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ラシェルの過去3
しおりを挟む事実のみを淡々と話すラシェルは、思い出すのもつらいのだろう。
痛いくらいに握りしめられた手がその証拠だ。
我慢できない痛みではないので、ルーシーはラシェルの好きにさせた。
壮絶な経験をしたラシェルの女嫌いは義母と義姉のせいで、物心ついた時に身近にいた女性がそんな人たちだったら、嫌悪を覚えるのは当然だろうと思った。
「徐々に骨格もできあがり力でこっちも躱せるようになったけどね。相手も諦めが悪くて、狡猾に薬を仕込んでくるしで、屋敷では一向に休まることができなかった」
「異常です……」
「そういう気質なんだろうね。父に相手してもらえない分、俺を虐げることもできるそれで満たそうとしていたんだと思う」
歪な思いに巻き込まれ疲弊した心は、身体は成長してもいまだ傷ついたまま。
心底、最低で自己中という言葉では片付けられないほど極悪な義母と義姉だと思うし、そして侯爵もろくな大人ではない。侯爵がどんな人物かは知らないが、少なくとも親としては失格だ。
「まあ、身体が成長し知恵がついてからは綱渡り状態でなんとかやってたのだけど、疲弊していて。誰にも話せずぐったりしているところを無理矢理暴露させられて、殿下たちに助けられたから。一時期だけだよ」
「殿下たちが……」
助けられて良かったとは思うけれど、受けた傷は変わらない。
少しでもラシェルに寄り添うような言葉をかけたいのに、気の利いた言葉が出ず顔を歪ませるルーシーに、ラシェルは声のトーンを上げて続ける。
「そんな顔させたいわけじゃないんだ。できたら知られずにいたかったけど、ルーシーにはいろいろ見られてるし。なにより偽りたくなくて」
「いえ、私が不用意に触れたから」
ラシェルの心の均衡を、ルーシーがあの時に刺激してしまったのだろう。
なのに、なるべく重くならないように明るく話そうとするラシェルは根が優しい人だと思う。
「だとしても、俺はルーシーに気づいてもらって嬉しかったんだ。知られたくないのに、気づかれたくないのに、どこかで俺のこの過去も含めてそれでもいいよと言ってくれる人を探してたんだと思う」
「探してた……」
「うん。あと、最終的に父が義母たちを追い出したから縁も切れてるから、今はまったく何も問題ないよ。さっきも言ったけど、ルーシーにはいろいろ見破られていたから、誤魔化すのではなく話しておきたいと思って」
「そう、ですか」
大変だったのですね、とその場限りのような軽い慰めのような言葉を口にするのは躊躇われた。
そのすべての苦しみを理解したわけではないし、それらの悲惨な経験を一言で終えるようなことはしたくなかった。
願わくは、話すことで少しでも気持ちが軽くなることをと思うばかり。ただ、話を受け止めることしかルーシーにはできなかった。
「それで、俺が遊んでいたことについてなんだけど……」
「ああー。女性がとても嫌いなのに遊ぶって、矛盾してますね」
あまりにも壮絶な過去に、学園ではいろいろな女性と遊んでいたことを一瞬忘れていた。
手が空いていたら、ぽんと手を打っていたのはないかと、そうだったと軽く相槌を打ったルーシーに、ラシェルがまた口を尖らせた。
「……俺が悪いんだけどさ。ほかに感想はない?」
「なんでそこで拗ねたような表情するんですか……。えっと、ラシェル様が自ら触りにいかないことや、相手から来られたら若干引いていた理由はわかりましたけど、嫌ならなんで遊んでいたのかなと少しだけ疑問に思います」
「少しだけ……」
なぜか気を遣って告げた『少しだけ』に、むっと声を低くさせたラシェルにルーシーは苦笑する。
ここが彼にとって落ちつく場所だからなのか、過去を知ったからか、少しばかりいつもより表情や仕草が幼く見える。ちょっと可愛いって思ってしまった。
女性を嫌悪する理由はわかったし、触れるのを厭うまでの体験をしたのに遊ぶラシェル。
矛盾はしているなと感じたけれど、精神的な負荷がどのように発露するかは人それぞれで、安易に他人が意見し決めつけるべき問題ではないとルーシーは思った。
苦しみはラシェル本人のもので簡単に理解できるようなものでもなく、よく知りもしない外野がとやかく説教じみたことを言うのは違うだろう。
まったく気にならないわけではないけれど、無理をして聞き出したいとは思わないのでそう付け足したのだが、ラシェルはお気に召さなかったようだ。
聞いてほしそうにするということは、理由を話したいということなのだろうかとルーシーは改めてラシェルを見た。
「負担でなければ教えてくれますか? 前からどうして嫌いなのに女性と親しくするのだろうとは気にはなっていましたので」
「ああー、何これつらい」
尋ねたら尋ねたで、そんな反応。
やっぱり話したくなかったとか?
でも感想聞かれたしとどうすれば正解なのかわからず、ルーシーは眉尻を下げた。
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