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大切に思うからこそ③
しおりを挟む「身体を張って守ってくださっている皆様のお役に立てるのは非常に嬉しいですし、聖力が使えてよかったと思います。今日はまだ能力の使い方がわからずご心配をおかけしましたが、これからはもっと上手くやれます。精霊王様がとても乗り気なので、騎士様たちの邪魔をしないように指示も仰ぎますし無理もしません」
「リア……」
私の言葉をじっと聞いていたディートハンス様の表情に笑みはなく、怖いほど真剣な眼差しだった。
ディートハンス様の不安は、ディートハンス様の気質もあるけれど私がもたらしたものだ。
だったら、私は常に寄り添いながら大丈夫だと伝え続けるしかない。
「ディートハンス様は以前、『得意な者がやればいい』と言ってくださいましたよね?」
「……ああ」
「これは私が誇れる得意なことです。もちろん王国には素晴らしい治癒士の方がおられるので私がでしゃばるつもりはありません。ですが、その時に治療を必要としている人がいて、目の前に苦しんでいる人がいるのならば私はこの力を使いたいです」
ディートハンス様は静かに私の言葉を聞いていたが、一つ息をつくと柔らかな声を出した。
「リアには敵わないな」
「ディートハンス様は身体を張ってこの国を守ってくださっています。恋人である私が気にならないわけがありません。力になれることがあるのなら、ディートハンス様が守りたいものを守りやすくする手助けがしたいんです」
ディートハンス様とともに過ごすということはそういうことなのだ。
何より、ディートハンス様が危険な場所に赴く際、危険なことは仕方がなくてもその後のケアができるかできないかで私の心情が違う。
もう両親の時のように、何もせず、何も知らないまま失いたくない。
できることがあるのなら、最善を尽くしていくべきだ。
それもきっとディートハンス様は理解している。
だけど、頭と心はまた違う。ずっと守る立場で今も多くの命がその肩に委ねられている。だからこそ余計に切り替えも難しいのだろう。
ディートハンス様は私の肩に顔を埋めると大きく息を吐いた。
それから、顔を上げる際に首元を辿るようにキスを落としていき、長めに頬に唇を寄せ慈しむような眼差しで私を見た。
「愛しているからこそきっと不安は消えないだろうが、無理をしないというリアを信じたい」
「ありがとうございます」
「もっともっと、リアの存在を感じたい」
互いに大事に思うからこそ心配はする。その思いが苦しく感じることもあるけれど、それ以上に一緒にいたい。一緒にいられる時間が尊い。
十一年の時を経て再開し、惹かれ合って共にいられる喜びを感じ合いたい。
「私も、です」
切に願うような声に、私の心は震えた。
互いの環境のせいか、温もりを感じられることが奇跡のようで、視線を合わせ相手の鼓動を感じるだけで歓喜に震える。温もりに愛しさを募らせる。
そっとベッドに下ろされ、互いに見つめ合った。
「リア。愛している」
顔を寄せられ、脳髄に響く甘く誘う声とともに引いていた顎を上げて目をつぶる。
吐息が触れると薄く唇が開き、ディートハンス様の口づけを受け入れた。
触れ合わせるだけのキスから、抵抗を見せない私にさらに大胆になったディートハンス様はそろりと舌を隙間から差し入れた。
内側の熱を交換するように舌先同士が触れ合い、そのまま絡み合うのがわかる。
呼吸が上手く出来なくてたどたどしく息継ぎをすると、その息さえもぱくりと食べられ喘ぐ。
少し酸欠気味になりながら、どこまでも私の様子に合わせる優しい舌の動きに応えたくて私もそろりと動かした。
「んんっ」
触れる範囲が広がり、初めて味わう感触も混ざり合う唾液も、ディートハンス様からもたらされるものというだけで甘美になる。
互いの息遣いに相手の存在をさらに感じて、苦しさと幸せで目尻に涙がたまった。
「リア、好き」
「……ん、私も好きです」
ただ、愛おしくてたまらない。
さらに深まりながらもどこまでも優しいキスに私は身を委ねた。
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