魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

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静かに怒る騎士と任命②

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「いや。ディース様の魔力のことを考えると仕方ないってことはわかってるんだけどね。部屋でしかもベッドの上で大人しくするしかないとはいえすることがそれしかないのもどうかと思う」
「そうだね。それにあまり体調を悪くする者を送るとディートハンス総長自身も気に病まれるから、私としては原因を早く突き止めたいところだし」

 ニコラス様は優しい顔立ちとともに、耳に優しい声で告げた。
 治癒部隊の第六騎士団であるニコラス様はいつも穏やかに笑顔を浮かべる聖人のような存在だ。
 怪我をして彼が現れたら、ほっと安堵するような柔らかさと柔弱に見えない意思の強さを感じさせる瞳と第一隊隊長という肩書きは心強いことだろう。

「ディートハンス様の状態はそんなに悪いのでしょうか?」

 今まで深く尋ねていいのかわからずなんとなく漏れ聞く話だけで心配していたのだけど、目の前で話されれば問いたくなる。
 部外者だとまでは思っていないけれど、近づくなと言われていたのもあってどこまで家政婦として雇われた私が介入していいのかわからなかった。

「ああ、本人は問題ないと言って起きようとするが顔色は悪いままなのでベッドから出さないようにしている」
「本当はゆっくりしてほしいのだけどね。寝てばかりも暇だろうし、起きても寝ていても体調は変わらないと言われればね」
「それでも顔色は悪いから完全に回復しているわけではないし、やっぱりゆっくりしてほしいのだけど」

 フェリクス様がそう告げると悔しそうに唇を噛んだ。ニコラス様は終始穏やかに微笑んでいるが、目の下には心労でくまができている。
 効果がないわけではないけれど、原因となるものがわからず治療がうまくいかない。治癒士でもあるニコラス様は余計に悔しく思うことがあるのかもしれない。

「そうですか……。その、今までこのような時はどうされていたのでしょうか?」
「俺たちが知る限りはないな。あったとしても完璧に隠して周囲に気づかせるような人ではない」
「そうなんだよね。戦場での活躍や動きは圧倒的で私たちが入る隙がないくらい最強だけど、今回のようなこともあると第六騎士団としても今後は考えていかないと」
「ディース様の魔力が多すぎて、身体的なものはわかるのだけど内側は俺たちにはわかりにくいから困るんだよ」

 ここでも魔力が多いことによっての弊害があった。

「そうそう。魔力な。膨大なそれはディース様を守るとともに本当に厄介だ」

 そこでやってきたアーノルド団長が席に着き、会話に入ってきた。

「魔力ねえ」

 そう反芻するとフェリクス様が思案げに視線を伏せた。
 再び視線を上げると、少し身を屈め透き通る湖面のような水色の瞳でじっと私を見つめてくる。

 それから、「ミザリア」と私の名を呼んだ。心なしかいつもより声が低い。
 はい、と私は背筋を伸ばした。

「ディース様の魔力の影響はなさそうに見えるけれど何もない?」
「特に普段と変わりありません。ディートハンス様が倒れてからは部屋に近づかないように言われているので、影響を受けていないだけかもしれませんが」

 相変わらず、私はディートハンス総長の魔力というものにぴんときていなかった。
 それで大変なことになっているのにその大変さがわからず眉尻を下げた。

 そこで三人は顔を見合わせると、こそこそと話し合った。そして三人同時に頷くと、代表してフェリクス様がずいっと前に出てきた。
 にこっと先ほどちらっと見えた黒い笑みが見え隠れし気迫に押されて顎を引くと、彼はすぐに何かを思い出したように真面目な顔をつくった。

「なら、一度ディース様に会ってみてくれないか?」
「? 会うのはいいのですが私がうろちょろして余計に体調を崩されないでしょうか?」
「それはない。あの方は結構好みがはっきりしているからミザリアの心配をすることはあっても迷惑に思うわけがない」

 そう言えば、ユージーン様が隊長の魔力反発は魔力の質もあるが、総長の好みも大きく影響しているようなことを言っていたことを思い出す。
 魔力の質自体に本人の性格も出てくるから同じようなものだけどね、と。

「ミザリアにどう影響するかわからず遠ざけていたけれど、ディース様のはうつる類いのものではないし、この乱れる魔力の影響もないのなら近づいても問題ない可能性もある。その上で大丈夫ならディース様の看病をしてほしい。あの人は無理をしようとするから、正直、ミザリアがいたらさすがに控えるだろうし」
「……私も心配なのでできることがあれば是非お役に立ちたいのですが、ディートハンス様が逆に疲れたりしないかは心配です」

 仮にディートハンス総長が私のことをそばにいても疎ましく思わないとしても、やはりしんどいときに気を遣う相手がいるのは疲れてしまいそうだ。
 何かしたい気持ちと、どこで迷惑をかけてしまうかわからないことに気持ちが揺れる。

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