巻き込まれモブは静かに学園を卒業したい【後日談追加】

橋本彩里(Ayari)

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取り戻した日常1

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 あの教科書騒動から数日。
 アリスに何を言われても自分の意見を言うことができるし、アリスに苦言を呈していくうちに、『使いものにならないお助けキャラ』と言われてかまわれることは大分少なくなった。

 もしもう一度思考がもやに捕らわれたらと思って怖かったが、ルーシーはあっけなくアリスから解放された。
 ルーシーだけでなく多くの男性たちから見放され孤立しだしたアリスは、今日も懲りずに王子たちを追いかけ回している。
 巻き込まれない日々はものすごく平和である。

 このままひっそりと卒業できたらそれだけで十分だと、のんびりと机の上の教科書をまとめていたら、席の前に人が立つ気配がした。
 顔を上げて相手を確認し、ルーシーはまたかと眉を寄せた。

「ルーシー。一緒にお昼食べない?」

 せっかく平和で静かになったのに、なぜか今度はラシェルがやたらと話しかけてくる。
 ルーシーの状態に気づかなかったことを気にしてくれているのか、ぼっちなのが気になるのか。
 本性を見破った女性・・に対しても、ラシェルは変わることなく優しくてチャラかった。

「お誘いは嬉しいのですが、遠慮しておきます」

 ルーシーはゆるりと首を振った。
 気にかけてもらえるのはありがたいが、相変わらずラシェルは女性たちに囲まれており、そんな彼と一緒に過ごして平穏が訪れるとは思えない。

「そう。また気が向いたら一緒に食べようね」
「ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げながら、心の中で付け足しておく。
 少し離れた場所でこちらの様子をうかがっている、そういう関係なのかファンなのかわからない女性たちにサービスしてくださいと。

 あっ、やっぱり彼女たちに呼ばれた。
 女性を前にするとにこにこと取って付けたような安売り笑顔が見事だなと思いながら見送っていると、ラシェルがこちらを気にするように見たので、もう一度頭を下げて送り出した。

 お互いに、言及したあの日のことは何も触れない。
 あの時は急にもやがなくなって混乱していたので、気づいていたとしても口にしていいことと駄目なことの判断が疎かになっていた。

 踏み込みすぎたこと、瞳のことも触れないほうが良かったかもと、部屋に戻ってからルーシーは後悔した。
 だから、今後は一切自ら触れようとは思わないし、地雷ぽかったのでラシェルが触れないのならそれに合わせるだけだ。

 ここ最近、ラシェルには休憩時間や放課後とことあるごとに話しかけられる。
 そのたびにさらに時間を作って話そうと言われるのだけど、リップサービスに笑って返せるくらいラシェルとのやり取りにも慣れてきた。

 深く関わらず静かに過ごしたいと思うのは変わらないし、ちょっと迷惑だと思う気持ちはあるけれど、本当は話しかけられるのは嫌ではない。
 ラシェルが話しかけてくれることで自分たちの応酬を聞いていたクラスメイトからも、結構話しやすいのだなと話しかけられることも増えたのでありがたくもあった。

 アリスの呪縛が解けたあと、こうしてクラスに溶け込むことができているのは、ラシェルのおかげでもあるので彼には感謝の気持ちもある。
 感謝してはいるが、あまりにも誘いが頻繁すぎないだろうかと、その日の放課後、再度机の前に立つラシェルを前にルーシーは溜め息をついた。

「ルーシー。今週の休み一緒にデートしない?」
「予定があるのでほかの方としてください」
「そっか。残念」

 軽く肩を竦めながら笑ってはいるが、眉尻を下げて本当に残念な顔をされると、ちくりと胸が痛くなる。
 でも、それを見たほかの女生徒たちが、じゃあ私がと話しかけているので、これもこれでダシにされているのではと思わないでもない。
 彼の本質を考えると疲れないのだろうかと心配にもなるけれど、どうするかはラシェルが決めることだ。

 話しかけられはするがすぐに引いてくれるので、ルーシーも気負わずに答えられる。
 もしかしたら、ルーシーの状態を確認してくれているのかもしれない。
 女性を憎むくらい嫌いなのにまめさを発揮し手酷くしきれないラシェルの姿に、ルーシーは心が和むとともに朗らかな笑顔を浮かべた。

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