魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

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誓いと告白②

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「ああ。わかっている。本来はミザリアを安心させるための会話をすべきなのに、いざ目の前にすると心配が先立った」
「いえ。私を気にかけてくれ、必ず助けに来てくれる人がいるだけで希望が持てます。万が一、伯爵たちと対面することになったとしても以前とは違ってひとりではないですから」

 どんな会話でもディートハンス様の包み込むような優しさは伝わってきて、その度に自分はひとりではないと勇気をもらえる。
 母が亡くなりひとりで耐えてきた時間と比べものならないほど、心が強くなり今すぐにでも立ち向かえるような錯覚を覚える。

「ああ。どれだけ危険だとしても、ミザリアに何かあれば必ず見つけだし命をかけて守る。もしもはあってはならないが、その時は最後まで諦めないでくれ」
「はい。それに私には精霊たちもいてくれます」
「そうだったな」

 そこでようやくディートハンス様が険しい顔から表情を緩める。
 生気に溢れる綺麗な瞳はいつにも増して輝いて見えた。

「ミザリア」

 柔らかな声で名を呼ばれ返事をすると、その美しい瞳に溢れんばかりの優しさととろりと滲む甘さが浮かび、ほんのちょっとだけ飢えたような獰猛さを覗かせた。

「ミザリアが好きだ」
「…………えっ? すみません。もう一度言っていただけますか?」

 光の角度は変わらないのに、あまりにも美しい光彩に魅入ってしまった。
 聞き逃しそうになって慌てて言葉を拾う。
 告白のような言葉が聞こえたけれど、これこそ幻聴ではと再度聞き返すと、声が小さくて聞こえなかったと思ったのかディートハンス様がぐいっと顔を寄せた。

「好き。誰よりも大事にしたい。許されるのなら職務を放りだしてでもこの手で守りたいと思うほど、気づけばミザリアのことばかり考えてしまう」

 至近距離の低音ボイスと、話すたびに触れる息にぶわぁっと全身の血が沸騰するかと思った。
 かぁっと顔が熱くなり、マグマが噴出したかのごとく心臓が暴れ出したようにどわっと音を立てる。

「……あっ」

 言葉が続かない。
 人に好意を抱かれること自体慣れていないなか、異性に告白されるのなんて初めてだ。

「勘違いしないように言うが、女性としてミザリアのことが好きだ。誰よりも愛おしく、ミザリアの横を誰にも譲りたくないと思うほどに」

 隙を与えない告白と見つめられる眼差しから逃れられない。
 一体、いつから?
 これだけ気にかけてもらってさすがに大事に思われていると自覚はしていたけれど、あくまで庇護者のような立ち位置なのだと思っていた。

 女性を遠ざけていた理由を知った今でも、今もベッドの上で手を繋いでいたとしても、それらの行為を恋愛として結びつけたことは微塵もなかった。
 ディートハンス様に見惚れてしまうことも、ドキドキすることも、ただ慣れていないだけ。そう思っていた。

 ディートハンス様は恋愛だとかそういうもののもっと上にいる存在で、この寮で働く際に浮ついた女性は嫌だと聞いていたこともあり、あまりにもひとりの時間が長く人との交流がなさすぎて、私自身そういうものがよくわからないのもあった。
 私にとってはディートハンス様をそのような対象として見ること自体おこがましく、考えることもなかった。

「……あの、私は」

 だから、急な告白に全身が熱いのに思考がついていかない。
 どのように答えていいのかわからず口を開け閉めしていると、ディートハンス様が熱っぽく、それでいて私のすべてを甘く浸すような甘さをもって見つめた。

「返事はまだいい。ただ、特別な気持ちでミザリアのことを思っていることを胸に留めていてほしい」
「……はい。ありがとうございます」
「解決すれば、話したいことがある。できればそれを聞いた上で返事をもらいたい」
「わかりました」

 慣れない熱とどうしても惹かれてしまう眼差しを前に、徐々に思考が鈍くなる。
 考えなければと思うのにいろいろありすぎて疲れていて、最後の衝撃に私のキャパが限界を迎えたようだ。

「今日は疲れただろう? 眠るといい」
「でも」
「安心して。ずっとついている。ゆっくりおやすみ」

 じっと見つめられながら目を開けようと何度か試みるけれど開けていられなくて、次第に瞼が落ちる。

 ――大事な話なのに、ディートハンス様の声が心地よくて起きていられない。

 もしひとりだったら今頃不安で眠れなかったかもしれない。
 それに好きだと告白され、返事を慌てなくていいと配慮され、とくんと心臓が跳ねると同時にものすごい安心感に包まれた。

「私の秘密を知っても、ミザリアは変わらずに受け止めてくれるだろうか。――まずは憂いを払おう。ミザリア、愛している。どうかこの先もずっと私のそばに……」

 うとうとするなかディートハンス様の呟くような祈りの言葉と額に触れるふわりとした感触を最後に、私は意識を手放した。


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