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殺意②
しおりを挟むネイサンは取り繕うことなく暴言を吐くと、私の前髪を掴み上げた。
ぐいっと乱暴に掴まれ顔を覗き込まれる。
「本当は聖魔法が使えるのだろう? もしくは使えないまでも精霊は見えているはずだ」
「…………」
「ふん。黙っていればバレないと思っているようだがそれは浅はかだ。数日観察していたが魔法を使った形跡はなく、私の魔法が効かない。それはつまり精霊が力を貸しているということだ」
たまっていた鬱憤を吐き出すように言い募られ、無理に顔を上げさせられたまま私は目を見開いた。
忘却の魔法の効果を感じられなかったが、精霊が知らない間に力を貸してくれており本当に効いていなかったらしい。
確かに、精霊には魔石を見つけることは断ったがこの件に関しては何も触れていない。
「はっ。わかっていなかったとは。本当に精霊の気まぐれには反吐が出る」
私の頭をぐいっと乱暴に押し離すと、ネイサンは魔道具を起動させた。
ウィンと音がなり部屋全体の空気がのしかかってくる。防音魔法か侵入防止か、外と遮断させるための魔道具だろう。
「さてもう遊んでいる時間はない。ランドマーク公爵の反乱が失敗に終わるのも時間の問題だろうからな」
「どうしてそう思うのですか?」
そうなればどれほどいいか。
少しでも情報を得ようと質問する。
「情報を与えられていなかったから知らないのか。現状を教えてやる気はないが、そもそも少し考えればわかることだ」
多少なりとも戦況を知っていての発言ということだ。
騎士たちが頑張っていると知りほっとしながらも、ネイサンの言動が気になる。
「なら、魔石探しをしていても仕方がないのでは?」
伯爵は公爵が敗れ目論みが外れても魔石さえあれば再起できると信じているようだが、王国側には公爵家と結びついていることはすでにバレている。
魔物のこともわかっていて魔石を供給していたとして、いずれ反逆罪として捕まるだろう。
どうしてこの家の人たちは誰もそれを想像し理解しないのか。必ず上手くいくと信じ、自分が得をすることしか頭にない。
――おかしい。
今まで閉じ込められていて気づかなかったこと、知らなかったことが多くあったけれど、一度外に出てみて改めてここの歪さが際立つ。
「信じている間は幸せでいられるだろう?」
はん、と暗い愉悦を浮かべネイサンが続けた。
「欲深い者はどこまでも欲深で自分勝手だ。欲しいもののためには平気で人を蹴落とし、敵わなければ媚びへつらうが敬うことはしない。他者がどう思おうが最終的に自分さえよければそれでいい。どこまでも傲慢だな」
まさにここの家族は誰もが欲深く自分勝手だ。
それを長年仕えてきたはずのネイサンの口から出るとは思わなかったけれど。
「……考えればわかるとは?」
「魔物を制御なんてものを完璧に成し遂げることはできない。何よりの敗因は総長を呪い殺せなかったことだ。初めは策略で押していたとしても、次第に戦力の差が出てくる。どいつもこいつも浅慮で考えなしだと思わないか?」
ネイサンの質問に私は瞬きをするに留める。そもそも答えも同調も求めていないだろう。
「――呪いもあなたが?」
それよりも、ここでネイサンの口から呪いのことが出てくるとは思わなかった。
公爵の反乱が失敗に終わることに何の感慨もないようであるし、もしかしたらと思っていたが伯爵にも忠誠などないのだろう。
「そういうものがあると教えると熱心に実験したようだ。他人の命をその辺の石ころのように考える公爵はだからこそできた実験だ」
ネイサンは示唆しただけでそれを利用すると決めたのは公爵だということだが、ネイサンの思惑がまったく見えない。
「何が目的ですか?」
多くの命が失われる可能性を知っていて情報提供したならば、ネイサンの手もまた罪に濡れている。
それだけのことを仕出かし、精霊の記憶、母の記憶を奪った理由は何なのか。
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