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静かに怒る騎士と任命③
しおりを挟む騎士と家政婦。
心配する気持ちは本当でも、彼らと持っているものがあまりにも違いすぎて、一歩踏み出すには大きな壁のようなものがあった。彼らが作っているのではなく、彼らの立場がそうさせる。
どれだけ優しく接してもらっていても、彼らの背負うものの大きさが違いすぎてそう簡単に何も持たない自分がならばと言いにくい。
「ずっといろと言っているわけではない。たまに顔を出して食事などの世話をするだけでいいんだ。とにかく俺たちはディース様を休ませたい」
「そういうことでしたら」
迷うこと感じることはあるけれど、できることがあるのなら是非させてほしいと私は承諾した。
もともと寮内のこと、騎士様たちに快適に過ごしてもらうようにするのが私の仕事である。そう割り切ることにした。
そう思ったのが顔に出ていたのか、アーノルド団長はぽんと私の頭に手を置いた。大きな手のひらで優しく撫でられ、私はこれでいいのだとほっと息をつく。
「なら、俺たちも部屋までは一緒に行くしさっそく食事を持って行ってくれないか? もともとディース様との接触できる人物は限られている。俺たちも遠征で起きたことも含めてしなければいけないことが増えしばらく忙しいし、もしもの時のためにもディース様には万全であってほしい。そのためにも休めるときにゆっくりしてほしいんだ」
その後、魔力が不安定なディートハンス総長に近づいても問題ないと判断された。
こうなるに至った経緯を話し、最後までしぶっていた総長にフェリクス様はぷち切れた。ぶちっではなくぷちっと。
ふふふっと笑い声が聞こえないのがおかしいくらいの笑顔で私の両肩に手を置く。
「ほら、ミザリアを目の前にして必要ないと言えますか? ミザリアもディース様をとても心配していたんです。できることがあるのなら嬉しいって言っていたよね?」
「はい。あの、もし私がいて気分が悪くなったり邪魔になるのなら諦めますが、もしできることがあるのなら私も役に立ちたいんです」
「ほら。こんな風に言ってくれているのに」
ずずずいっと私を差し出すように、ディートハンス様に近づける。
私の背後のフェリクス様、両サイドのアーノルド団長とニコラス様、そして目の前のディートハンス様で視線だけの話し合いが頭上で行われた。
しばらくしてから、はあっ、と息をつき、私の肩にあるフェリクス様の手を見てディートハンス様が頷いた。
「……わかった」
謎の圧に押し負けて、ディートハンス様が承諾した。
一体、どのような圧があったのかわからないけれど、フェリクス様もぷち切れていたし、皆心配しているのは本当なので、そういった気持ちを悟ったディートハンス様が折れたのだろう。
――正直、あれでディートハンス様が折れるとは思わなかったけれど。
果たして、私を前に出す意図は? とは思うけれど、私も少しでも関われるのなら嬉しかったので、考えてもわからないことは流す。
ディートハンス総長の部屋を出た後、フェリクス様たちがよしっとハイタッチをする。
「ミザリア、これからディース様をよろしくな」
「これからは総長のお世話係だな。他のことよりもまずそれを第一に優先してほしい。書類の整理もしていたよね? 仕事をするなって言ってもするだろうし、何もしないのは無理だろうからそれの手伝いもしてくれたら助かる。ミザリアがいればやはり無茶はしないだろうしね」
「お世話係ですか?」
「そうだ」
大層な名前がついた。
あのディートハンス総長のお世話係!?
当初話していた内容と変わらないのに、なぜか名前をつけられるとずしりと重く感じられる。
「そうそう。無理をしないか見張ってほしいんだ」
「具体的にはどのような?」
「ディース様が万全になるまで食事などの手伝いを。放っておいたら食事も忘れそうだし、身体が資本だとわかっているから食べないということはないけれど、詰め込んだらいいと思っていそうだしその辺も気を配ってくれるとありがたい」
なるほど。とにかく休むことを知らないディートハンス様をゆっくりさせたい。そのための私ということなのだろう。
むしろ、何ももたない私だからこそできることがあるかもしれない。
フェリクス様たちだとどうしても仕事の話をしてしまったりするだろうし、とも思う。
「わかりました。少しでもゆっくりしていただけるよう頑張りたいと思います」
私はこの日、総長のお世話係に任命された。
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