冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
10 / 14

冷徹からの熱愛①

しおりを挟む
 
 帰宅後、改めてまた話し合いをすることになり、現在今まで避けていたクリフォードの部屋にいた。
 今度は部屋のドアは閉められず、隙間が空けられている。
 それでも放つ空気が重くて、私は慣れない場所であることもあっていつも以上にかしこまって座っていた。

「それで憂いはなくなっただろうか? 話の続きをしても?」

 退路を断った人がとは思うけれど、私的にはタイラーたちに迷惑をかけなかったことは本当に良かった。
 私も押し切ってまで出て行きたいと思えなくなっていたし、結果的におじさんたちにとっては良い話となったようなので、おじさんのほくほく顔に安堵もした。
 父が亡くなって途方にくれた私たちに手を差し伸べてくれた人だ。

 そして、おじさんとの話で発覚した父のお墓のこと。
 母が侯爵のもとへと嫁ぐことを決めたのは、父のお墓を作ってくれたこともひとつの大きな要因となっているはずである。

 平民は共同墓地になることが多いけれど、元貴族である母はどうしてもそれは嫌だと遺骨を持っていた。
 駆け落ちするくらい好きだった相手と一緒にいたいと思う気持ちもあったし、静かに父だけを思い偲びたかったのだろう。

 ただ、やはりお墓をたてるのにはお金がかかる。生活するので精一杯だったので私たちに当然そのような余裕はなかった。
 侯爵と出会い、侯爵が気を配って手配してくれたととても穏やかな表情で語っていたことは今でも覚えているし、私もそこに行けば父に語りかけることができるのだと、ようやく父がゆっくり眠れるのだと思うとほっとしたし嬉しかった。

「はい。その前に、父のお墓のことをありがとうございます」
「父がしたことだ」
「ですが、クリフォードお義兄様が侯爵様に進言してくださったのですよね?」
「必要なことだと判断しただけだ」

 義務的な突き放すような言い方だけど、前ほど冷たいとは思わない。
 嫌われていると思っていたから敏感になっていただけで、これは通常モードのクリフォードだ。

 どうも口説こうとするとおかしくなるらしい。とても残念すぎる人だ。
 情緒不安定というか、正直そこものすごく引っかかっているけれど、嫌われるよりはやはりいいし何よりこの件は私たち親子にとって頭を下げるべきことである。

「それでも母はそのことで随分と肩の荷を下ろせたと思います。私もです。感謝します。ありがとうございます」
「……いや」

 深く頭を下げゆっくりと戻す際に顔を見ると、ふいっと視線を逸らされた。
 一瞬、今までの光景が浮かびちくっと胸が痛んだが、そこでクリフォードの耳が赤くなっているのに気づく。

 ああ、なるほど。ぽんと手を打ちたいくらいの気持ちになった。
 正面から見ると感情が表に出るから視線をすぐ外されていたということなのかと、耳だけ赤くなっている姿を見ながら納得する。

 冷たい視線の理由がわかりさらに気持ちが解れていく。
 義兄が素っ気ないのを最初は苦言していた義父が申し訳なさそうにし、母が苦笑していたのはこういうことなのかとようやく理解した。

 ――なんでも淡々とこなしていく人だと思っていたけれど、結構不器用なのかな?

 それでも襲いそうという発言はまた不器用とは別ものだし、正直なにがどうなってそうなっているのかと気になる。
 というか、その対象である私としてはそのことを無視できない。

「出てはいきません」
「なら……」
「ですが、その襲うとかやっぱり怖いですし、結婚もやはり急ですのでお受けできません」

 やっぱり今まで冷たくしておいた後にそれはないだろうという気持ちが強い。
 日々の気遣いや過去の感謝もあり好ましいなとは思う。顔も正直好きだし。やっぱり悪いよりは良いほうがいいし、この二年間ずっと気になっていた相手ではある。
 だけど、切れた糸がまだふらふらし彷徨いなく寂しげに揺れたままだ。

 なんていうのだろう。
 好きだったら証明してほしい? 上から目線かもしれないけれど、二年間をしっかり埋めてからちゃんと告白してほしい。

 その時に響いたら考えてもいいなというくらいの好感?
 そう好きではあるけれど、今の気持ちはそんなものかもしれない。

「どうしたら俺の手を取ろうと思える?」
「そうですね。私が家族になりたかった二年、手を出さずに優しく接してくださるなら。ですが気持ちが伴うかどうかはわかりません」

 ほかに好きな人がいるわけでもないし、二年というのならその二年はクリフォード以外は見ないとするならお互い様?
 その間、触れられもしない女性は嫌だと気持ちが離れるならそれはそれだし。

 そして何より、極端な義兄の暴走の仕方は想像がつかないので先に釘をさして暴走は遠慮したいのが一番なところ。今は落ち着いているけれど、その辺りを見極める期間は必要だと思う。
 嫌われていると思った二年間もあるし、拗らせない程度に『待て』をしてもらってもいいんじゃないかなって。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

醜女の私と政略結婚した旦那様の様子がおかしい

サトウミ
恋愛
この国一番の醜女である私と結婚したイバン様。眉目秀麗で数多の女性と浮き名を流した彼は、不祥事を起こしたせいで私なんかと結婚することになってしまった。それでも真面目な彼は、必死に私を愛そうと努力してくださる。 ──無駄な努力だ。 こんな色白で目と胸の大きい女を、愛せるはずがない。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

処理中です...