【書籍化&コミカライズ】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます【2/20取り下げ予定】

橋本彩里(Ayari)

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第二部

物語の本筋

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「それで、ベリンダ・マッケランが狙っていたのは、ピンクダイヤ――展示される予定のピンクローザだとフェリシアは思うんだな」

 こくりと頷いた私に、デュークは考えるように顎に手を当てた。
 侯爵邸の客間。ベリンダの件があってからできるだけ話す時間を増やしいこうと、送ってもらった際は屋敷に寄るようになったデュークと向かい合って話していた。

 本日のイレイン王女たちの交流会を経て私が考えを述べると、デュークは穏やかな顔から厳しい顔つきになった。
 私はできるだけ深刻にならないよう、だけど気になっているのだと伝えるべく言葉を重ねる。

「彼女は自分が特別で幸せになるべきだと言っていたので、永遠の愛の石言葉がある宝石は彼女の好みではないかと思ったんです」

 忘れもしない。正確には『ヒロイン』で特別だと、デュークと恋人になって幸せになるはずだと、幸せにしてもらうと言っていた。
 解決した今でも、当時のことを思い出すだけで絶対デュークは渡さないという思いが湧き上がる。それくらい随分と勝手な言い分だった。

「確かにピンクローザは唯一無二のもので、逸話の話も女性に好まれるような話だとは思ったが……」

 デュークはそこで眉を寄せた。

 ――まただ……

 デュークは最近よくこのような表情をする。イレイン王女といるとき、ベリンダの話が出た時は顕著で、私と視線が合うとほっと息をつき、取ってつけたような笑顔を浮かべる。
 そして、何やら決意を込めたような、縋るような眼差しでじっと見るのだ。

 ベリンダのことでイレイン王女を警戒する話はしていたので、反応すること自体はそこまで不思議ではない。
 だけど、あまりにも様子がおかしくて、ベリンダ、王女関連ならなおさら何を思っているのか知りたくて、今もベリンダについて考えを述べ反応を見ているところだ。

「今となってはわかりませんが、もしかしたら彼女はそれを見越して、デューク様に固執していたのではないかと」
「最悪だな」

 デュークが心底嫌そうに顔をしかめた。
 ベリンダのことを考えるだけで、常に嫌な気持ちが付きまとう。

 自分だけではなく、周囲にも及ぼすそれはさっさと切り捨ててしまいたい。だけど、悪巧みは露呈し追放され終わったからと捨て置けない。
 なぜなら、私は彼女が転生者であり回帰者であることを知っている。

 しかも、転生は私の前世と同じ物語の記憶があり、その記憶は私よりも鮮明で物語で何が起きるのかを把握しているようだった。
 転生者であるベリンダはピンクローザが採掘されると知っていたのなら、これまでの行動はものすごくに落ちる。

 ベリンダのデュークへ向けられたものは純粋なものとは程遠く、やけに自分は愛されるべきだとこだわっていた。
 デュークの見目や地位、気質といった上辺のものだけで彼を好み、ヒーローだから執着したのだと私は考えていたが、さらなる目的があったとすればあの異常行動の意味も変わってくる。

 実際にこの世界でも女性が好む逸話もあり、物語でもそういった設定がされていたのなら見方も変わる。
 ベリンダが目指していたのは両想いのその先、デュークから愛の象徴であるピンクローザを贈られることだったとしたら?

 デュークに拘り、愛されるべきなのだとの妄言を巻き散らすほどの執着は、両想いそれが前提にないと話が進まないため、過程よりも終着点に重きを置いていたため。
 あの杜撰ずさんな行動は、愛も宝石も、ヒロインなのだからすべてが自分のものになると信じていたからに違いない。

 恋愛物語のヒロインが幸せの象徴としてピンクローザを得ることがハッピーエンドとなると考えると、ベリンダの性格や執着の理由が以前より理解はできなくともわかる気がした。
 あくまで私の推測だ。
 だけど、ピンクローザの存在はベリンダに対しての、これまであった言葉にできない気持ち悪さを説明している気がした。

「デューク様はクリストファー殿下の側近ですので、あわよくばと思ったのではないでしょうか」
「可能性としてはわからないでもないが、そうなると俺である必要はなかった気がするな」

 デュークはつっと眉を寄せ、おもむろに顔をしかめた。

「……それは、彼女にも好みがあったとしか」

 さすがに物語のヒーローだからとは言えない。

 ――ほんと、勝手すぎる。

 は、と私は息をつき、ゆっくりと瞼を下ろした。
 騒動が解決してまだ半年しか経っていない。短いようで長く苦しみ悩んだ日々は、ふと思い出せば今しがた体験したかのような感覚さえある。

 まだ物語は終わっていないと、物語の本筋に近づく情報を得るたびに、物語を、死に役について意識する。
 死に役回避について、未来の心の安定のためにも少しでも違和感や情報を逃したくなくて、私はデュークに声をかけた。


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