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2-My goddess-【千歳SIDE】
40俺の女神②
しおりを挟む「抱き心地も想像以上だ。お名前なんですか?」
思わず本音が漏れてしまったが、もういいだろう。
彼女を逃すつもりはないし、それよりもいつまでも彼女と呼んでいることの方が問題だ。早く名前を呼びたい。
「俺は高塚千歳。で、名前教えて」
「都築、莉乃です」
ああ、やっと名前を知れた。
つづきりの。どう書くのかな。また後で聞こう。あと、連絡先は必ず聞く。これは絶対。
腕の中から逃れようとしているが、小さなりのの力なんて簡単に封じ込められる。可愛らしい抵抗にもっとぎゅっとしたくなったが、さすがにこれ以上すると嫌われるかもしれないと思って自重する。
りのの使ってるシャンプーの匂いかな。ずっと花の香りがして、いい匂い。
ああ、こんなにも俺の中はりののことでいっぱいだったんだ。
────りの、りの。りの、可愛い。これで彼女を名前で呼べる。俺の、りの。──……やっと見つけた。俺の。
今まで感じたことのない熱い衝動を押し込めながら、この後の予定を訊ねる。
すると、りのが左の友人へと視線を送ったので、『俺に譲って』とにこっと笑いながら視線は圧をかけておいた。そしたら今度は反対へと視線をやったようだったので、そちらも同様。
何事も初めが肝心だ。多少強引でもりのとしっかり繋がりを持つ。りのと過ごす時間を増やして、俺といることが当たり前になってもらわなければ。
でないと、俺が耐えられそうにない。
こんなにも、りのと離れたくないと感じている。渇いた砂のように、りのに飢えている。
もう重症だった。
察しのいいりのの友人の協力とともにうまく誘導して、この後一緒に過ごす流れに持っていくことができた。
りのがいる、りのと過ごせると思うだけで周囲の騒音は聞こえない。りのの声だけを聞きとることに、全神経が集中する。
戸惑いっぱなしのりのが逃げないように彼女の鞄を取り上げ、反対の手でりのと手を繋ぐ。
よし、これで大丈夫だ。
きゅっと繋いだ手を握り、ぐいぐいと引っ張っていく。
一時も離れたくなくて、下駄箱から彼女の靴を下ろすのを手伝い、履いている時も手を繋いだままでいた。
りのがもの言いたげにしていたけど、知らないふり。
だって、どうしようもない。少しでも離れるのが嫌なんだ。早く、りのと二人きりになりたい。
ここで拒まれると心が凍って機能しなくなりそうだ。
それを考えるだけで、表情が硬くなった。少しでも離れていこうとする素振りを見せられるだけでもうだめだ。
さらに戸惑ったりのを見て、慌てて笑顔を作りお願いする。
困らせたいわけではないのだけど、どうしても一緒に過ごしたい気持ちが勝り、絶対ここでしっかり捕まえなければと焦っていた。
目を離したすきに彼女がまた隠れてしまったら、どうすればいいのかわからない。
今まで当たり前のように過ごしてきたことも、りのが自分の前にいると思うだけで、それが失われると思うだけで情緒不安定になる。
それだけりのの虜だ。
「………………だめじゃない、けど」
消極的だがようやく言葉でお許しをもらい、ほっと安堵の息が漏れた。りのの意思でついてきてくれることに嬉しくなる。
「……手、離して」
なのに、またそんなことを言うりのが、可愛さあまって憎くもある。自分だけがこんなにも彼女に飢えていて、ちっともこの感情が伝わらない。
彼女にとったら千歳は初対面の男だ。付いてきてくれるだけで感謝しなければいけないのに、りのが自分のことをなんとも思っていないことに打ちのめされる。
「ん? どうして離さないといけないの」
無理だよね。一度繋いだのだから、離すわけないよね。たとえ、りののお願いでもそれは断固拒否する。
「えっ? 手を繋ぐ必要こそなくない?」
必要はある。必要しかない。
目を細めて見下ろすと、ぴくっと彼女の身体が反応した。怖がらせてしまったかもしれない。
千歳はゆっくりと気づかれないよう息を吐き出し、自分を落ち着かせる。
睨んだつもりはないけれど、りのの前ではうまく感情のコントロールができていない自覚はある。
というか、いままで感情をコントロールしようと思ったことさえなかった。する必要さえなかった。
そもそも、こんな風にする予定ではなかったのだ。まさか、自分がこんなことをするなんて考えてもみなかったのだ。
やってしまったものは仕方がないし、多少強引な方がりのも巻き込まれてくれるようなので、このままいくことにする。
素直に引っ張られてくれることに満足しながら校門を出ると、吹き抜けた風に吹かれ、振り返り視界に入ったりのの黒髪が同じように吹かれる。
その艶やかな髪に触りたくなる。
……また、髪は伸ばさないのだろうか。
繋いだ小さな手が愛おしい。戸惑いながらもじっとこっちを見るりのの視線を感じる。
その瞳も、小さな鼻も口も、滑らかな頬も、きっとあの時のせいで切ってしまった髪も。
すべて触れたい。
いくつあっても、手が足りない。
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