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逃れられない運命①
しおりを挟む苦しさと抵抗にぐっと眉を寄せるが、そのまま液体が喉を伝った。こくりと嚥下したその時、どおんと地響きが鳴った。
「ネイサン。そこにいるのだろう。襲撃だ。俺を守れ! ここを開けろ!」
しばらくしてバタバタと慌ただしい足音とともにドンドンと扉を叩き、伯爵がわめく。
ネイサンはちっと舌打ち、空になった液体を部屋の隅に放り投げると魔道具のスイッチを切り扉を開けた。
二人の騎士を連れやってきた伯爵が、苦しさでけほけほと咳をしている私を見やり唾を飛ばした。
「やはりここにいたか! ミザリアの魔力はどうだ?」
「魔力を増幅させる薬を飲ませましたので効果次第です。ただ、それが効かなければ死ぬことになりますが」
「ああ。それでいい。使えなければ意味がないしな」
ネイサンは私を殺すために毒を飲ませた。
だが、伯爵には真実を伝えず希望を持たせ報告をした。期待させた分、絶望にたたき込むためだろう。
自分勝手で傲慢な人たち。
私は嚥下した液体に顔をしかめ、それから心配そうに私の周りを飛ぶ精霊たちを見た。
「それよりも襲撃されたとおっしゃいましたね。公爵様が敗れたのですか?」
「そのようだ。それにより我が伯爵家も捜査対象となり騎士団が直々にやってきたが、断れば門を壊しやがった」
「捜査令状もなくですか?」
「緊急事態に伴い、王の代理として第一、第二団長、そして騎士団総長がやってきた。証拠もあるとかで……」
「証拠? 何か残したのですか?」
「わからない」
ネイサンはちっと伯爵に聞こえないように舌打ちした。
「どうすればいい? 万が一捕まってもミザリアの聖力が戻ればこの危機も……」
そわそわと部屋を歩き回り、どこまでも人任せで勝手な伯爵を私は冷めた目で見た。
こんな人のせいで両親が犠牲になったと考えると、姿を見ているだけで不快で臓腑がねじれそうなほど気分が悪くなる。
それとともに先ほど飲まされた薬が熱く這い回るようで、けほけほっと咳が出た。
「大丈夫なんだろうな?」
「わかりません」
死なすのは得策ではないと考え直した伯爵が、己のためだけに私の心配をする。
そして、しらっと返答しているが焦った様子もないネイサンはこんな時なのにとても冷静に見えた。
喧騒が近づき少し離れたところで夫人やベンジャミンの喚く声が聞こえ、それから物音一つせず静かになった。
「あまりにも静かだ。おい、そこのお前見てこい」
「わかりました」
ブレイクリー伯爵に命じられ外に出た騎士が出てすぐに悲鳴を上げた。
「そこま、うわっ、ぐっ」
すべて言い切るまでにやられたのか、呻き声を最後に静かになった。
こくりと伯爵たちが息を呑み、ひとり残った騎士が剣を構えた。ゆっくりとドアへと向かい、扉を開けると同時にその扉ごと吹っ飛んだ。
「くそっ。乱暴だな」
吊り上がった目を扉のほうへと向け、ブレイクリー伯爵は騎士が落とした剣を取った。
「ネイサンはそのままミザリアが逃げないように捕まえておけ。ここの様子がおかしいとすぐに傭兵たちも気づくだろうからな」
どうやら傭兵を雇っていたようだけど、この様子では大半はすでにやられていそうだ。
ぱらぱらと細かな破片が崩れ落ちるが、私のところにはひとかけらも破片はなかった。
漂う空気にぞくりと背を震わせると、ひゅっと風の音とともに現れた人物が伯爵に斬りかかった。
「うわぁぁぁー、やめてくれ」
伯爵の横に斬り込んだ剣の跡があり、そこで下半身を濡らし失神している。
さらに振り上げようとしたところで私は声を上げた。
「ディートハンス様」
私は数刻前の悔しさや恐怖も吹っ飛び、突如現れたこのグリテリア国の最強騎士である騎士団総長の名を呼んだ。
名前を聞いた時から、気配を感じた時から、心が安堵とともに会いたくて打ち震えていた相手が目の前にいる。
彼は一瞬私のほうに視線をやり小さく頷くと、アンバーの瞳で私の腕を掴んだネイサンを見据えた。
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