の頭からつま先へとさっと視線を走らせた。

「なんか、君危ういな。このくず魔石の買値はこれの十倍はあってもいいだろう。なら、君がいくつ魔石を持っているのかは知らないがきっとそれでまかなえるはずだ」
「わかりました。教えていただきありがとうございます」

 旅路に邪魔な髪を切っても問題ないのだけれど、どうもこの騎士はそれを許してくれそうにないので素直にお礼を告げる。
 すると、内心の考えがわかるはずもないのに、騎士は眉間にしわを寄せ一瞬考え込むように下に視線をやった。それから店主のほうへと向き直る。

「店主、物を知らないからといってふっかけすぎたな。このことは商業ギルドのほうに報告しておこう」
「そんな! 確かにふっかけたがこっちも商売だ。何も金を払わないとは言っていない。物を知らない者のほうが悪い。誰でもやっていることだ」
「それでも十分の一はひどいな。足下を見すぎだ」

 なるほど。私の行動や出で立ちを見て必要なお金を先に聞き出し、私の鞄から魔石がまだあることを見越しての値段設定だったのだろう。

「これがぼったくり、じゃなくて、大分安く買いたたかれそうになってたのね」

 質問続きで警戒してはいたけれど、相手のほうが一枚も二枚も上手だった。
 小娘が多少警戒したところで、相手にとっては痛くもかゆくもない。安いと言われれば、少し上げて交渉しても店主には損にならないし、こちらも高く買ってもらえたと喜ぶ。

 息を吸うように行われる手口に感心する。
 ぽそりと呟いた声に、騎士がじっと私を見つめてきたのでなぜ見つめられるのかわからず首を傾げるとくすりと笑われる。

「そうだ。君は酷い搾取に遭いかけたんだ。多少のことなら勉強代としてと思ったんだけどね。髪は躊躇いなく切って売ろうとするし、金額も金額だったから放っておけなかった」
「それは助かりました。ありがとうございます」

 旅に邪魔だから髪を切ろうと思ったけれど、よくよく考えれば十倍の値段で売れるのなら余裕を持って旅をできたし、必需品を買えるお金や王都で生活にしばらく余裕だってできた。
 一刻も早く離れなければと焦りすぎたようだ。

「ああ。役に立てたようでよかったよ。店主も彼女に買値の二倍出すなら黙っていてもいいが」
「それは……」
「なら、俺も手続きが面倒だが報告することにしよう」

 渋る店主に、騎士が店主に近づきこそこそと話胸元を広げて見せた。
 途端、顔を青くさせる店主。

「わかりました。正規の値段で」
「駄目だ。見積もりで二十はあると踏んでいたんだろう。その全部がその倍の値段だ」
「うっ、利益が」
「それでも訴えられるよりはマシだと思うが?」
「……わかりました。それで取引します」
「それでいい。これに懲りてもう少し良心的な商売を心がけるんだな」

 騎士はあっという間に手続きし安く買いたたこうとした店主を逆に高く買わせ、ミザリアにお金を渡した。

「では、行こうか」
「……はい」

 今まで手にしたことのない大金にどきどきしながら鞄の奥底にしまい込むと、私は騎士と店を後にした。


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