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アリスの被害者 *sideラシェル④
「ラシェル様は女性が好きというよりは嫌いですよね? 女性だから声をかけるだけで、誰がとかはどうでもいい。実際は自信のある女性しかラシェル様に近づかないですから、美男美女でうまく遊んでいるという感じですけど。なぜ、嫌いなのに遊んでいるのかは知りませんが、それに私を巻き込まないでください」
ルーシーは話せば話すほど、意外性に満ちている。
まったく考えもしないところから、いきなり核心を突かれてすぅっと気持ちが冷めながらも、目の前は真っ赤になり何かが溢れ出ようとする。
コントロールできない気持ちのまま、言い過ぎたと謝罪し部屋を出て行こうとするルーシーを捕まえた。
お前が何を知っているのだと。
決して知られるはずのないそれを、どうしてそんな簡単に暴くのだと。
本当は汚らわしい女のくせに、と。
誰をもそう思っているわけではないし、性的なことを匂わされたわけでもないのに、一気に心が冷えていく。
思わず詰め寄ってしまったが、同じように冷えた視線でルーシーが自分を捉えると、そっちが絡むのならばと容赦ない言葉が降ってくる。
「ラシェル様は女性が憎くて仕方がないのですね。そんなに嫌なら触らなかったらいいのに」
濁すこともなくずばりと言い当てられて、冷えた気持ちとともにその奥に芽生えかける自分の感情に戸惑い、ラシェルは動けなくなった。
まさか、そこまで接点のなかった人物に、本当は女性に触れることも嫌で仕方がないことを見破られるとは思わなかった。
そのせいで、対応がまずく感情的になってしまった自覚があり臍を噛む。
「私はそっとしておいてほしくて、無駄に口説かれるのは迷惑というだけですからあまりに気にしないでください。正直、ラシェル様が女性が好きだろうが本当は憎かろうがどっちでもいいんです」
明らかに言わせてしまっているこれは、自分の対応が悪かったせいだ。
ラシェルが絡まなければ、ルーシーは気づいていたとしても何も言わなかっただろう。
ルーシーはまさに今日魅了魔法が解けた状態で、いろいろ不安だった時にと思うとさらに罪悪感が募る。
何か気が利く言葉をと思うのだが、見抜かれた衝撃は大きくて何も浮かばない。短い言葉しか反応できず、自分のポンコツ具合に情けなくなった。
自分が悪いのに、言わせてしまったのに、結局は気遣う言葉をかけられる。
そこにはラシェルの気を引こうだとか、吐き出した言葉を許してもらおうだとかもなく、ただ悪かったと思う気持ちだけが乗せられていた。
過去に引きずられている自覚はあるが、自分なりに折り合いをつけて上手くやっていると思っていた。
なのに、見破られ、あまつさえ気遣われ、それでいてラシェルが女性を好きだろうが憎かろうがどうでもいいと言われたことに、ラシェルの気持ちは今までにないくらい乱れた。
ルーシーの言動はまったく予測ができない。どうしても感情が乱される。
落ちつきなくラシェルは手を閉じたり開いたりと己の手を見つめるが、どうしていいのかわからない。
そんな自分をどう思ったのか、とても柔らかで穏やかな口調で話しかけられる。
「はい。あと、その右目もどうして隠されているのかは知りませんが、私はとても綺麗で優しい色だと思います。これも私の主観なので捨て置いてください。では、失礼します」
それとなく隠しているつもりの右目のことにも触れられ、それも綺麗なのにと気遣う気持ちだけを乗せられる。
なぜ隠しているのかとかは微塵も興味がないとばかりの言葉は、ほっとするはずなのになぜか寂しい気持ちも沸いてくる。
結局ろくな反応ができないままのラシェルを置いて、ルーシーは頭を下げて出ていってしまった。
お前に何がわかるのかとの無性に苛立つ気持ちもあるし、最初はその気持ちが強く湧き出る感情のまま思いっきり汚してしまいたいと思った。
だけど、今はそれ以外のよくわからない気持ちが渦巻き、自分でも把握できなくて胸の辺りがもやもやした。
「ルーシー・マレット、か」
強く掴んでしまった細い手首の感触がやけに残る。
ラシェルはその手をじっと見つめながら、しばらくの間、教室で佇んだ。
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