魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
22 / 127

器の大きさ①

しおりを挟む
 
 伯爵家を追い出されてから一か月が経った。

 いつもよりもぱちりと目が覚めた私は、身も心も軽く爽快な気分で、んん、と身体を伸ばしてベッドから降りカーテンを開ける。
 騎士団寮で私にあてがわれた部屋はとても広く、ウォールナットの床板に白い壁、必要最低限の机や椅子があるだけだが、窓から日が差し込むなか朝を迎えるだけで贅沢だ。

「王都の騎士団寮にいるって今でも信じられない」

 あと、ここに来て次の日にわかったことだけど、フェリクス様は第二騎士団長であった。
 フェリクス・オーバン。家名まで紹介されていたら第二騎士団長だと結びついていた。それくらい彼も有名人である。
 それだけの実力のある人物だったから、私が騎士団寮で働くことも強引に進めることができたのだろう。

 立場のある人なのだとは思っていたけれど、そこまで上の方だとは想像していなかった。
 そのフェリクス様をはじめ、騎士団寮、特にこの黒狼寮には立場も力も常人の想像を遙かに超えた人たちばかり集まっている。

「やたらと食べさせようとしてくるのはちょっと困るけれど」

 今も朝から次から次へとお菓子を渡されて、紺のメイド服にかけた白いエプロンのポケットはぱんぱんに膨れている。
 まるで示し合わせたように働くことが決まった次の日から、美味しいだとか有名だとかでそれぞれの騎士が食べ物を渡してくるのだ。

 せっかくなので少しずつ戴いているが、食べきれず部屋にたまってきた。
 好意と言えるそれは単純に嬉しくてありがたいのだけど、何せ頻繁すぎる。だけど、嬉しそうに渡されると断りづらくて、どうしたらいいのかと現在思案中である。

 本日在中の人数分の朝食、人によっては夜食となる食事を用意しぽつぽつと下りてきた騎士たちに合わせて料理を出し食べ終えた食器を片付け終えると、次は勝手口のドアを開け戻ってきた洗濯物が入っているかごを中へと入れる。
 洗濯に関しての私の仕事は、すでに個別に分けられている袋を各部屋に置いていくだけでいい。
 よいせっと中に入れこむと、私はきょろきょろと周囲を窺った。

「よし。今のうちに」

 重いものを持っているとそれに気づいた騎士たちがすぐに持ってくれる。
 騎士道精神なのか、ここの騎士は非常に紳士的であった。私の仕事だといっても手が余っているのだからと譲らない。

 どうやらここに来た時に私は痩せすぎていて、ものすごく心配をかけていたらしい。実際に重い物を持つとふらふらしていたし、体力のある騎士からすれば余計に不安を煽ったようだ。
 そのことがあって、それなりに肉がついてきた今も何か食べさせなければと常にお菓子を渡されていると思われる。

 だけど、今はしっかり食べて健康的に動いて体力はついてきたはずだ。
 今日こそは誰にも見つからず運び終えようとやる気に満ちあふれせっせと動いていると、ふと近づいてくる足音に気づき手を止めた。

「精が出るね」

 私の姿に気づいたフェリクス様が手を振ってくれる。

「お戻りですか?」

 朝食の後、寮を出て行ったはずなのだが総出で戻ってきたようだ。
 総長たちもいるのでぺこりと頭を下げて再び顔を上げると、見たことがない人物がいるのに気づいた。
 ディートハンス総長を筆頭に、フェリクス様と第二騎士団のブラッドフォード・アガター副団長とアーノルド団長含む第一騎士団の三人、そして初めてお目にかかる第四騎士団の制服の人物。襟や袖の色は紫。

「君がミザリアか。私はユージーン・マクリントック。よろしく」
「ミザリアです。ここで働いております。よろしくお願いします」

 初めてお会いする騎士だがこの寮に住まう人物だ。
 ユージーン様は第四騎士団所属で、第四騎士団は特殊部隊と言われ特殊な事件に関わることが多くその内情は極秘な任務が多い。そのため事件が起こると現場で調査など王都から離れることも多く、留守をすることも多いと聞いている。
 任務明けなのか、寝不足で充血した瞳をしょぼしょぼさせながらずいっと目の悪い人が物をよく見ようとするがとごく私の顔を覗き込む。

「ふぅーん。君、それでよく動いていられるね」
「どういうことだ?」

 ユージーン様のその言葉に反応したのはフェリクス様。
 他の騎士もディートハンス総長もじっと私を見た。

「んんー、魔力なしと聞いていたけど魔道具は使えているよね?」
「ああ。魔力判定の基準に反応しなかっただけで魔力はある」

 私が答える前にフェリクス様が答えたので、私は小さく頷いた。
 ユージーン様はさらに観察するように目を眇めた。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

【完結】余命半年の元聖女ですが、最期くらい騎士団長に恋をしてもいいですか?

金森しのぶ
恋愛
神の声を聞く奇跡を失い、命の灯が消えかけた元・聖女エルフィア。 余命半年の宣告を受け、静かに神殿を去った彼女が望んだのは、誰にも知られず、人のために最後の時間を使うこと――。 しかし運命は、彼女を再び戦場へと導く。 かつて命を賭して彼女を守った騎士団長、レオン・アルヴァースとの再会。 偽名で身を隠しながら、彼のそばで治療師見習いとして働く日々。 笑顔と優しさ、そして少しずつ重なる想い。 だけど彼女には、もう未来がない。 「これは、人生で最初で最後の恋でした。――でもそれは、永遠になりました。」 静かな余生を願った元聖女と、彼女を愛した騎士団長が紡ぐ、切なくて、温かくて、泣ける恋物語。 余命×再会×片恋から始まる、ほっこりじんわり異世界ラブストーリー。

契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています 

さくら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。 侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。 お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。 形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。 やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。 剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で―― 互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。 「俺はお前を愛している」 「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」 契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。 ――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...