5 / 63
巻き込まれています2
しおりを挟むアリスと初めての出会いというか接触は、入学式の時に彼女にぶつかられカバンを落としたことであった。
アリスはぶつかったことも気づかないまま走り去り、その先にいたこの国の王太子であるアンドリュー殿下の側近であるレイジェスの前で転げ、手を差し伸べられ注目を浴びていた。
なので、その手前での自分との接触は注目されることはなかったが、ルーシーにとってはその後のほうが衝撃的だったのでぶつかったことはどうでもよくなった。
その騒動の最中に親切に声をかけてくれたシルヴィアと、王子の側近のオズワルドに話しかけられたからだ。
今でもときおり話しかけてくれるシルヴィアの優しさは心の支えとなり、誰に対しても冷たいくらいクールなオズワルドと直接話す機会が入学初日にあったことは、ルーシーにとって唯一の学園での良い思い出だ。
それくらい、今のルーシーにはクラスメイトとの思い出がない。
その原因は、自分を『友達』だと言いながら振り回してくるアリスと一緒にいることであるとわかっているし、そのすべてをアリスのせいにするつもりはない。
けれど、楽しみであった学園生活の半分以上がこのように終わってしまったこと、先ほどのアリスの態度に、この状態からやすやす抜け出させてくれなさそうなのは残念であった。
アリスとは、入学式のあとに教室で再会し席が隣だったこともあって仲良くなった。
にこにこと笑顔を浮かべて友達になりましょうと言われ、もともと南部の田舎の子爵令嬢であるルーシーに知り合いは少なく、積極的に話しかけられて嬉しくて頷いた。
彼女のピンク色の瞳を見ているととても愛おしい感情がこみ上げ、なんだか頭がふわふわしてアリスと一緒にいることが幸せなのだと感じた。
彼女のお願いは何でも聞いてあげたい、そんな気持ちに支配された。
それでもときおり何かおかしいなと思うことはあったが、彼女に見つめられるとすぐにその疑問は溶けてしまい忘れてしまった。
心や思考がずっともやにかかった状態というか、アリスのことになると自分で考えて動いているはずなのに、自分の身体と精神が乖離した状態で一年以上過ごしていた感じだ。
学園二年目の今年に入ってから、なぜ彼女とずっと一緒にいたのか疑問に思うことや、先ほどみたいにアリスにお願いされてもふと我に返ることが増えた。
増えたと言うより、疑問に思ったことを覚えていられるようになったというのが正解かもしれない。
以前からアリスは、ルーシーのことを『お助けキャラ』と呼んだり、先ほど揉めていたキャサリンのことを『悪役令嬢』と呼んだりと、失礼な呼び方をすることがたまにあった。
それに、周囲の身分の上の貴族や王子や側近たちにも無礼講とばかりに自分から話しかけたり、こともあろうに気安く触れたり、その自由さにあれっと思うことは多々あった。
だけど、いざアリスを目の前にするとそのことは忘れて、これがアリスの良さだと注意するのも忘れてしまうことが続いた。
今は、アリスに『友達』と言われると違和感しかない。
単純に押しつけられる雑用が増えてきているからというのもあるが、アリスに頼まれるだけで心が満たされて思考がぽおっとしていたのがどうしてなのかわからない。
アリスが所持する光魔法は特殊で、回復、治癒魔法は上級者に使える者も多いが、それは相手や場所を決めて特定部分のものに対し、光魔法の治癒は広範囲に効果がある。誰が見ても有益な魔法だ。
それに加えて、天真爛漫で可愛らしいアリスは男性に非常にモテた。
アンドリュー殿下や側近たちも気にかけているし、常に彼女は男性に囲まれていた。どの令息も見目麗しいというのが特徴である。
男性の中には婚約者がいる人もいて、あまりにも行動が目に付くので婚約者の女性たちが注意するが、なかなか騒動は収まらない。
アリスが関わって婚約破棄をした組数が片手では足りなくなってきたほどだ。
その中には家の事情で仕方なく婚約していたといったものから、心を通わせていたはずのものと様々であったが、破棄の原因が男爵の養女である元平民というのが騒動を大きくする原因となったのは言うまでもなかった。
徐々にぽおっとするのが解けることが多くなってきたころ、ルーシーもそれとなく気軽に男性と二人きりになるものではないと伝えてみたことはあったのだが、「あなたに求めているのはそういう助言じゃないわ」と聞く耳も持たれなかった。
ならどんな助言なら聞くのかと聞いてみたいが、「ルーシーは私が求めるものを助言してくれるのよ」と答えになっていない答えが返ってきた。
アリスは妙な言動とともに自分のすることは絶対だと信じているらしく、言っても無駄だった。
177
あなたにおすすめの小説
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる