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見合い③
しおりを挟む「それでミラが知りたかったことだけど」
「うん」
そう。家ではなくアダムの意向であることがはっきりしたけれど、そしたら今度はなぜメリットもないことをするのかということだ。
同じクラスメイトで困っていたからで動くようなタイプではないことはわかっている。だから、疎いと言われたけれど、さすがにもしかしてと思う気持ちはあった。
「俺さ、入学してからミラがずっと気になってて」
「えっ、彼女いたよね?」
「ああ。さっき話したようにイーサンの存在に俺は一度諦めた組だった。だけど、やっぱりミラが気になって、好きなんだと意識するようになって彼女とは別れた。それからずっと見てても相変わらず仲が良いし、それでもミラは義姉というスタンスは変わらないし、あいつはあいつで威嚇凄いし。だけど、家督もどちらが継ぐかまだ定まっていないというし、イーサンとなんでもないなら俺が立候補してもいいんじゃないかって」
軽い口調ながらもその瞳は真剣で茶化す空気ではなく、私は頷くに留めた。
「ミラ。俺は本気だ。今回のこと強制するつもりはない。俺はあくまで気持ちを伝えておきたかっただけと言えば聞こえはいいけど、正直、あわよくば多少は恩を感じて好感度上げればというのはある」
「それ、自分で言う?」
軽く肩を竦めてなんでもないことのように告げるアダムだけど、その瞳はずっと真剣だ。
「やっぱり弱みにつけ込んだような罪悪感はあるし」
「でも、申し出てくれて私たちは助かったよ。伯爵様も今回の話もまず見合いだけという話で後は私たちに任せるっておっしゃってくださったし。時間に猶予を持てるのは本当にありがたいわ」
あれから私を娶りたいと言ってきた商家の男のことを調べた。
四十代で今まで三人と結婚、離婚を繰り返し、その他にも立場の弱い女性を無理矢理金で関係を持っては捨てているらしく、典型的なクズな男だった。
そんな男のところに嫁ぐなんて嫌すぎる。それを知りアダムの申し出に心底感謝したのだ。
「まあ、伯爵家の家督や金策のことはこれからだしまだ考えられないかもしれないけれど、俺はそういう意味でミラが好きだ。今日はそれを伝えたくて。ミラも不幸になるようなところに嫁ぐくらいなら俺のほうが絶対いい、だろ?」
「ふふっ。そうね」
普段通りのフランクな話し方にアダムの気遣いが感じられる。
本来は貴族同士の見合いは家同士の繋がりにもなるので、本当ならばもっと形式張ったもので私に選択権なんてないようなものだ。
感謝していると、アダムが周囲に視線を走らせ気懸かりがあるかのように低く探るような口調で尋ねてくる。
「で、今日も邪魔が入らなかったってことはあいつには伝えてないんだろ?」
「ええ」
アダムの放つ空気とその内容に、私はぴくりと肩を揺らした。
「ミラ、実際あいつのことどう思ってるんだ?」
「どう思ってるって?」
「家族といえども、血は繋がっていない。あれだけ懐かれて、二人で伯爵家をと思わないのか?」
「つまり、私とイーサンが結婚するってこと? それはないわ」
「なぜ言い切れる?」
「だって、イーサンのは刷り込みだもの」
そして、私は家族。一度失ったことのある家族を、やっと安心できるようになったイーサンの家族の形を崩すことは本意ではない。
「ふーん? なら……」
「なら?」
「ああ、これはいいや。とにかく俺は気持ちを伝えたし、ミラは一度俺とのことを真剣に考えてほしい」
「ええ。何から何まで本当にありがとう。今日は両親も心配していると思うから帰るね」
気持ちがあっての申し出だと知れて、気持ちは随分アダムに傾いている。
だけど、やはりどこかでイーサンのことが気にかかって、この中途半端なままではアダムに失礼であるし、アダム自身も気にしているのが節々に感じられてこのままでは駄目だと思った。
「そうか。送っていこう」
「ううん。考えたいこともあるし散歩しながらゆっくり帰ろうと思って。ちゃんとアダムのことも考える」
「……そうか。商家のこともあるから気を付けろよ」
「うん。ありがとう」
最後にそっと頬を親指で優しく触れられ、どこか寂しそうな瞳で見送られる。
その視線の意図は気になったけれど、まず私の中で答えを出さなければと笑顔で手を振りその場を後にした。
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