巻き込まれモブは静かに学園を卒業したい【後日談追加】

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
23 / 63

ラシェルの過去3

しおりを挟む
 
 事実のみを淡々と話すラシェルは、思い出すのもつらいのだろう。
 痛いくらいに握りしめられた手がその証拠だ。

 我慢できない痛みではないので、ルーシーはラシェルの好きにさせた。
 壮絶な経験をしたラシェルの女嫌いは義母と義姉のせいで、物心ついた時に身近にいた女性がそんな人たちだったら、嫌悪を覚えるのは当然だろうと思った。

「徐々に骨格もできあがり力でこっちも躱せるようになったけどね。相手も諦めが悪くて、狡猾に薬を仕込んでくるしで、屋敷では一向に休まることができなかった」
「異常です……」
「そういう気質なんだろうね。父に相手してもらえない分、俺を虐げることもできるそれで満たそうとしていたんだと思う」

 歪な思いに巻き込まれ疲弊した心は、身体は成長してもいまだ傷ついたまま。
 心底、最低で自己中という言葉では片付けられないほど極悪な義母と義姉だと思うし、そして侯爵もろくな大人ではない。侯爵がどんな人物かは知らないが、少なくとも親としては失格だ。

「まあ、身体が成長し知恵がついてからは綱渡り状態でなんとかやってたのだけど、疲弊していて。誰にも話せずぐったりしているところを無理矢理暴露させられて、殿下たちに助けられたから。一時期だけだよ」
「殿下たちが……」

 助けられて良かったとは思うけれど、受けた傷は変わらない。
 少しでもラシェルに寄り添うような言葉をかけたいのに、気の利いた言葉が出ず顔を歪ませるルーシーに、ラシェルは声のトーンを上げて続ける。

「そんな顔させたいわけじゃないんだ。できたら知られずにいたかったけど、ルーシーにはいろいろ見られてるし。なにより偽りたくなくて」
「いえ、私が不用意に触れたから」

 ラシェルの心の均衡を、ルーシーがあの時に刺激してしまったのだろう。
 なのに、なるべく重くならないように明るく話そうとするラシェルは根が優しい人だと思う。

「だとしても、俺はルーシーに気づいてもらって嬉しかったんだ。知られたくないのに、気づかれたくないのに、どこかで俺のこの過去も含めてそれでもいいよと言ってくれる人を探してたんだと思う」
「探してた……」
「うん。あと、最終的に父が義母たちを追い出したから縁も切れてるから、今はまったく何も問題ないよ。さっきも言ったけど、ルーシーにはいろいろ見破られていたから、誤魔化すのではなく話しておきたいと思って」
「そう、ですか」

 大変だったのですね、とその場限りのような軽い慰めのような言葉を口にするのは躊躇われた。
 そのすべての苦しみを理解したわけではないし、それらの悲惨な経験を一言で終えるようなことはしたくなかった。
 願わくは、話すことで少しでも気持ちが軽くなることをと思うばかり。ただ、話を受け止めることしかルーシーにはできなかった。

「それで、俺が遊んでいたことについてなんだけど……」
「ああー。女性がとても嫌いなのに遊ぶって、矛盾してますね」

 あまりにも壮絶な過去に、学園ではいろいろな女性と遊んでいたことを一瞬忘れていた。
 手が空いていたら、ぽんと手を打っていたのはないかと、そうだったと軽く相槌を打ったルーシーに、ラシェルがまた口を尖らせた。

「……俺が悪いんだけどさ。ほかに感想はない?」
「なんでそこで拗ねたような表情するんですか……。えっと、ラシェル様が自ら触りにいかないことや、相手から来られたら若干引いていた理由はわかりましたけど、嫌ならなんで遊んでいたのかなと少しだけ疑問に思います」
「少しだけ……」

 なぜか気を遣って告げた『少しだけ』に、むっと声を低くさせたラシェルにルーシーは苦笑する。
 ここが彼にとって落ちつく場所だからなのか、過去を知ったからか、少しばかりいつもより表情や仕草が幼く見える。ちょっと可愛いって思ってしまった。

 女性を嫌悪する理由はわかったし、触れるのを厭うまでの体験をしたのに遊ぶラシェル。
 矛盾はしているなと感じたけれど、精神的な負荷がどのように発露するかは人それぞれで、安易に他人が意見し決めつけるべき問題ではないとルーシーは思った。
苦しみはラシェル本人のもので簡単に理解できるようなものでもなく、よく知りもしない外野がとやかく説教じみたことを言うのは違うだろう。

 まったく気にならないわけではないけれど、無理をして聞き出したいとは思わないのでそう付け足したのだが、ラシェルはお気に召さなかったようだ。
 聞いてほしそうにするということは、理由を話したいということなのだろうかとルーシーは改めてラシェルを見た。

「負担でなければ教えてくれますか? 前からどうして嫌いなのに女性と親しくするのだろうとは気にはなっていましたので」
「ああー、何これつらい」

 尋ねたら尋ねたで、そんな反応。
 やっぱり話したくなかったとか?
 でも感想聞かれたしとどうすれば正解なのかわからず、ルーシーは眉尻を下げた。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...