巻き込まれモブは静かに学園を卒業したい【後日談追加】

橋本彩里(Ayari)

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 アリスと初めての出会いというか接触は、入学式の時に彼女にぶつかられカバンを落としたことであった。
 アリスはぶつかったことも気づかないまま走り去り、その先にいたこの国の王太子であるアンドリュー殿下の側近であるレイジェスの前で転げ、手を差し伸べられ注目を浴びていた。

 なので、その手前での自分との接触は注目されることはなかったが、ルーシーにとってはその後のほうが衝撃的だったのでぶつかったことはどうでもよくなった。
 その騒動の最中に親切に声をかけてくれたシルヴィアと、王子の側近のオズワルドに話しかけられたからだ。
 今でもときおり話しかけてくれるシルヴィアの優しさは心の支えとなり、誰に対しても冷たいくらいクールなオズワルドと直接話す機会が入学初日にあったことは、ルーシーにとって唯一の学園での良い思い出だ。

 それくらい、今のルーシーにはクラスメイトとの思い出がない。
 その原因は、自分を『友達』だと言いながら振り回してくるアリスと一緒にいることであるとわかっているし、そのすべてをアリスのせいにするつもりはない。
 けれど、楽しみであった学園生活の半分以上がこのように終わってしまったこと、先ほどのアリスの態度に、この状態からやすやす抜け出させてくれなさそうなのは残念であった。

 アリスとは、入学式のあとに教室で再会し席が隣だったこともあって仲良くなった。
 にこにこと笑顔を浮かべて友達になりましょうと言われ、もともと南部の田舎の子爵令嬢であるルーシーに知り合いは少なく、積極的に話しかけられて嬉しくて頷いた。

 彼女のピンク色の瞳を見ているととても愛おしい感情がこみ上げ、なんだか頭がふわふわしてアリスと一緒にいることが幸せなのだと感じた。
 彼女のお願いは何でも聞いてあげたい、そんな気持ちに支配された。

 それでもときおり何かおかしいなと思うことはあったが、彼女に見つめられるとすぐにその疑問は溶けてしまい忘れてしまった。
 心や思考がずっともやにかかった状態というか、アリスのことになると自分で考えて動いているはずなのに、自分の身体と精神が乖離した状態で一年以上過ごしていた感じだ。

 学園二年目の今年に入ってから、なぜ彼女とずっと一緒にいたのか疑問に思うことや、先ほどみたいにアリスにお願いされてもふと我に返ることが増えた。
 増えたと言うより、疑問に思ったことを覚えていられるようになったというのが正解かもしれない。

 以前からアリスは、ルーシーのことを『お助けキャラ』と呼んだり、先ほど揉めていたキャサリンのことを『悪役令嬢』と呼んだりと、失礼な呼び方をすることがたまにあった。
 それに、周囲の身分の上の貴族や王子や側近たちにも無礼講とばかりに自分から話しかけたり、こともあろうに気安く触れたり、その自由さにあれっと思うことは多々あった。
 だけど、いざアリスを目の前にするとそのことは忘れて、これがアリスの良さだと注意するのも忘れてしまうことが続いた。

 今は、アリスに『友達』と言われると違和感しかない。
 単純に押しつけられる雑用が増えてきているからというのもあるが、アリスに頼まれるだけで心が満たされて思考がぽおっとしていたのがどうしてなのかわからない。

 アリスが所持する光魔法は特殊で、回復、治癒魔法は上級者に使える者も多いが、それは相手や場所を決めて特定部分のものに対し、光魔法の治癒は広範囲に効果がある。誰が見ても有益な魔法だ。
 それに加えて、天真爛漫で可愛らしいアリスは男性に非常にモテた。

 アンドリュー殿下や側近たちも気にかけているし、常に彼女は男性に囲まれていた。どの令息も見目麗しいというのが特徴である。
 男性の中には婚約者がいる人もいて、あまりにも行動が目に付くので婚約者の女性たちが注意するが、なかなか騒動は収まらない。

 アリスが関わって婚約破棄をした組数が片手では足りなくなってきたほどだ。
 その中には家の事情で仕方なく婚約していたといったものから、心を通わせていたはずのものと様々であったが、破棄の原因が男爵の養女である元平民というのが騒動を大きくする原因となったのは言うまでもなかった。

 徐々にぽおっとするのが解けることが多くなってきたころ、ルーシーもそれとなく気軽に男性と二人きりになるものではないと伝えてみたことはあったのだが、「あなたに求めているのはそういう助言じゃないわ」と聞く耳も持たれなかった。
 ならどんな助言なら聞くのかと聞いてみたいが、「ルーシーは私が求めるものを助言してくれるのよ」と答えになっていない答えが返ってきた。
 アリスは妙な言動とともに自分のすることは絶対だと信じているらしく、言っても無駄だった。

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