魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

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「だよね。この寮にある魔道具が使えないと仕事にならないしね。俺の見立てだけど器は大きいのにぎりぎり生活に困らない範囲で薄く残っているんじゃないかな。もともとの器が小さければその少ない魔力でも上手く循環していたはずだけど、大きな器にうっすらと残るそれでは本当に必要最低限でしか使えていない」
「それって枯渇状態ということか? だとしたらずっとその状態はありえない」
「だから、よく動けているよねって話。聞けば十一年前に魔力なしと判定されたんでしょ? うーん。よく見たいけど今は頭が回らないなぁ」

 ぱしぱしと瞬きをし大きなあくびをするユージーン様。
 それからユージーン様は後ろにいる総長に視線をやって、ふむっと頷く。
 私をじっと見ていた総長がその視線に気づき、わずかに眉を上げる。

「どうした?」
「ううーん。ディートハンス総長とかなり近づけているって話を聞いていたからどんな人物か会うのを楽しみにしていたけど、もしかしたら器が大きいから総長の魔力に反発しない可能性もあるんじゃないかな」
「おい!」

 そこで反応したのはアーノルド団長。険しい顔でユージーン様を咎めた。

 ――あっ、やっぱり聞いてはならなかったんだ。

 魔力の反発とやらが、総長の事情とやらに関係しているのだろう。
 でも聞いてしまったし、不可抗力であるしと困って眉尻を下げていると、ユージーン様はくわぁっとあくびをし金茶の瞳に涙を溜めながら気怠げに私の顎を掴み瞳を覗き込んできた。

「ユージーン」
「ふはっ、ふふぁ~。ホント、難儀だねぇ」

 それに反応したのはディートハンス総長だった。
 ユージーン様の行動を咎めるように低く彼の名を呼ぶと、ユージーン様はあくびと笑いを混ぜたような声を上げ、すぐに私の顎にかけていた手を離した。

 それでも私を覗くのをやめない。探るように見られて、私は今にもくっつきそうな瞼の奥に見える金茶の瞳を見返した。
 「ユージーン」と今度はフェリクス様に咎められて、はいはいとユージーン様は元の位置に戻った。

「君たちの忠誠も難儀だねぇ。もうここに一か月も置いている時点で彼女のことは認めているんでしょ? ディートハンス総長自身も受け入れているから一定の距離を置いていたとしても反発を起こしていないわけだし。慎重なのはいいけれど、彼女の魔力の在り方は特殊だから少し試してみてもいいとは思うけど。ああー、もう眠い。何しゃべってんのかわかんなくなってきた」
「彼女は大丈夫だと?」

 あくびを連発するユージーン様に、ディートハンス総長がじっと私を見ながら尋ねる。

「今まで大丈夫だったんですよね? 五メートルを徹底していたとして、一か月も同じ空間にいて影響出ていないのが答えだと思うけどその先のことは俺もよくわからない。魔力の相性は悪くないからもう一歩踏み出してみてもいいのではと……ふあぁ~、ねむ」

 そこでまたあくびをするユージーン様。
 ディートハンス総長は無表情ながらもわずかに眉を寄せ、今までにないほど私をじっと見つめてきた。

 顔に穴が空くのではないかというほどのそれは感情がやはりよく見えず、私は困って小さく笑みを浮かべるだけしかできない。
 周囲も総長の言動に注視し耳が痛くなるほどの沈黙が流れ、総長がふっと息をついた。アンバーの瞳をユージーン様へと向ける。

「睡眠を取った後は、彼女の魔力の状態をしっかり調べてくれ」
「わかりました。俺としても彼女の状態は興味深い。ただ、相性やどうたらはあまり興味がない。俺としては中途半端などっちつかずの気遣いが蔓延してここが過ごしにくいのが嫌なだけなので、試すなら俺が寝ている時にしてくれるとありがたいです。何かあれば起こしてくれたら。まあ、問題ないとは思うけど。では」

 話すだけ話し、ユージーン様は爆弾発言だけを残してふらふらと自室へと引きこもっていった。
 全く無関係ではない私はどうしたらいいのだろうかと、助けを求めるようにフェリクス様を見た。

 魔力枯渇とか器とか気にもしなかったことばかり。何より、総長の事情に関わる魔力反発という単語を聞いてしまってこのまま立ち去るとかできない。
 ディートハンス総長は考えるように視線を伏せておられるし、ここで頼れるのはここを紹介してくれたフェリクス様だけだ。

 考え伏せる総長をこれまた考えるように見ていたフェリクス様は、私の視線に気づくと小さく頷きにっこりと笑った。
 静寂と困惑した空気を一掃するようにフェリクス様はパンと手を叩くと、いやに明るくさっぱりとした声を上げた。

「俺もさ、もどかしいというかそういうのは感じていたんだよね。ということで、ディース様、ミザリア。ユージーンの目は確かだ。試してみようか」

 私では判断できないからどうにかしてほしいと思ったけれど、まさかならばとフェリクス様が言い出すとは思わなかった。
 フェリクス様の意見に他の騎士たちも賛同し、私はあれよあれよとディートハンス総長と一か月ぶりにまともに相対することになった。


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