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2-My goddess-【千歳SIDE】
41俺の女神③
彼女の存在をこんなに近くに感じ満たされるのを知った今、昨日までの自分には戻れない。
こんなにも強烈に焦がれる相手は初めてだ。頭で考えるよりも先に体が反応し、彼女が欲しいと思う衝動が止まらない。
ああ、どうして見つけさえすればと思ったのだろうか。
千歳も年頃なので全く女性を知らないわけではない。なにもせずとも言い寄られてきたので、それなりに経験してきたし、相手にする女性も好ましいと思っていたはずである。
だが、りのを前にした今、それは他と比べて好ましい、悪くはないというだけだったのだと理解した。
その証拠に、その時は言われてもよくわかっていなかったが、相手が他を匂わせても嫉妬は感じなかったし、束縛はむしろ面倒だと思うほどだった。相手がどうして必死になるのかわからなかったから、すぐに手放せた。
だけど、りのに対しては全く違う。
手を離す、たったそれだけのことがとても嫌だった。一度知った彼女のぬくもりを、手の形をもっと焼き付けたい。
手で我慢しているのだ、と傲慢な己が顔を出す。もっと、もっと、指を絡め隙間なく繋ぎたい。
「…………りの、繋ぐの嫌なの?」
「嫌というか、それ以前の問題で」
「何が問題? 嫌じゃないならいいよね」
「だから、」
「いいよね?」
「あっ、はい」
頑張って反論しようとしているけど、押し切られてしまう優しいりの。ただ、簡単には流されてくれない。だけど、それがまたいい。
たくさん、たくさん、たくさん、俺のすることに疑問を持って考えて、俺に声を聞かせて、そしていつしか俺のすることを当たり前のように受け入れるようになったらいい。
だって、俺はもうすでにりのしかいらなくなっている。
すべてを知りたい、食べてしまいたいと、誰に対しても感じたことがないものを感じ、他の男に見せたくないとすでに独占欲というものを抱いている。
「なら、行こうか。二人きりになれるところ」
「……………」
「りの。緊張しないで。ゆっくり話せるところに行きたいだけだから」
「はい」
ほら、またそんな返事。仕方がないってわかってても、今すぐどうにかしたくなる。
こんな、身の内に獣を飼うような落ち着かない気持ちは知らない。
俺だけしか見えないように閉じ込めてしまいたい。貪り食いたい。彼女の感触を知った今、経験があるだけにやすやすとその先を想像する。
再会して、十数分のことなのにこのざまだ。
正直、自分でもこの先どうなるのか想像つかなかった。
なにせ、この獣の存在を千歳自身も初めて自覚したのだ。これらをどう飼い慣らせばいいのかわからない。
いっそ、獣が求めるように意のままに動けば、すぐさま逃れられないように囲いこんでしまえば、りのは俺のものになるだろうか。
そうしようと思えばできる。千歳にはそれができてしまう。
でも、ダメだ。それは絶対しない。千歳は女神のままのりのを手に入れたい。りのに望んで欲しいのだ。
さっき彼女の名前を知ったばかりの千歳が、いきなり本気を出したらきっと彼女は逃げてしまう。
なるべく彼女が怖がらないように、千歳を当たり前のように受け入れてくれるように、いつものように笑顔を浮かべる。
ぐつぐつ感情は煮立っているのに、笑おうとすれば異性が好む笑顔を簡単に浮かべることができる俺は、女神のりのにふさわしくないのかもしれない。
「りのの手は小さいね」
「……高塚くんが大きいのだと思うけど」
「そうかな」
モデルという仕事をしていたことで、千歳は外面のよさがどれだけ大事なことなのか知っている。
表面的な造形をどう表現するのか、そしてどう相手に印象付けるのか。それがうまくできずに、理想を掲げるだけで落ちていった者たちを嫌というほど見てきた。
それらを肌で感じ、千歳は同年代の者よりもいつしか達観してものを見るようになっていた。面の皮は厚くなっている自覚はある。
人間関係を円滑にさせるために、自分の顔の良さは利用してきた。しろよと先輩からは教えられた。その効果は実証済みだ。
その人物から、いろんな遊びも教わった。なんでも簡単にこなしてしまうため、気づけばチームに入っていたりもしたが今はもう抜けている。
どうしてもそういった綺麗ではないものが見え隠れするのか、若干りのが怖がっている。
意識して無理やり取り繕う。りのには優しく、りのだけを優しくしたい。怖がらせるのは本望じゃない。
ごめんね。腹が黒くて。でも、りのを手に入れるためなら猫を何十だって被る。
それでりのが警戒心と解いてくれるのなら、俺はなんだって利用する。使えるものは使う。
だから、今は怖がらないで。俺と一緒にいて。
「りの、りーの」
「……ん、えっとなに?」
「たくさんりののことを俺に教えて」
落ち着かないのか千歳をあまり見ようとしないりのに、きゅっと強弱をつけて俺を見てと繋いだ手に合図する。他のことに気を取られて欲しくない。
そうやって意識させて、深く考える隙を与えないように、今までのことを埋めるように千歳は質問した。
家族構成や好きなもの。少しずつ彼女の情報が俺の中に入ってくる。質問すれば素直な彼女は戸惑いながらも答えてくれる。
だけど、それだけ。
いや、贅沢なことは考えない。
今は彼女のことを知れることに、一緒にいられることに満足しないといけない。満足させる。
だから、俺からもう隠れないで。
俺の女神さま。
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