魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
119 / 127

大切に思うからこそ②

しおりを挟む
 
「ディートハンス様……」
「ディースと」
「……ディース様」
「うん。そう呼ぶように」

 美貌に笑みを刻み、ディートハンス様は私の手を取ると軽々と私を抱き上げる。

「わっ」

 予備動作もなく流れるようなその動きに声を上げて慌てて抱きつくと、ディートハンス様はくすりと笑う。
 私の額に頬、そして鼻を触れ合わせるまま止まるとじっと私を見つめた。

「リア。今日は活躍したと聞いた。騎士たちを救ってくれてありがとう。倒れたと聞いたが体調はどうだ?」
「力を使うことに不慣れだったせいでへたり込んでしまいましたが、他は問題ありません」
「……そうか。くれぐれも無理はしないでくれ」

 腕に腰掛けるような形なのに非常に安定感があったので、しがみつく手を緩めて一度顔を離し改めてディートハンス様の顔を覗き込む。
 先ほど笑っていたかと思えば、今は心なしかいつもより声が低い。

「ディース様?」

 どうしたのかと視線とともに問えば、ディートハンス様が力強く熱のこもった視線で私をじっと見つめ、大きく息を吐き出すとぎゅうっと私を抱きしめた。
 隙間を埋めるようにかき抱かれ、私はそっと肩に手を置く。

「…………」
「何かあるなら口に出して言ってください」

 呼びかけると口を噤んでしまったので、私はもぞもぞと動いた。そうすると、優しいディートハンス様は力を抜いて私のしたいようにさせてくれる。
 こういうところも好きだなと、私はディートハンス様の肩を掴み真正面から見据えた。

「リア……」
「ディース様」

 ひとりでため込み処理する人でもあるので、少しでも兆しがあるのならそれを逃したくない。
 優しくてその強さで受け止めてしまうからこそ、好きが増すとともに、もっと甘えてほしい、頼ってほしいという気持ちが強くなる。

 そっと両頬に手を添えて、不安そうに視線を揺らすディートハンス様をじっと見つめた。
 抱え込まず、私に対する気持ちの問題ならば話し合わなければわからないことも多い。迷うのは、迷わせるのは、私だから。
 なら、その迷いも私は受け止めたい。

「………………ダメだな。リアのしたことはとても誇らしいし、騎士たちを治してくれたことは本当に感謝している。だけど、もしリアに何かあればと思うと、また倒れて意識が今度こそ戻らなくなったらと思うと怖い。助かったのに、少しでも危ないことはしてほしくないと思ってしまう」

 長い沈黙の後、吐息のような声を落とされディートハンス様の心情を知る。
 私の境遇や、出会い方、拉致されたことも含めて、ディートハンス様にとって私は守るべき存在としてすり込まれてしまっていた。
 自分たちの関係性や立場の差、持っている力の違いでそれらは仕方がない反面、私はいつまでも守ってもらって甘えるばかりの関係なのを寂しく感じていた。

「ディース様……」
「リアの行動を制限したいわけではないんだ」
「わかっています」

 大事に思われて嬉しくないわけではない。
 だけど、大事にされればされるほど、そして好きだと思うほど、強くて優しい人の支えになりたい気持ちが増していく。

 離れていると不安だという気持ちが、いずれ私がいるから留守を任せられると思ってもらえるようになりたい。
 甘えてばかりではなく、そういう意味でも逆に甘えてもらえるような存在に私はなりたい。
 互いに補っていける関係になりたかった。

 ディートハンス様の不安はすぐに解消されるものではないこともわかっている。
 私も、ディートハンス様は寮から出て行くたびに怪我をして帰ってくるかもしれないと常に不安はある。
 不測の事態が起きて帰ってこなかったらと思うと怖い。

 だけど、それらは過ごす時間とともに話し合いの中で少しずつすり合わせていくしかないのだろう。
 それとともに自分でもできることを増やしていきたくて、今日の出来事はきっかけでもあった。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】余命半年の元聖女ですが、最期くらい騎士団長に恋をしてもいいですか?

金森しのぶ
恋愛
神の声を聞く奇跡を失い、命の灯が消えかけた元・聖女エルフィア。 余命半年の宣告を受け、静かに神殿を去った彼女が望んだのは、誰にも知られず、人のために最後の時間を使うこと――。 しかし運命は、彼女を再び戦場へと導く。 かつて命を賭して彼女を守った騎士団長、レオン・アルヴァースとの再会。 偽名で身を隠しながら、彼のそばで治療師見習いとして働く日々。 笑顔と優しさ、そして少しずつ重なる想い。 だけど彼女には、もう未来がない。 「これは、人生で最初で最後の恋でした。――でもそれは、永遠になりました。」 静かな余生を願った元聖女と、彼女を愛した騎士団長が紡ぐ、切なくて、温かくて、泣ける恋物語。 余命×再会×片恋から始まる、ほっこりじんわり異世界ラブストーリー。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

処理中です...