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◇騎士団トップの密談③
しおりを挟む「最低野郎だな。先代はもう少しまともだったはずだが」
「後継の育て方はまともに機能しなかったようですね。今代は兄弟全てを追い出して私欲を肥やしている」
「全権が伯爵の手ということか。やはり魔石が厄介だな」
魔道具が日常的に使われている今、魔石がなければあらゆる場面に支障をきたす。
国に供給されている魔石の三割はブレイクリー領で採れ、その多くは質もよく貴族たちに愛用されている。もちろん王城や騎士団に支給されている剣などにも使われている。
下手に突けば魔石の供給を絶とうとする可能性もあり、その場合、蜜月となっているランドマーク公爵がどのように動くかわからない。
「ミザリアはつらかっただろうが追い出されて正解だったと思います。もし可能性を見出されていたら、ずっと飼い殺しになっていた」
「比べるとだけどな」
ミザリアはずっと危うい均衡のなか過ごしてきた。
屋敷での扱いは簡単に想像できるしつらい思いをしてきただろうが、追い出され偶然にも次の日にフェリクスと出会えたことは僥倖だ。
切り捨てたのだからそう警戒するようなことではないかもしれないが、もしもの時に伯爵家の者から守ってやれる。
魔石採掘に関わっていたようだから、もしかしたら何か知っている可能性もある。
「それでディース様は彼女をここに置くことに問題はないでしょうか?」
「ああ。保護にも賛成だ」
アーノルドに愛称で話しかけられ、ディートハンスは考えるように伏せていた視線を上げた。
静かに頷くと、アーノルドは指をブルネットの髪にいれわしゃわしゃと頭をかく。その仕草は気にくわないことがあると行うアーノルドの癖だ。
アーノルド自身は独身であるが、若くして結婚した同期の子どもと変わらないくらいの年頃のミザリアの境遇を思い苛立っていた。
疑わなければならない立場であることに、罪悪感を覚えるほどの境遇とつらい環境で過ごしてきたと思えない彼女のほんわかした空気が逆に切ない。
まだ少ししか彼女のことを知らないが、甘やかしたくなるようなまっすぐさと疎さを持つミザリアを怪しい家の出だからと放り出せそうにない。
白だとわかればそれでいい。あとは守るだけだ。あの細さは本当に駄目だ。
「はぁ。これで気兼ねなく何かあれば伯爵家は潰せる。潰す前にミザリアがこちらの手元にあることは良かったと思うしかないか。ディース様との相性も悪くないようだし」
「今日だけでは判断はできない」
距離を取ることに慣れたディートハンスは淡々と告げると、そこでグラスを傾けた。
昔はもっと考えていることがわかったのに、年々わかりにくくなった。ただ、フェリクスから見て、ディートハンスがミザリアを目に留めた時の反応はいつもと違ったように感じた。
――具体的にどうとは言えないけど、ミザリアに興味というか関心はあるようだったんだけどな。
あの時『何か』を一瞬ディートハンスから感じたが、今も表情が変わらないので本当のところはわからない。
「ディース様に何かあるのが一番困る。そうなる前に必ず言ってください」
「わかっている」
この騎士団寮が人手不足なのは本当なので、ディートハンスに影響がないのならミザリアがここにいるのが最善だろう。
最終決定は総長であるディートハンス。そこは絶対揺らがない。
ディートハンスに問題がないなら、フェリクスは数日間一緒に過ごして優しい気質の頑張り屋であるミザリアを気に入ったので、彼女にとって黒狼寮が息をつける場所であったらと思う。
「ここで保護という方針が決まったなら、俺はまず彼女を太らせたい。細すぎてなんかの拍子でぶつかって骨が折れないかが心配だ。とにかく健康体にしてから他のことは様子見していくのがいいだろう」
アーノルドがミザリアの細さを思い出したのか、思いっきり眉間にしわを寄せた。
フェリクスもアーノルドが言うようにあのガリガリ具合はなんとかさせたいと思う。かすみを食っているのかと思うほどの食の細さは心配になるものだ。
身体的に健康になるようには自分たちで気をつけることはできるだろう。
「俺もそう思います。あと伯爵家を調べる過程で毒のことも探っておきます」
こうしてミザリアが知らないところで疑われ、その疑いが晴れ、勝手に太らせることを決められた。
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