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変わったこと③
しおりを挟む「前も話していたと思うけど、総長の魔力は周囲に影響を与えることがあるため公の場に立つことを控えておられる。ある程度コントロールはできるが万全ではないし、特に異性は違和感を覚えやすく五メートル以上、できれば十メートルの距離は必要なのだそうだ」
最初、五メートルの距離で止まったのはそのためだったようだ。そこで違和感を覚えたらそれ以上は無理だったのだろう。
「十メートルも必要とするのは不特定多数いる場所は配慮してもしきれませんね」
遠征などで宿など取りにくそうである。
ディートハンス様が配慮していても、向こうから飛び込んでこられたらどうしようもない。あっ、だから周囲を騎士で固めているのかもしれない。
そばにいられる者を厳選し、おいそれと近寄らせないようにしているのは、総長というよりも彼を慕う人たち。
「そうだ。コントロールできるけれど常時はさすがに疲れる。完全ではないこともあって、総長は基本騎士団寮の敷地にいる事が多い。もちろん王城内に正式な場所があるがここのほうが何かと都合がいいと寮に会議室があるのもそのせいだね」
「王城はたくさんの方が出入りされているので余波を考えると、ここで行うほうが無駄がないということですね」
説明されればされるほど、納得のいく理由であった。
それと同時に改めて総長の魔力の影響力というものを考えさせられる。
「あと、ディートハンス様の魔力反発について今まで倒れられた方もおられたら結構バレているんじゃないのでしょうか?」
これは少し前にふと思い、気になっていたことだ。
聞けばたくさんの女性がここで働きたいとやってきて、倒れたりといろいろあったらしい。
「魔力が関係していると気づいている者もいるだろうね」
「良いのですか?」
「気づくくらいは問題ないよ。それ自体は知られても困るようなことではないからね。魔力が多いことは誰もが知ることだし、戦場においてディース様の弱点にはならない」
確かにそうだ。
「なら、なぜ伏せているのでしょうか?」
「大々的に反発するほど魔力があるとすると我こそはと度胸試しのようなバカを生むこともあるし、さらにそばにいることが希少だと知った女性が特別になりたいとアピールしてくるだろう。あとはやはり公的に動きにくいのは事実だし、そこを政治的についてくる者も出てくると予測される」
何が攻撃材料になるかわからないということのようだ。
政治的にというのは私では想像つかない世界だけれど、伯爵みたいな利益のために動く自分勝手な人もいる。
最悪、理由が明確になればそれでは仕事にならないとか言って、国の安全よりも目先の自分のために総長の地位を落としにかかろうとするかもしれない。
「言われてみるとそうですね。ディートハンス様の不快やわずらわしさが増えるのが目に見えていて何もいいことはなさそうです」
思った方向での重要度、もしバレたら最悪生死が関係するとかではなかったけれど、総長や周囲の騎士のメンタルのためにも吹聴するものではない。
――それでも、苦労と簡単に片付けるにはひどい。
常に危険と向き合ってこの国を救ってくれている騎士なのに、その魔力があるから私たちが今平和に過ごせているのに、足を引っ張ろうとする者がいることを懸念しなければいけない実情に愕然とした。
「魔力反発を逆手に敵が策を立ててきても俺たち騎士団がそんな策を立てられる前に潰すし、万が一でも必ず総長はその上を行く。なぜなら、騎士団のトップを任せられるのはディートハンス総長以外にはあり得ないから。ただ、煩わしさは増えるし特に政治的なものは全てを力業というわけにはいかず、一時的に衰退する可能性もなくはない。そうなったら国の危機だ」
「随分総長の肩にはたくさんのものが乗っているのですね」
言い知れない胸の奥をつかれた気分でしみじみと呟くと、フェリクス様はにこにこと笑みを浮かべた。
「そう。そうやって理解してくれるだろうミザリアだから俺たちは話したんだ。ディース様も楽しそうだし俺は良い仕事をしたよ」
自分を褒めながらも、総長への気遣いが伝わるセリフだった。
思ったよりも的確に答えてもらえたので、性質がわかるとより寮の在り方がわかった気がした。
ここの現在の体制はディートハンス総長のために、そして騎士たち、国のためでもあるのだ。
この国のために要でもあるディートハンス様を第一に優先して動くことが、ここでの寮の生活の総意となる。
総長自身がそうすることを求めていなくても周囲はそれを求めている。
「俺たちにとってディートハンス総長の存在は絶対だ。常にお一人で背負い孤高であろうとする総長が自ら距離を詰めようとされている事実は喜ばしいし、少しでも気を張らない時間が増えればいいと思っている。だから、ミザリアがここに来てくれて嬉しいし、もし体調など異変を感じた場合は抱え込まず必ず俺たちに話して」
「……はい」
そんな話だったっけ? と思いながらも、有無を言わせぬ鋭さを孕んだ真剣な視線に私は頷いた。
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