魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

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 伯爵家を追い出されてから一か月が経った。

 いつもよりもぱちりと目が覚めた私は、身も心も軽く爽快な気分で、んん、と身体を伸ばしてベッドから降りカーテンを開ける。
 騎士団寮で私にあてがわれた部屋はとても広く、ウォールナットの床板に白い壁、必要最低限の机や椅子があるだけだが、窓から日が差し込むなか朝を迎えるだけで贅沢だ。

「王都の騎士団寮にいるって今でも信じられない」

 あと、ここに来て次の日にわかったことだけど、フェリクス様は第二騎士団長であった。
 フェリクス・オーバン。家名まで紹介されていたら第二騎士団長だと結びついていた。それくらい彼も有名人である。
 それだけの実力のある人物だったから、私が騎士団寮で働くことも強引に進めることができたのだろう。

 立場のある人なのだとは思っていたけれど、そこまで上の方だとは想像していなかった。
 そのフェリクス様をはじめ、騎士団寮、特にこの黒狼寮には立場も力も常人の想像を遙かに超えた人たちばかり集まっている。

「やたらと食べさせようとしてくるのはちょっと困るけれど」

 今も朝から次から次へとお菓子を渡されて、紺のメイド服にかけた白いエプロンのポケットはぱんぱんに膨れている。
 まるで示し合わせたように働くことが決まった次の日から、美味しいだとか有名だとかでそれぞれの騎士が食べ物を渡してくるのだ。

 せっかくなので少しずつ戴いているが、食べきれず部屋にたまってきた。
 好意と言えるそれは単純に嬉しくてありがたいのだけど、何せ頻繁すぎる。だけど、嬉しそうに渡されると断りづらくて、どうしたらいいのかと現在思案中である。

 本日在中の人数分の朝食、人によっては夜食となる食事を用意しぽつぽつと下りてきた騎士たちに合わせて料理を出し食べ終えた食器を片付け終えると、次は勝手口のドアを開け戻ってきた洗濯物が入っているかごを中へと入れる。
 洗濯に関しての私の仕事は、すでに個別に分けられている袋を各部屋に置いていくだけでいい。
 よいせっと中に入れこむと、私はきょろきょろと周囲を窺った。

「よし。今のうちに」

 重いものを持っているとそれに気づいた騎士たちがすぐに持ってくれる。
 騎士道精神なのか、ここの騎士は非常に紳士的であった。私の仕事だといっても手が余っているのだからと譲らない。

 どうやらここに来た時に私は痩せすぎていて、ものすごく心配をかけていたらしい。実際に重い物を持つとふらふらしていたし、体力のある騎士からすれば余計に不安を煽ったようだ。
 そのことがあって、それなりに肉がついてきた今も何か食べさせなければと常にお菓子を渡されていると思われる。

 だけど、今はしっかり食べて健康的に動いて体力はついてきたはずだ。
 今日こそは誰にも見つからず運び終えようとやる気に満ちあふれせっせと動いていると、ふと近づいてくる足音に気づき手を止めた。

「精が出るね」

 私の姿に気づいたフェリクス様が手を振ってくれる。

「お戻りですか?」

 朝食の後、寮を出て行ったはずなのだが総出で戻ってきたようだ。
 総長たちもいるのでぺこりと頭を下げて再び顔を上げると、見たことがない人物がいるのに気づいた。
 ディートハンス総長を筆頭に、フェリクス様と第二騎士団のブラッドフォード・アガター副団長とアーノルド団長含む第一騎士団の三人、そして初めてお目にかかる第四騎士団の制服の人物。襟や袖の色は紫。

「君がミザリアか。私はユージーン・マクリントック。よろしく」
「ミザリアです。ここで働いております。よろしくお願いします」

 初めてお会いする騎士だがこの寮に住まう人物だ。
 ユージーン様は第四騎士団所属で、第四騎士団は特殊部隊と言われ特殊な事件に関わることが多くその内情は極秘な任務が多い。そのため事件が起こると現場で調査など王都から離れることも多く、留守をすることも多いと聞いている。
 任務明けなのか、寝不足で充血した瞳をしょぼしょぼさせながらずいっと目の悪い人が物をよく見ようとするがとごく私の顔を覗き込む。

「ふぅーん。君、それでよく動いていられるね」
「どういうことだ?」

 ユージーン様のその言葉に反応したのはフェリクス様。
 他の騎士もディートハンス総長もじっと私を見た。

「んんー、魔力なしと聞いていたけど魔道具は使えているよね?」
「ああ。魔力判定の基準に反応しなかっただけで魔力はある」

 私が答える前にフェリクス様が答えたので、私は小さく頷いた。
 ユージーン様はさらに観察するように目を眇めた。

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