19 / 127
◇騎士団トップの密談②
しおりを挟むそして、フェリクスたちはランドマーク公爵家の動きをマークしており、資金源の一つとなるブレイクリー伯爵家の動向も探っていた。
公爵は野心家で、自分たちの家こそがこの国の、つまり王に相応しいと思っている。そのような発言を隠すことがなくなったので、その自信はどこからくるのかと動きを監視しているところだ。
そんな捜査の中で出会ったミザリア。
魔力なしを一族に出すことは、金や魔力とわかりやすく数値化できるものを絶対と崇める者たちにとって恥となる。
使えないのならとさっさと放り出し金銭などの必要なものも渡さないということは、命あるなしも関係なくいらないと捨てられたのだろう。
「そう。保護です。俺が見かけたのは偶然だったけど、慎重かと思えば簡単に騙され躊躇いもなく髪を切って売ろうとしていた潔さよさが気になって何ていうか放っておけなかった。その上、持ち物の中に毒が入っているとなったらね」
「確かに保護が必要な状況だ。毒ねえ。それにしては中途半端な効果のものだな」
「殺したいのか殺したくないのか意図が掴めない。ただ、苦しませたかっただけなのか。どちらにしろ悪質すぎる」
完全に犯罪だ。毒まで飲ませようとしたのは、ただの私怨か特別な理由があってか。そして、誰がそれを実行したのか。
明るいとは言い難いけれど卑屈にならずによくあんなにまっすぐに育ったなと思うほど、ミザリアの周囲は随分と殺伐しているようだ。
今まで散々こき使っておいてと、フェリクスは出会った時にうっすらと残っていた頬の叩かれたような痕や、躊躇いなく髪を切ろうとしていたことを思い出しぎゅっと強く拳を握った。
怒りを閉じ込めるように、ふぅっと息を吐き出すと続ける。
「どのような理由で誰が毒を混ぜたのか次第で変わってくるけど、ひとまずはこの件が片付くまでは保護すべきだと判断した」
ブレイクリー伯爵家と関係がある者として話をしたいと引き留めたが、そうしておいて本当に良かったと毒入りの水を見た時に強く思った。
「魔力なしのまま成人を迎え、使えないとわかったから本格的に邪魔になったので追い出したか。追加で毒も入れるとは根性が腐りきっているな」
「ミザリア自身は成人とともに出て行くことはずっと決まっていたと信じていたようだし、伯爵夫人やその息子はそう扱ってきたようだけど伯爵は違う。それだけ彼女の母の能力は特殊で未練はあったから一応置いていたが正解でしょうね」
もともと伯爵家周辺を調べるためにあの町にいた。ミザリアの話を聞いて違和感を覚え、残してきた騎士に調べさせた。
「その母親とやらの特殊な能力とは?」
「それは調べても出てこない。ただ、伯爵が深くそう信じていたというのは事実のようです」
「ふーん。信じていた、ね。やはりきな臭いな」
「ムカつくほどに」
今まで以上に太いパイプを求め這い上がろうと欲深い伯爵だ。
何も根拠もなく動くとは思えない。だけど、ただ美しかったから手に入れたという可能性もあり、その辺りは全て憶測になる。
わかるのはミザリアが完全に伯爵の被害者だということだ。
生まれた娘が特別な魔力がある(と信じている)母の血を引き継いでいる可能性を考え、自分の利益となるように籍を入れ育てようとしていたようだが、大々的には公表していなかった。
おそらく、王都での魔力判定でと思っていたのだろう。
そのほうが周知の効果も出るし、魔力がなかった今となっては周囲にほとんど知られないまま生まれたはずの娘は母親と同じ病弱で伏せっていることにした。
そしてある程度時間が経てば、療養先で命を落としたとでも公表するのだろう。
並べ立てると、人でなしのクズである。ミザリアは十年間姿を見ることはあっても話すことはなかったと言っていた。
『私の管理は伯爵夫人と兄であるベンジャミンが任されていたようなので』と管理と自分で言ってしまうことのおかしささえも気づかないほど、伯爵家で使われることに慣れていた。
そして、特に伯爵夫人のほうはミザリア母娘に恨みを抱いているような印象を受けた。そうなった一因は伯爵本人であることは明確である。
自分の欲望に忠実で、厚遇したり冷遇したりと周囲を振り回した。後継者を生んで安泰のはずの伯爵夫人はミザリア母娘が現れて悔しい思いをしてきたのだろう。
301
あなたにおすすめの小説
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる